凪払う舞台風 其の十三
書き貯めのためと、暫く忙しくなってしまったので一週間投稿をしません。
楽しみにしていただいている方には誠に申し訳ございません。
ウルタールと呼ばれた目の前のデカい毛玉はのそりとこちらに眠そうな目をこすりながらこちらを見下ろす。
「紹介しましょう、私たちの仕事仲間である夢幻猫のウルタールちゃんです。」
驚いている様子の俺を見ながらフンスと胸を張りモフモフとその身体を触りながら紹介しているが、こいつ猫なのか…。
「おい、アナボスの嬢ちゃん。いきなり呼び出したりすることには別に目を瞑るんじゃが…、ちゃん付けするのはいい加減やめてくれぃ…。わしゃあオスじゃ。」
でっかい真ん丸なマスコット的かわいらしさを醸し出している毛玉、いや白猫が…超ダンディな声でしゃべっとる…!しかものじゃ系語尾!
「しかし、ウルタールちゃん。その見た目でオスと言い張ってみてもなんていうか貫禄がありませんよ。ですからあなたに対しては私はちゃん付けし続けます。」
「嬢ちゃんはホンマに…。」
やれやれといった感じで首を振るウルタール。........流石にこのサイズ感の生き物が近くにいるといかに猫に類する生き物と言えどなかなかに威圧感があるが最近戦ったやつらのことを思い返すと全然かわいらしく思えるな。
「えーと、ウルタールさん?」
「おお、坊主が嬢ちゃんに選ばれた奴かい…。なかなか運のない奴じゃのう。いや、先ずは紹介が先じゃのうわしゃあウルタールっちゅうもんじゃ。呼び方は呼び捨てで構わん、ちゃん付け以外なら基本なんでもいいわい。」
「あ、ご丁寧にどうも。俺の名前はクオンと言います。今回の移動ではお世話になります。」
俺がそう答えると、アナボスの相手を先ほどまでしていたゆえかどこか安心したような雰囲気を感じられる。
「かかか、そこまで丁寧にせんでもええ。似合っておらんぞ。」
うーん、やっぱりというべきか指摘されてしまった。部長たちにもこういった敬語の類を話しているのを見られると似たような反応されるんだよなぁ。
「あー、不快に感じたんなら申し訳ないな。こんな感じでいいか?」
「ああ、問題ないぞ。にしても、坊主乗り方は分かっておるのか?嬢ちゃんのことゆえどうせ説明しておらんじゃろ。」
全く持ってそのとうりである。今現在話を振られていなくて暇になったのかウイスキーと解毒ジュースを交互に飲んでいる。一応酔わないように気を遣うだけの思考は残っているようだ。その様子を目線でウルタールに伝えると、呆れたように大きなため息を吐いた。
「おい、嬢ちゃん。ワシは別にクオンの坊主に説明しても別に構わないんじゃが…。」
「私の仕事を取るつもりなのならちゃん付けの布教を兄さん方に広めますけど?」
「さらっと脅しをかけるんじゃないわい。全く、なら早う説明せい。」
「言われなくとも。」
そういう感じで妙にやる気な様子で乗り方というレクチャーが始まった。
「さて、乗り方と言っても非常に簡単です。ウルタールちゃんの自我と肉体の隙間に乗り込むだけです。ね、簡単でしょう?」
「いや、そのやり方を教えて欲しいのだが?」
「そのためのこの着ぐるみなんですよ。ほらとりあえず、ウルタールちゃんの隙間に乗り込むことをイメージしながらモフモフな毛並みに入っていってください。ほら。」
余りにも適当でやり投げな説明にやっぱりこいつは癖のあるやつだと再認識しつつ言われたとうりにウルタールの毛の中に先に断りを入れてから身体をねじ込んでいった。
不思議とどうすればスムーズに奥に行けるのかがわかり、毛による抵抗感は気にならなくなっていった。
これが着ぐるみの隙間に入りこむという能力のおかげなのかと考えながら、暫く歩いて行ったのだがこの時点で既におかしかった。
いかにウルタールのサイズがデカいとは言え精々直径六メートル。体感的には既に二百メートルトラック一周以上の距離はあるいているにも関わらずまだ先に進めるのだ。それにいつの間にか毛並みのモフモフとした感触はなくなり、視界も明瞭なものになっていった。
気がつくと、そこはまるでバスの車内のような広さの部屋にいた。辺りを見渡すと小窓のようなものがところどころあり壁や床の材質はウルタールの毛並みのような真っ白でふわふわなものだった。
「ええ?できたのか?これ?」
「問題なくできていますよ、クオンさん。」
戸惑っている最中、いきなり真上から声をかけられて結構ビックリした。咄嗟に声の聞こえた上を見上げて見えた光景に拍子抜けしてしまった。
「いや、なんで上半身だけなんだよ。」
「なんでかと言われたら、イメージを適当にしすぎちゃってなんか中途半端に入り込んでしまっちゃいました。」
その後、俺がどうにか天井に埋まっているアナボスを引っ張りこんで席に着くと何処からかウルタールの声が響いてきた。
〖おう、嬢ちゃんたち。ちゃんと乗り込めたかい?〗
「ええ、ちょっとしたトラブルがありましたが問題なく入り込めましたよ。」
当たり前のように話しているけど、チョットマッテ?
「なあ、これお互いの声が聞こえているのか?」
「聞こえていますよ。当たり前じゃないですか、なんせ心に物凄く近いとこにいるんですから。」
そう言われたらそうなのだろうと納得するしかないんだけれど。納得いかねぇ…。
〖んじゃ、そろそろ出発するぞ。目的地はエリゴル坊とスコル嬢んとこでいいんじゃな?〗
「ええ、そこで構いませんよ。」
そうして、俺たちはようやく別のリンボへと向かって出発した。移動し始めて小窓の外にある景色が流れていくのだが、玉虫色のような猟犬どもの漿液の色合いのような景色が凄い勢いで流れていき俺は一旦外をのぞき込むのをやめた。




