表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

食パン・ミーツ・食パン

 日曜の昼下がり。風が気持ちよく吹き抜ける公園のベンチに、一斤の食パンが座っていた。端からみれば、ベンチの上に食パンがそのままぽんと置いてある、奇妙な光景である。

 しかしそれは、誰かの置き忘れでも、前衛芸術のパフォーマンスでもない。

 朝倉トースト、休日の散歩中である。彼はゆったりと大きく伸びをして、リラックスした様子だ。

 この公園には、ハトがほぼ居ない。食パンにとってのハトとは、湿気と並ぶ生涯の天敵である。奴らはパンと見るや襲い掛かり、食い殺そうとしてくるのだ。トーストにとって、ハトの居ない安心して通える公園は、貴重だった。

「うーん、天気がいいな……発酵が進んじゃいそうだ……」

 そんな独り言を呟いていた時だった。植え込みの陰から、食パンに似た物体が飛び出してきた。

「わっ」

 トーストの前を横切ったのは、パンではなく、犬。ぷりぷりのおしりが食パンそっくりなウェルシュ・コーギー。首輪はしているが、リードはなし。ぴょこぴょこ走り回って、明らかに誰かを探している様子だ。

「……ノーリード散歩か?全く……」

 犬の尻を眺めながら小声でつぶやいたトーストだったが、状況を理解するのに時間はかからなかった。周囲を見廻しても、飼い主らしい人の姿が見えない。

「こりゃ、迷子犬か……!」

 すぐさま、コーギーのもとにふよふよと近づいていくが、近づきすぎてはいけない。一定の距離を保ちつつ、とりあえず犬に語りかける。

「大丈夫、お〜よしよし。グッボイグッボイ……」

 犬は「わん」と一声。トーストのまわりをぐるぐると駆け回ったあと、その場に座った。

「おお……人懐っこい。いや、パン懐っこい? いや、意味分かんないな……」

 迷子犬なら早急に保護して、交番にでも連れて行くべきだろう。しかし、自分はパンである。迂闊に動物に近づくと、齧られかねない。つまり、死のリスクがあるのだ。

 いやいや。いやいやいやいや。流石に命は賭けられない。この犬は大人しく良い子っぽいが、生き物をナメちゃあいけない。

 かといって、迷子犬をこのまま見捨てるのもどうかと思う。トーストとて、動物は好きなのだ。ただ、恐ろしくて直接は近付けないだけで。動物好きの人間だって、ライオンと檻の中で直接触れ合いたい者はそう居まい。

 とにかく、このままでは犬もパンも困る。近くの通行人に助けを求めようとした時。

「……トーストくん?どうしたの、そのワンちゃん」

 ふいに聞き慣れた声。振り返ると、日傘を差した朝霧ほのかが、きょとんとした顔で立っていた。

「ほのか……!この子、迷子っぽいんだ」

 パンの身では動物に近付くのも命懸け、代わりに保護して、交番へ連れて行って欲しいとトーストは伝えた。

「そりゃ大変だね……。分かった、連れてくよ」

 可愛らしいワンピースに犬毛が付着するのも厭わず、ほのかはコーギーを小脇に抱える。このコーギーにしっぽは無いが、代わりにパン型のお尻が嬉しそうにピクピク動いた。

「サンキュな、ほのか。助かった。ところで、やっぱりこの犬の尻……パンだよな?」

「うん、食パンだね」

「だよなぁ」

 ほのかに抱えられた犬の尻を、(俺もあんな感じかぁ)と思いながら、トーストは眺めていた。

 こうして、パンと女子高生とパン型おしりの犬は、休日の午後にひっそりと奇跡の出会いを果たしたのだった。


 保護された迷子のコーギーは、無事に飼い主のもとへ戻った。そして交番にはしばらく「パンがパンを保護した」という伝説が残ったという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ