表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ウワサの君にロックオン!

作者: 真喜兎

「ねえねえ、知ってる? あの矢野(やの)くんが、道端に捨てられていたネコを拾ってたんだって」


 そうウワサしているのは、学校一の美女……とかそんなラノベのお決まりみたいな子じゃない。でも小っちゃな背と、ぽってりした唇がかわいい小林って女の子。


「ええー、あのオタクみたいな奴がー?」


 オタクみたい(・・・)じゃない。おれは立派なオタクだ。ラノベと美少女キャラをこよなく愛するキモ男子……自分で言ってて切なくなってきた。だが体型もデブ……いやぽっちゃりだし、うざったい前髪を上げたら実は美形男子でしたなんてオチもまったくない。超典型的なオタクだ!






 ああ、改めて自己紹介しよう。おれは矢野敦史(あつし)。高校一年生。もうお分かりだと思うが、女子がウワサしてたのはこのおれの事だ! うん、間違いない! 同じ学年におれと同じ名字はいなかったはず! 他の学年は知らんが、上級生なら先輩って呼ぶはずだしな!


 しかしそこで一つ疑問が生じる。残念ながらおれは捨てられたネコを拾った事がない。家にネコはいるけどな。普通に母さんが親戚からもらってきたやつだし。


 そもそもダンボールに入れられたネコが悲しそうににゃあにゃあ泣いてるシチュエーションなんぞ、遭遇した事がない。なんでおれが捨て猫を拾ったなんてウワサが立ったんだ?


 理由はよくわからんが、だが、よく考えろ、おれ! このウワサはガチオタクなおれのイメージアップを図るチャンス!


 え? オタクが自分のイメージなんて気にするのかだって? 気にするに決まってるだろ! あのぽってりした唇の小林と、ももも、もしかしたらお近づきになれるかも、ししし、知れないんだぞ!


 そうと決まれば善は急げ……と思ったけど、やっぱり雨の日がよいな。その方が雰囲気出るしな!


 スマホで明日の天気予報を調べてみると……、雨だ! ハーハハハ! 天はおれに味方している! 待ってろよ、小林! おまえのウワサをおれが本当にしてやるぜ!






 翌日の夕方の天気は、いい具合のしとしと雨だ。おれは部活なんぞ入ってないが、小林が調理部に入っている事は調べた。これなら一度家に戻って、準備する時間はある!


 そう! おれの愛猫、玉吉(たまきち)をダンボールに入れ、小林が帰るタイミングを見計らって帰り道に置いておくのだ。小林が玉吉に気づくタイミングでおれがさりげなく現れ、玉吉を拾い上げて颯爽と去っていくというプランだ。


 びしょぬれの玉吉を優しく抱きしめるおれに、小林はきゅんっと来るに違いない!


 ぐはは、妄想が止まらないぜ。さあ、小林が向こうから歩いてくるぞ! 実行だ!


 近づいてくる小林。道の端に捨てられている玉吉。ほら、小林が玉吉に気づいたぞ。走り寄りたそうにしたところで、おれがさりげなく現れ……


 あれ? 玉吉?


 おれはダンボールの前で愕然とした。玉吉がいねえ! 一瞬の間にどこに消えたんだ、玉吉!


 もうおれは小林どころじゃなくなった。急いで玉吉を探し始める。路地裏の奥、人んちの塀の向こう。もしや先にある川に落ちたんではあるまいな!?


 いつの間にか雨は土砂降りになってて、おれは持ってた傘もどこに行ったかわからなくなってたが、必死で探した。


 ごめん、ごめんよお、玉吉。ぐしっ、ぐしっ、おれは情けなくも涙と鼻水を垂れ流しながら、ダメ元でダンボールの置いてあった場所に戻る。


 そしたら……いたあー! 玉吉、いるじゃん! そしてなぜか小林に抱かれながら、のどを鳴らしている。


 おれに気づいた玉吉が、小林の胸からぴょんっと飛んで、おれのところへ来る。おれが玉吉を抱き上げると、小林はにこっと笑って軽く会釈してその場を去っていった。


 え? もしかしてこの雨の中、ずっと飼い主が戻ってくるの待っててくれたの? な、な、なんていい子なんだあああ!


 女子とちょっといい感じになりたいと思ってただけの邪なおれの気持ちが、本物の淡い恋心になっていく。


 ありがとう、小林! おれ、おまえにふさわしい男になるよ!






 週末に人生初の美容院に行った。うざったい前髪を切ってもらい、脂っぽいぺっちゃりだった髪型から、エアリーヘアーなスタイルになった。ん~、なんかかっこよくなった気がするぞ! やっぱ人間、見た目だな!


 週明けに学校に行くと、普段は話しかけてこない奴も、似合ってるじゃんって声をかけてくれた。ううー、泣いちゃうぜ、おれ。人生変わり始めてる!


 ……と思ったが、何も好意的な奴ばかりじゃない。


「ぷっ、でぶが調子に乗ってんぜ」


 なんて陰口を叩いている奴もいる。おいおいおい、おれのメンタルが鋼だとでも思っているのか。おれは立派な豆腐メンタルだぜ。


 マジ似合ってねえなんて言われると、「そうだよな、イケメンになった訳でもないもんな」と気持ちはしぼんでいく。


 日にちが経って、髪型も元のぺちゃっとしたものに戻りそうになった時、おれの耳にまたこんなウワサが聞こえてきた。


「小林って矢野と付き合ってるらしいぜ」


 な、な、何ー! なんだその嬉しいウワサ! お、おれと小林が……


 いや、ちょっと待て。冷静になれ、おれ。よーく小林を見てみろ。すごい困ったような顔してるじゃないか。


 泣きそうだ、おれ。そりゃおれなんかとウワサになったら、困るに決まってるよな。だからさ、このまま黙ってる訳にはいかない。


 おれは椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「おおお、おれがっ……、小林と付き合うなんて、ある訳ないだろ……!」


 思った以上にでかい声が出た。事情を知らないほとんどのクラスメイト達は、ぽかんとした顔をしている。


 それ以上どうしようもなくて、おれはうつむいたまままた席に座った。


 地獄の一日。クラスメイトがひそひそと話すのは、全部おれに関する事な気がする。あいつらの言う通りさ、まじ調子に乗ってたんだ、おれ。


 やっと一日が終わって、とぼとぼ帰る道。玉吉を置いたあの道に来た。そこにはなぜかまた小林がいた。


 いや、小林の帰り道だし、当たり前か。おれは目を合わさないように通り過ぎようとする。


「矢野くん、この前、向こうの川で溺れそうになってたネコ、飛び込んで助けてたよね」


 え? ああまあ……そんな事もあった気がするなあ。


「だからね、わたし、矢野くんと友達になりたいと思ったんだあ」


 ……え? 小林の笑顔が眩しくおれに届いた。


 完


 ホラー考えてたのに、ホラーになりませんでした!


 お読みくださりありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ