最底辺を駆け回るための準備
しゅこー、しゅこー....。と重々しい音を立てながら戻ってきたのを見て圧倒された。
アトラ先生は、分厚い生地で作られた防護服で一ミリも肌をさらしておらず、ガスマスクと恐らく空気タンクが脇についているアトラ先生の半分ほどあるバッグパックを背負いあとは色々細かい道具が腰回りについていた。なるほど、少なくとも俺よりもはるかに格上であろうアトラ先生がこれほどの装備をしているのだ。俺は少々自らの下水道探索があまりにバカな行いであったことを再確認した。
でも、【ただのバカ】という不名誉な称号を許すつもりはないのだが。
アトラ先生が、俺の近くまで来るとさっきまで圧倒されて意識が向いていなかったのだが何か箱を持ってきていた。それを何だろうと観察していたのだが、いきなりそれを俺の方に投げてきたので慌ててキャッチした。文句を言おうとしたが無一文の半裸の変態が何を言っても意味はないと思いなおし口をもごもごするだけに収まった。
そんな俺の一人茶番を気にせずにアトラ先生が、ガスマスクを外してこの箱のことを説明してくれた。どうやら、過去に亡くなった知り合いの「掃除屋」の遺品らしく材料が特殊で再利用しようにも難しく取っていたのだがどうせならと俺にくれるらしい。
「ん、掃除屋の仕事服は一人ひとり特注だ....。この子の名前は泥んこ掃除大事に使え....。ちなみに、治療費に加算してあるから恩に感じる必要はない…。お前がそもそも働けるような装備じゃないからこれを引っ張ってくることになった…。手数料は抜いてある…。お得だ…。」
「あのーちなみに治療費はおいくら?」
「大体、ここからブランまでいって帰れば稼げる程度の値段だ…。それにお前らは不死身だから肉壁にもなる…。便利だ…。私としてはお前を送り届ければブランの役人どもからボーナスももらえるし、一時とはいえ人手も増え安全に稼げ、場所を占めるだけのそれもなくせる....。ラッキー...。」
「俺は出会うとラッキーな金ずるってことですか…。」
そんな皮肉めいたことを言ってみたが、先生はどこ吹く風でむしろそのとうりだと言わんばかりに頷いた。先生には何言っても効果はなさそうなのであきらめて泥んこ掃除一式をインベントリに格納し説明文を読むことにした。
泥んこ掃除のガスマスク
汚染区域でも問題なく活動するために「掃除屋」たちがギルド一丸となって作り上げられた技術が使われている。低レベルな毒ガスならば意味をなさいうえ、材料に使われたマッドスライムの性質上非常に燃えにくい。保湿にも役だつらしい。
・空気を経路とする状態異常に対して耐性を得る。
・頭に対する刺突系のクリティカルヒットの確率を少し下げる。
泥んこ掃除の防護服(上下)
汚染区域でも問題なく活動するために「掃除屋」たちがギルド一丸となって作り上げられた技術が使われている。低レベルな酸などは通さず肌を守ってくれるうえ、材料に使われたマッドスライムの性質上非常に燃えにくい。一定以上の水分を常に保つ性質があるので思ったよりも暑くない。
・接触が条件となる状態異常に対して耐性を得る。
・感電の状態異常になりやすくなる。
泥んこ掃除の安全靴
汚染区域でも問題なく活動するために「掃除屋」たちがギルド一丸となって作り上げられた技術が使われている。下水道の探索を主に想定されているためもはや長靴といっていいほど足を保護してくれている。
素早く動くことも想定しているためこの靴と足を密着させるためのベルトはしっかりと絞めておこう。
・水場における移動速度の低速化をある程度軽減してくれる。
・通常のフィールドの場合AGIを少し下げる。
何だこれ、神装備か?少なくとも最序盤にもらっていい性能じゃないぞ。
なんともすごい装備を貰ったものだ、俺はいそいそとステータス画面から操作して泥んこ掃除シリーズを装備をした。
「どうだ?似合ってるか?」
「ん、まごにもいしょー…。」
「似合ってないなら似合ってないっていってくれよ…………。確かにさっきまで半裸の変態でしたが…………。」
なんとも気の抜ける人だ。これからうまくやっていけるのか?そんな俺を見て不安がっているのかと思ったのか先生はこういってきた。
「まぁ、不安に思う必要はない…。別に深層を通るわけでもないのだから…。」
深層ってなんだ?そんな疑問が湧いてきたがあとで聞けば言いはなしだ。
「さて、準備はいいな…。出発進行…。」
「オ~?」
そんななんとも気の抜けた号令と共に俺たちは下水道へつながる場所へ向かうために先生の隠れ家から出発した。