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朱い和ぎ

作者: 冬の岬

初めまして。世界中の伝承が趣味で、伝説を読むのが好きです。初心者の小説家であり、日本の神話をテーマにした短編小説も書きました。この物語を日本語に訳してみました。読んで楽しんでもらえば幸いです。それにしても、日本語は外国語ですから、間違いとか、意味の分からない(それとも分かりにくい)ところとか、変だと思わせる語句があれば遠慮なく指摘してください!

 穏やかな夏の夕方だった。外は花火を見るための良い場所を確保しようとする人々の賑わいに満ちている。淡い月はその人ごみをぼさっと見下ろしている。

 休日を喜ぶ元気な子供は大人の側で遊び回ったり、スパーク花火や風車、水鉄砲を振り回したりしている。主人公がその子たちの一人だった。公園の中心へ向かう石の階段で友達を追いかけたり、彼らに信頼の置ける武器から放たれた水を浴びせたりしていた。そのため、石段を降りる歩行者は水の噴射を受けることもあった。

 彼が再び攻撃を試みたが、不意に草履が片足から脱げてしまった。どこに転がってるかとばかりに焦りながら辺りを見回していたが、無駄だった。

「釼ちゃん!遅れないで!」と下から親の声が聞こえた。

「はあい!」

 鋭い眼のお蔭で、ようやく見つけることが出来た。落とし物は土の上に有り、息を吸う木の陰と細い電灯の光の境界に在った。少年は躊躇うことなく木立の中に入っていった。

「何でそこに?」と尋ねた。心から返事を期待していたかのように。

 屈んで、逃亡物を捕まえようとした。しかし、急に後ろの電気が消えたせいで失敗してしまった。最初は手で数枚の草の葉を掴んだものの、結局は探し物を拾うことが出来た。

 眼が少しずつ慣れてきた。だが、先ほどの瞬間に明かりと共に他の物も消えていたことには、未だ気付いていなかった。

 少年は靴を履き、背筋を伸ばして振り向いた。

 虚無。

 真っ暗。

 誰もいないし、何もない。

 人たち、電灯たち、階段が全て消失していた。少年は公園から暗い密林の真ん中に移されているようだった。

「ええと。。。母ちゃん?!」と呼んでみた。

 沈黙。

 と言っても、風に大木の葉がそよいでいる。その時、植物は本当に呼吸していることを信じかけない。彼はそれを意識していたにもかかわらず、確かに誰かの息遣いがとても近くで聞こえているような気がした!

 そんな馬鹿な。。。彼はもう成人した青年だ。今年は八歳に成ってる!もちろん、木が呼吸することが出来るわけがないと知っている。と言うより、人のように息をすることが出来ないだけなのだ。それとも犬のように。

 恐らく、呼吸しているのは暗闇の中で光る二つの点の持ち主だろう。少年はふと、お月さんも隠れていることに気付いた。幸か不幸か、月光無しで外形を見分けることが無理に近い。それに、自分の膝がぶるぶると震えているのを感じた。結果はその光る二点の間近に別の二点――後者の方が前者より小さいか、あるいはより遠いだけか――が現れると同時に少年は振り返り、本当の勇者のように逃げ出し、好きな鉄砲を落としてしまった。

「父ちゃあああん!!!」と必死に叫びながら手を前に差し出して走っていた。

 前方には、絶え間なく動くちらちら明かりが見えた。それはまるで誰かが懐中電灯を持って歩いているようだった。「多分、僕を探してる!」と彼は心を躍らせた。

「父ちゃ!。。」

 足を止めて竦んだ。

 それは懐中電灯ではない。本物の鬼火だ。丁度少年の取り皿くらいの大きさだ。火の玉は彼を通り越し、木の中を彷徨い続けた。仕方なく、少年はその鬼火を追い掛けてみた。

 飛んでいる火の玉は少年が再び闇の中で独りぼっちに残される可能性を恐れるほど速かった。しかし、暫くすると突然、妙な影に襲われた。明かりは消えんばかりにひとしきり瞬いてから、改めて輝いた。だけど、速さはかなり遅く成っていた。少年は立ち止まらずに走り続けていたため後少しで前に見える明かりと誰かの低い姿に追いつくところだった。

「やっと参加出来る」と姿は言ってからいきなり振り返り、走者と顔を合わせた。

 そっちは、竹の棒の先から吊り下がる提灯を持つ普通の同い年の少年のように見える、と走者は息を整えながら判明した。

「どうやってここに来たの?」

「分からない」と迷子は答えた。「ここはどこ?」

「ここにいちゃ駄目。帰れ。」

「そのつもりなんだ!でも出来ない。。。」俯いた。「ええと、名前は?」目を上げた。

「あんたのこそ?」と相手は口答えした。

「ケンタロウです。よろしくお願いします。」近付いて頭を下げた。

「ナギ。」よそ者をじろじろと睨むだけだった。

 その時釼太郎は、唯提灯の光に照らされているにもかかわらず、凪の顔が茶色であることに気付いた。

「凄い!超日焼けしてるねえ。多分、良く海に。。。うわぁ!!!何それ?!」瞳がぎらぎらと煌めき、直ぐに新しい知り合いの額を狙って手を伸ばした。

 凪の頭には指貫くらい小さな二つの角が生えている。一つの角とその勝手な手の指が接触した途端、凪は驚いて跳び退いた。

「触るな!手食いちぎるぞ!一目見れば分かるだろ?!」

「小っちゃい」釼太郎は深切に微笑んだが、凪は酷く気を悪くした。

「何?!言っておくけど、ための中にもう一番長いかも!成長すれば世の中に誰よりも長くなるぞ、絶対!」

 釼太郎は鬼にとって角の大きさが非常に傷つきやすい話題であることを未だ知らなかった。

「悪かった、御免。かっこ好いと思うよ!」宥めてみた。相手の反応からして成功したらしい。

「あんたの思い気にするか。これ以上時間無駄に潰したくない、急がなきゃ。行こ、大人たちに見せてあげるぞ。祭に沢山人集まるし、きっと誰か何すべきか分かるだろ。。。」凪は歩き出した。

「祭り?やっぱ花火見に行くねえ!」

「ハナビって何?」

 凪は唐突に立ち止まった。項からひょっとこの面を外して渡した。

「ほら、顔隠しておいて、念のため。無事に到着出来るよう。」

 釼太郎は従った。束の間で彼らは既に森林の広い道の端に居た。道は十分に照明された。

「ね、凪君、どうやってこっちに着いたの?」

「馬鹿なこと言うな、当たり前だろ?足で来たんだぜ、愚か。」

 その時、人間風の姿をする大きい亀が二足で彼らを通り過ぎていた。鉤爪が長かった。頭には鉢巻のような形を持つ髪と、もちろん、黄色い無毛の天辺が在った。

「見て、河童だよ、まじ!」釼太郎は声を上げ、手を伸ばし、指を突きつけた。

 河童は煩い少年を見つめた。

「ふん、何たる無礼者!」難色を示し、嘴を高く上げ、道を歩き続けた。

 凪は釼太郎の手を掌で叩いた。

「何やってるぞ?!失礼んだ。あのなあ、黙っていた方が」と言掛けた時に、銀髪と青い眼を持つ年上らしい少女が近付いてきた。

「あらら、凪は友達を作ったじゃないの。。。しかも他所のを。」釼太郎に手を差し伸べた。

 彼は親しい仕草に励まされ、急いで友好的に握手を返した。手が合う途端に少女は目を見開いた。それに少女の瞳が小さくなった。少年は、まるで煮え湯で火傷したように、手を引き離した。しかし、事実は熱湯ではなく、大変冷たい感触だった。彼女はその反応を悪戯好きの笑顔で眺めた。

 少女に同じ銀髪と青い眼を持つ奇麗な女性が寄り付いたら、釼太郎は寒気がした。雪女に決まっている。

「可愛い息子ね。ずっとこんな子を望んでたの。火禾子は?弟が欲しい?」美女は満面の笑みを浮かべながら唇を舐めた。

「弟なんか要らない!行こ。」火禾子は母の袖を引きながら促した。

「あんなに優しくて美しい人。。。」と釼太郎は、まるで魅了されたように、驚嘆の溜め息を吐きながら眠そうに呟いた。

 凪は鼻を鳴らした。

「そんな人、優しいほど二人きりんなるのが恐ろしいんだ。」

「何で?」釼太郎は我に返った。

「僕から離れるな!」と凪は言葉を投げつけた。

 釼太郎に残されたのは観賞のあまり頭を回すことだけだ。

 その間に、頭に麦藁帽子を被り、手に酒の瓢箪を持ち、胸を張っており、濃い茶色のふわふわな毛皮(薄い色の腹を除いて)で、ずんぐりむっくとりした二人の獣人が彼を通り越した。きっと狸だろう。どちらも足の間に膨らんだ二つの革袋を地面に引きずりながら歩いていた。

「ね、凪君、あの物は。。。」釼太郎はその革袋を顎で指し示した。

「ああ」と凪は答えた。「あんたの考え通りだ。」

 その時、長い鼻と赤い顔の天狗が頭上で飛び過ぎた。近くで中央に頭が付き、炎に包まれた幾つかの車輪が転がっていくのを見て、そちらは知らないと少年は心の中で言った。非常に細長い蛇のような首を持つ三人の女性を見た時、そちらもと思った。別の所は、道端に沿って剛毛に覆われた巨大な一本の足がどたどたと跳ねていた。釼太郎はじっと見つめていたが、顔を高く上げても上半身がおろか、側で歩いている二本目の足さえもどこにも見当たらなかった。。。

 周りには子供たちが鬼火を追いかけたり、火の玉を提灯で捕まえようとしたり、毬投げをしたりして遊んでいる。子供たちの眼や腕、足の数は主に奇数である。。。それは他の変なものに比べ割りと可愛い。

 釼太郎の目を引いたのは、手に扇子を持ち、派手な蝶柄の着物を纏う女性だった。彼女は下駄を履き、か細い脚を優雅に動かしていた。六本も持った!背後には、裸の蜘蛛の腹部が律動的に振動していた。興味深い少年の視線を感じ、女性は彼に向かって一度瞬きをした。。。八つの目の内、四つの目で。

「ぎろぎろ見つめるな!まるで絡新婦を。。。」凪は言葉を吞み込んだ。

「はい?」と釼太郎は慌てて言った。

「何でもない。」

 少年の耳に妙なる調べが届いた。その唄。。。の歌詞が人間の言語なのかどうか釼太郎には解りにくかった。やがて奏者がやって来た。

「にゃあにですか。まさか人類の子供が、仮面の後ろに隠れるだけで済むと思いみゃあせんか。」

 もふもふとした前肢は鋭い鉤爪で上手に三味線の弦を弾いていた。

「あの。。。とっても素晴らしいお歌いです」と少年は何とか答えることが出来た。猫又に違いないと思った。

「ごろ、有り難うございみゃあした。」猫又は唇を舐め、服装から突き出た尻尾を振り始めた。

 釼太郎はその尾に目を奪われた。誘惑が余りにも強すぎ。。。

「そのつもり今直ぐ捨てろ。」隣を歩いている凪は忠告した。

 猫又はますます遠ざかる一方で、少年は彼女の尻尾を眺め続けていた。。。偶然に、前を歩く三尾の狐の一本の尾を踏んでしまった。

「よくも私を踏み付ける、人間の下種奴!」

「済みません。」釼太郎は恥ずかしく頭を下げた。ゲスメって何なのかと思った。

 以後は様々な方向から「どうして人間の子がここに居るの?」という驚きに満ちた台詞がよく耳に入ってきた。

「ち、全部提燈持ってないあんたのせいなんだから」と凪は歯を食いしばりながら言った。

 結局、限界に達したようだ。

「おい、仮面を返せ。」

「え?何で?」

「今直ぐ取れ!」

「気にしないで。凪には物凄く怒るのは河童の屁みたいなもんだよね。」一つ目の傘が口を挟んだ。

「全然怒ってない!!!」

 傘はそれ以上何も言わず、唯笑うばかりで、一本足で先に跳び去った。目すらない半分開いた櫃がその傘に従っていた。幅広くて長い舌を地面に引きずりながら。

「取れってば!」凪は無理やり仮面を引き取った。

「いたっ!」釼太郎は直ぐに項を掻いた。

「なっちゃん!何してるの?失礼でしょうね」と優しくて厳しい声が聞こえてきた。

 後ろには角のある綺麗な女性が歩いていた。母ちゃんより二倍大きい、と釼太郎は思った。

「凪、まさか新たな小動物が飼いたくないんだろうか」女性の傍に歩く男性が釼太郎を顎で指し示した。「あの兎、何の事故に遭ったのか、良く覚えてると思ったが。。。」

 男性はがっしりした体付きだった。頭には象の牙のような二本の角が生えていた。父ちゃんより三倍大きい!

 二人の男女は凪と同様に顔が茶色い。

「父さん、もう五歳じゃないんだから!タロウが帰れるよう、手伝ってあげるだけだよ。ぬらり爺さんから手助け貰えるかも?」

「ふーん、この場合、大御神もご援助をくださるかもしれません」と男性は深く考えながら言った。

「くださるか、あるいは。。。」女性は釼太郎にちらりと流し目を送り、唇を舐めずにはいられなかった。

「母さん!」凪は母の浴衣を一度引っ張った。

「いや。。。御免。きっとくださるよ」と言ってから、女性はぴったり付けた指で口を覆いながら「ふふふ!」どこか不吉に笑った。

 それを見た時、釼太郎は思わず知り合いに肩が触れ合うほどに近寄ってしまった。

「やっと分かったみたいだ」と凪はぶつぶつと呟いた。

 不意に釼太郎は森の中を流れる多人数の川の一滴に成ってきた。川はやがて広大な大勢の海に流れ込んだ。海の中心には、島のように、でっかい木が聳え立っている。富士山よりも高いかも知れない!うごめく生き物は巨木を取り囲んでいる。

 その群衆の内には狢や羽犬、濡女、鎌鼬、提灯小僧、大型の狼、魚形の妖怪、野菜の化け物、長い耳と禿頭を持つ老人、幽霊、取りつかれた石像や小袖、帯までも居る。皆は木の根元から射す魅力的な光に浴している。光は釼太郎が手で目を覆うほど強かった。

「ようこそ、皆様!」至る所から同時に、数千の鈴が素敵に鳴り響く音に心を奪われるように、恰も天と空と地そのものが話し始めたように、清らかな女声が聞こえてきた。

「最初は珍しいお客さんと近付きにならなくてはいけません」とその声が言うなり釼太郎の前に立っているお化けたちは一斉に二つの部分に分かれた。少年はいきなり凪に背中を押された。「ぐずぐずするな。行け。食いたかったらもう食いてるんだろ。」

 釼太郎は躊躇いながら歩を進めた。間も無く眩しい光の緞帳が消散した。大神が前方に姿を現した。豪華絢爛な着物を身に纏っていた。顔立ちと肌は雪女よりも美妙で真っ白かった!長い直毛の黒髪は所々に金色の線を持っていた。大神は巧緻に彫刻された木製の王座に座りながら股の上で、側に横たわる青緑の竜の頭を撫でていた。

「私たち、怖いんじゃないですか」と二人の間に数歩の距離が残った時に問うた。「でも、正直に応えなさい。嘘を付いてみたら直ぐに分かりますから。」

「ううん、怖くないです。」周囲を見回した。無数の妖怪と他の化け物は裸で居たり、普通の服を着たり、途轍もない衣装をしたり、尻尾を持ったり、爪や牙も有したり、毛深かったり、恐ろしかったり、気味悪かったり、可笑しかったりしている。。。方々は周りに立っている。「むしろ、好きだと思います。」

「ここで、新しい仲間と一緒に住めばどうですか?永遠に。誰も悪いことはしません。約束です。」

「永遠に?」おずおずしていた。「父ちゃんと母ちゃんは?やっぱり帰りたいです。」

「そうでしょうね。」女神は溜め息を吐いた。「ちょっとこっちにお出で。」

 少年の頬を両手で包み、目を視た。肌がその手に当てられた途端、釼太郎は言葉で表現できない温かさと、愛する母親の抱擁だけが与えられる優しさに満たされた。初めに女神は目を細め、後で何かを見付け出したかのように顔が怒りの陰で曇った。それでも、表情は早く僅かな悲哀に変わり、そして深い悲痛に変わり、それから何故か視線が凪に向いた(鬼の子は急いで母の背後に隠れた)。最後に女神は微笑んでみたが、その笑みは苦味がかっていた。

「そのため、人類は王土に侵入しないように全力を尽くしています。でも時折誰かが必ず通り抜けてしまいます。。。とにかく、長い道程をご苦労様でした。私たちと一緒に今夜を祝いましょう。終わったら弟様は家に戻されます。」

「弟。。。様?」

 大神は竜を目で指し示した。

「凄い!竜様に乗れ!。。」

「とんでもない」と怒鳴られた。「口で運ぶんだ。我が舌を乗れるだけだ。」

「超すごおおい!!!」

 それからの晩は華やかな色彩や楽しい音楽、面白い怪談に満ちている。参加者は歌ったり、踊ったり、談笑したり、喧嘩までもしたりしている。。。誰もが一本の木の下で。釼太郎は感動のあまり頭がくらくらしていた。最終的にでかい木は燃え上がった。燃えるというより、火炎そのものとなった。多彩な炎は驚異的で絶大な火の鳥に変身し、空高く舞い上がり、夜空を数周ぐるぐる回った。

 消灯。

「...郎。」

「…太郎。」

「釼太郎!」

 目が覚めたら、病室に居た。気を失っていたそうだ。程無く、一つの草履を握り締めたまま、木立の中で寝ている状態で見付けられた。

 その奇妙な出来事が現実に起こったことを示す証拠は何もなかった。。。それは、数週間後に凪は無くした水鉄砲を返すために現れるまでの話だ。鬼の子は角を人目に曝すのが怖がっているから釼太郎は自分の野球帽をあげた(どうして本人が帽子とかで額を隠す単純な方法を考え付かなかったのか不思議に思いながら)。そうして二人は友達になった。

 年は経っていった。滅多に会わなかった。毎月すら会うことが出来なかった。偶に釼太郎の世界で、偶に凪の世界で会った。新しい鬼の友人は何故かどうしても人間の住宅に誘いを拒んだ。そのため釼太郎は、カラオケや動物園、遊園地、ゲームセンター、運動場などの場所に行くか毎回頭を働かせた。一回、花火を見たこともあった。

 釼太郎は凪が平凡な物に気を取られ、興奮している態度を見るたびに少しだけ気まずく成った。。。本物の奇跡が起こる世界は凪のだから!とは言え、妖怪の国に居た時にどの様に遊んでいたのか、記憶は何時も霧深かった(それは大神が王土訪問を許すの必要条件だ)が、毎回間違いなく驚きと呆れを齎す出来事に出会ったことは覚えていた。

 十二歳に成ったあとで釼太郎は非常に病気になり、死に瀕した。幸いなことに、ようやく回復した。しかし、どういう訳か二度と凪と会わなかった。


 この阿呆、知り合った晩中ずっと気付かなかった!少女であることに。その後、無論、この下らん誤解はいつだって解けるんだが。。。もっと都合の良い時機を待っていた。当人が毎年全く気にしそうもない。。。腹が立つ!奴の暢気さは腹が立つ。全部打ち撒けることは自分にとって会えば会うほど難しいのもまた腹が立つ。怒らずにはいられないこと。。。最も腹が立つ!

 これは或る日の災厄までの話だ。釼太郎は死に掛けている。人間の薬師が頼りにならない。ち、全てが上手く行くことを望むんなら、自分自身でやるしかない。でも計画に次の邪魔が入った。彼の両親はお宅の共有者に良い扱いをくれないことを知ってきた。凪は心を込め、粉薬を釼太郎にやるのを頼み込み、遂に座敷童子に協力をもらうことが出来た。

 残念ながら、これから凪も長い間具合が悪くなっていた。治ったあとで、あの餓鬼のことをちょっと後回しにしてしまった。若い鬼の一生で一番重大であり、一人前入会儀式という試練が迫っていたんだから。家族の名誉を保たなければならなかった。。。ところが、この試練は意外にも簡単過ぎるものだった。

 ざまあみろ!部族の中、あんたらよりも最上だ!これを一本の角だけで成し遂げたぞ!何でも出来る。傲慢に胸を張っている。もう肩まで届く金髪を撫で下ろした。今度こそ奴を訪ねて本性を表し、唖然とした顔を観て楽しむ。こっそり裏庭に、奴の部屋の窓を叩くの前回とは違って、今回は呼び鈴を押して家の中に入る。友達。。。ではなく、彼女として!

 果たし損なった。凪は釼太郎が知らない女の子と一緒に家の中に入るのを目撃した。二人は笑い合っている。彼の部屋では、机を挟んで向かい合って座りながら本を読んだり、クッキーを食べたり、レモネードを飲んだりしている。。。

 最後の遊びから、たった二年過ぎた!!!

 死神のごとき顔立ちで帰った。二親は、ずっと娘を待っていたかのように、直ちに居室から玄関に出てきた。父さんと母さんを完全に無視して、自室に向かった。

「さあ、釼太郎のこと、どう行ったんだい?」と父は聞かずにはいられなかった。

「煩い!」と母は囁きながら夫の横腹を肘でそっと突いた。

「ケンタロって誰?」と娘は活気のない声で答え、部屋に閉じこもった。

 年は経っていった。凪は一度も人間の友のことを口にしなかった。まるで全く忘れていたように。しかし、或る日遊びに来た知人の座敷童子は元の同居人が遂に別れて引っ越したことを教えてしまった。転居の原因は若い息子が悪い人たちと関わり、借金を積み重ね、殺されてしまったことだった。

 凪は家を飛び出していった。

 何で?!何も感じるはずがないのに!!!

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 凪が釼太郎の墓石の前に座っている間、どうあっても聞くてはならない(と何度も言い繰り返され、戒告された)聲は聴こえる。

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 その時、凪は単に自分を放して。。。落とした。舞踊に。舞踊は狂瀾と暴風そのものであり、赤い。最後の最後の悪人に罰を与えるまでは、終わりが無い。何という快い忘我。大御神の愛撫よりも甘い。言葉で言い表せない楽が満ち溢れている。目の前には、何時か誰かと一緒に見た鮮やかな多色の花火ばかり。でも、今度は殆どの火花が紅い色と。。。奇妙で塩っぽくて鉄っぽい味わいを帯びる。

 帰ったら、二親が数年前と同じ様に、もう玄関に居た。

「大御神はお待ちでいらっしゃいます」と父は言った。

「なっちゃん、なんてことを!」母は倒れ込み、娘の膝を抱き締めて泣き出した。

 父も耐えきれなくて涙を零した。

 大御神は極めて眩しい厳めしさで凪を迎えた。

「命を奪っただけではありません。本性を現しました。一般人の目の前で!それ故に。。。」欠伸をした。「適正な。。。。。。罰。。。。。。。。。

 ***

「おばあちゃん!」

「寝てるの?」

「はい?いえ、唯。。。続きを思い出してるところわ。」

 ちょっとだけうとうとしちゃったかも、と思った。

「もう思い出したね?」

「罰は何?」

「罰は。。。一週間中ピーマンしか食べないこと!」

「げええ!!!」子供たちは顔を顰めた。

 祖母は親切に布団で孫を被せ、優しく滑らかな額を口付け、電気を消した。

「お休みなさい。」

 自室に入り、衣服を脱いだ。窓の外を見た。蛇のように威容のある影が満月の面を横切った。

 溜め息を吐いた。

「そちら様も。」

 顔に僅かな笑みが浮かんでぴくぴくする。一滴涙が頬を伝う。


 了

ここまで読んできてくれた皆さん、ありがとう!読みやすくて、分かりやすくて、間違いが少ないために最善を尽くしました。感動させる物語が出来たなら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
遊びに来ました(o^^o) 外国の方とのこと。 それなのに日本語が母国語のコロンよりも、難しい日本語を操っていて驚きました!凄いです! それと「戦いで」を「そよいで」と読める人は少ないかもしれませ…
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