ネコに恩返し
初日。
「ハァハァハァ・・・、嘘でしょ。何でこんなネコが。何なの・・・。グッ、ガハッ・・・」
「おい、逃げろ早く、このネコは危険だ。俺達では勝てな・・・、クソが〜」
「ふざけんな。こんなの反則だろうが。機関にほうこ、グ、ハァッ、どうなんってん・・・」
「ハハハ、分かった分かった、降参だよ。ほら殺せ、って人間様の言葉が分かんねーよな。クソネコなんかによー・・・」
それから一週間後。
何だよ、コンビニに続いて本屋も閉店かよ。パン屋もたこ焼き屋も閉店するし。近所のお気に入りが無くなっていくと、俺が疫病神みたいじゃんかよ。確かに見た目はあまり宜しくないが・・・。大学のゼミの連中からは、陰で借金取りのアルバイトをしているなんて言われているし・・・。
さらに一週間後。
元々動物は好きではないし、ただの気まぐれだ。パチンコで今月のアルバイト代、全てとかしてしまった。やってられないと思いながらコンビニに立寄る。いつものように弁当を買おうとすると、ふといつもは素通りする棚の商品に目が止まった。猫のエサの缶詰だった。アパートに帰る路地裏にはノラネコをよく見た。よし、奴らにエサをやり、徳を積もう。そうすれば神様がパチンコで勝たせてくれるかもしれない。そんな邪な考えをもちエサを買って路地裏に向かう。夜の9時で人通りも少ない路地裏とはいえ、ネコにエサ禁止と書かれている看板があるから誰かに見つかったら面倒だ。俺は袋から缶詰を取り出して蓋を開け、屋根から俺を見下ろしていたネコに見せる。ネコはすぐに降りてきたが、それでも近づこうとはせずに、三メートルは離れてこっちを見ていた。俺は缶詰の中身を地面に出す。
「ほら、早く食ってどっか行け。近所の人に見つかるとうるさいからな」と缶を回収して離れながらネコに言う。
するとネコは、走るでも歩くでもない不思議な進み方でエサの場所まで来て食べ始めた。
何か、雰囲気ある猫だな・・・。
ニャッ?これは一体、どういう事ニャ?
なぜ、あなたがワタシにごはんを?
もしかして、バレているのかニャ?
いやいや、そんなはずはないニャ。
あなたが奴らに監視されていたこと、そんな奴らをわたしが始末したことなんて知らないはずニャ。
奴らの動き、雰囲気はどう見てもただの変質者やストーカーではないニャ。間違いなくプロ、それも一流のニャ。超一流のワタシだから、どうにか出来たニャ。
パン屋のアルバイト女子高生、たこ焼き屋の夫婦、コンビニの社員、本屋の店長。一人暮らしのあなたのアパート付近にいたそいつらは、あなたを監視していたニャ。殺気を感じる時もあったから危なかったニャ。
なぜ、あなたが監視され命の危機もあったのか、そんなことはどうでもいいニャ。
理屈じゃないニャ、本能ニャ。
奴らの外見は善人のように見えるが胡散臭く、何より血生臭いニャ。
でもあなたは怖そうな見た目とは裏腹に、隠し通せない内面の良さが溢れているニャ。
このごはんの恩も含めて、ワタシは訳の分からない奴らからあなたを守るニャ。
それから三ヶ月後。
今日は新台オープンで抽選番号を祈りながら出かける。すると、アパート先でネコが死んでいた。車に轢かれたのだろうか。放っといても誰かが始末するだろう。俺には関係ない、そもそも動物は好きではない。何より今はそれどころじゃない、新台オープンの日なんだ。だから俺は家に戻りタオルを持って猫を包み空き箱におさめると、自転車に乗り動物霊園を目指す。ネットで調べたら1時間、何をやっているんだか。今日は新台オープンの日なのに、もう抽選は始まっているのに、俺はどうしてこんな。あっ、無意識に徳でも積もうとしているのか?そういえば、三ヶ月くらい前に、路地裏でノラネコにエサをあげたな。徳を積もうとして。まったく効果なくて相変わらず負け続けているけど。もしかしてこのネコ、あの時のネコか?まさかな。まぁ、どうでもいいけど。今日はもうパチンコって気分じゃないし、供養したら帰って寝るか。
その前日。
ネコは飲酒運転の車に轢かれて死んだ。あれだけの強さを持ちながらも、殺気を持たない相手の気配には弱かったのかもしれない。そもそも機関がなぜ彼を監視していたのか、時折、抹殺待機がでていたのか、下っ端の私には分からない。これまで通りただ上からの命令に従うだけだった。私は夫と共に猫に襲われたが夫が咄嗟に庇ってくれたおかげで、瀕死で済んで生き延びた。普通の人生に憧れて、夫といつか機関を抜けられた時のためにと始めたたこ焼き屋、けれど再開することはもうない。機関はもう身体に後遺症が残った私を不要、つまり殺そうとするだろう。だから絶対安静のなか、命からがら何とか病院を抜け出した。まだ役に立つこと、あのネコの正体を掴み機関に報告するために私は再び彼の下へ向かうと、ネコが私を待ち構えて飛びかかってきた。だがその瞬間、飲酒運転の車が飛び出してきてネコを轢いた。
そして次の日、彼がネコを供養した。
あれから数年が経った。機関による彼の監視は変わらず続いているが、
ネコが死んだ日からは、何故か抹殺待機命令は出ていない。




