待ち人は来ず、自称探偵は思考する。
場所は変わり、Call of Forgetton godsを新規で始めたプレイヤーたちが最初に拠点としてこの世界に慣れていくことになる国「ブラン」。
本城 繭理ことゲーム内ではバカラの名前である彼女は、通っている中学校の夏休みが他の学校よりも比較的に早いため夏休みシーズン特有の凄まじい人込みに巻き込まれる心配もなく余裕のある状態でこの都市で受注できるチュートリアルクエストを淡々とこなしていた。
「ふうむ、おかしい。兄さんならば既にクエストを終わらせて私のことを広場か何かで待っているかと思っていたのだが....。」
「何かあったのだろうか、まあどうせ兄さんのことさ。心配するだけ無駄だな。」
そんな独り言を言いながら彼女は最後のチュートリアルクエストを終わらしに一切身動きせずに二時間ほど噴水に腰かけて待っていたため何かのイベントかと間違えられ話しかけられるのを完全に無視し続けてバグを心配され騒がしくなった広場から我解せずといった風に去っていった。
「おい、起きろ。」
そんな声が聞こえたと思うと同時に俺は感電した。
「あびばばばばばばばばっばっばばば」
突然のこと過ぎて何が何だかわからなかったのだが、とりあえずなんだか凄く理不尽を感じたのでじぶんの寝かされていたベッドからとりあえず上半身を起こして抗議することにした。
「な、何をするだぁー!」
なんか、痺れが残っていたので変な感じになってしまったが気にせずに押しとおすことにしよう。
どこぞの黄金の精神を持つ輩みたいになってしまったが知らないったら知らんのだ。
「いきなり飛び起きて大きな声を出すな…。鬱陶しい…。殺さずに助けてやったっていうのに礼儀も知らんのか?殺すよ...。」
「えぇ......?」
うわなんかすっごう怖いぃぃ、俺なんかわるいことしましたかねぇ…。いや状況的に餓死寸前の俺を助けてくれたんだろうけど....。釈然としない。
俺の遭遇した人たちはこんなのばっかりか、そう悲嘆にくれながらも俺はあたりを見渡して状況を把握しようとしたのだが、なんかすっごい感動した。
何というか、俺の意識的にはさっきまで汚い下水道にいたせいかよくわからない草や骨、肉が吊るされてごちゃついているとはいえ清潔な部屋というのは感動ものなのだ。その時点で色々見て回りたくなってしまったが流石に自重した。
なんせ、少なくとも一瞬で殺されそうな物騒なオーラ?気配?を放つような幼女に喧嘩を売り、せっかく助かった命を無駄にするようなもったいないことをする趣味はないのだ。
「まったく....いくら腹が減っているとはいえ耐性のない奴が「ゾンビの腐肉」をそのまま食べるのは自殺行為.....。これでも飲む....。この程度なら今のお前が食べても問題ない....。」
「あっ、どうもっ?!?」
「どうした、早く飲んでおけ。それともなんだ、文句でもあるのか?」
そんな風に差し出されたコップにはドブのような色のスープが注がれていた。.............、流石にこれをそのまま飲む勇気はないので、こっそりとアイテム名を見てみると「掃除屋の自家製薬草スープ」なんと効果が状態異常回復(中)。それを見てなんかどんどん不機嫌になっていっている幼女に殺される前に一気飲みすることにした。
「...............っ?!?..............っ?!!」
その瞬間俺は口の中でこの世の終わりのような味がした。
そのあまりのえぐみ、辛さ、ドロッとした不快な甘さそれらもろもろが合わさりまさに混沌とした絶望的な味の不協和音が俺の味覚を蹂躙した。正直言って、俺はゲーム内感度を100%にしたのをこの時ばかりは後悔した。下手な拷問より効果的であろう味の暴力に意識を駆られそうになったがどうにかこうにか持ちこたえることができた。
俺はこんな劇物を飲ませやがった幼女に対して殺意すら覚えたが視界の端に映るステータスに表示されていた脱水症状や虚脱といった状態異常が取り除かれたので文句は言えなかった。
「おお、感心感心…。あれを一気飲みできるとは…。ん、水。」
「おっ、おほめにあずかりきょうえつしごく.........。」
いやもう色々飲み込んでなんとも気の抜けた反応を返すのが精一杯だった。差し出された水を口を漱ぐようにして飲み込んだのだが、まだまだあの地獄のような後味は居座っていた。
だが、状態異常が解消されたおかげか頭もすっきりしてようやく大事なことを思い出した。
「あー、すまない。質問いいか?」
「ん?どうした。まだなにか体調に異変があるのか?」
「いや、そういえばあんたの名前とかここはどこなんだとか聞いていなくてな。」
幼女はそういえばそうだったな、と言わんばかりの顔をして色々と教えてくれた。
このヤバそうな幼女の名前はアトラで、「掃除屋」という「盗賊」の特殊派生JOBについてるらしい。
またどうやらここは、「ルージュ」という国で、厳密にはいわゆる犯罪者や貧窮した者たちが中央にある裕福な者たちが暮らす「灯台」を囲うように集まり形成された「外郭」の一番外側にある彼女の隠れ家だそうだ。
ちなみに、あの下水道は「ブラン」という大陸の中心部に位置する国からこちらに伸びているらしくどうやら俺は彷徨っているうちに出口とは逆方向に行っていたようだ。
そんな、俺を助けてくれた理由は気まぐれらしい。ペットを拾うようなものだ、そう言われてますます素直に感謝を抱けなくなったのは言うまでもあるまい。
本来は、人間の死体はバラバラにして「外郭」にある肉屋に売り払うらしい。うん、ほんとに運がよかったらしい。
「それはそうと、お前。お前は今日から私の手伝いだ....。治療費分ははたらいてもらう....。ちなみに拒否したら身体で払ってもらう....。」
おそらくお肉をバラバラにするためであろう手入れされた鎌を突き付けられながらそんなことを当たり前のように言ってのけたアトラに対して俺は流石に首を縦に振らざるを得なかった。