凪払う舞台風 其の十
「紹介が遅れたな、この半透明な存在はロバート。ハスター討伐クエストの斡旋人だ、それとロバートこの八人が今回の協力者だ。今までの中だと一番期待していいと思う。」
そんな紹介に対してロバートと呼ばれた人物は俺たちへ慈愛と若干の驚きを孕んだ目をこちらへと向けてきた。初見の人にこのような目線を向けられるのはなんとも変な感じがするな。
しかし、そのような目線は一瞬にして消えロバートはニヤリと口を三日月形に歪めたかと思うと軽快にこちらへ話しかけてきた。
「さて、ルティカに先を越されてしまったが、改めまして私の名前はロバート。しがない元科学者兼軍人で、見ての通り地縛霊じみた事をやっている。よろしく頼むよ。」
既に死んでいることを証明するかのように空中をクルリと旋回する。その後俺たちは各々自己紹介を終え、ロバート氏が指パッチンで出現させたテーブルと椅子に座るように促された。
「にしても・・・なかなか愉快で珍しい人たちだね、ルティカ。」
「まぁ、愉快かどうかは分からないが友が集めてくれた協力者たちだ。ロバートからしたら俺が他の人を連れてきているなんてことは暫くなかったから珍しく感じるのも無理はないだろうが…。」
「ああ、言葉が足りなかったね。呪詛をその身に受けている人物を君以外で見るのは久々でね…。不快にさせたら謝るよ。」
そういって、妹から押し付けられた姉さんに後ろから抱きしめられている俺の方を見てくる。にしても、その言い方だとルティカにも呪詛が付与されているんだな。だけど、あの収縮自在の鎧はずるいと思う。
呪詛関連のクエストで手に入ったのならば俺にも教えてくれないだろうか。
「いいえ、別に不快に感じたりはしてませんので…。」
困惑した声が自身の耳に届く。
「そういってもらえるとありがたいよ。生憎この体ではお詫びのためのお茶菓子などを作ることは難しくてね。」
「ロバート、そろそろ彼らにクエストの全容を教えて欲しいのだが…。」
「すまないね、いくら位相が近くなっているとは言えこの体は不安定なものでね。つい、気になったことなどに流されてしまうんだ…。さて、本題に入ろうか。」
急に雰囲気が、っというよりは人が変わったというべきかあたりの空気が重く感じる。
『ユニーククエスト「朽ちた理想の残夢」を開始しますか?』
それと同時に表示されたUI 、俺だけでなく他のメンバーにも出現しているだろうその文言に俺は「Yes」と意思表明を行う。
少しして、納得したかのように頷きロバートは淡々と先ほどまでの少々オーバー気味な様子から一転して、まるで機械が台本を読み上げているかのように語り始めた。
「「名状しがたきもの ハスター」あれは、俺の肉体に宿る造られた神だ。」
待って?いきなり急展開過ぎてついていけないんだが…。
「正確には、俺の肉体はハスターに適応しようと常に身体を自己改造し続けてその姿は不定形。そのうち俺の自我すらも切り離し、定められた法則に従い無差別に資源を貪る怪物だ。」
「俺という自我が切り離されて、これを聞いている者の時間までどれほどたつかわからないがどうか俺を殺してくれ。」
「俺を殺せれば、肉体に内包されたハスターも死ぬ。そのために俺は俺自身の肉体にハスターを閉じ込めたんだからな。」
そう、語り終えると再び雰囲気が元の話始める前の明るいものに戻った。
「そして、自我がまだ完全に切り離される前にここまで彼の身体を輸送してもらって魔法で世界と世界の狭間に封じ込めた。まあ、その副作用で自我どころか魂まで引っ剥がされてこんな身体になっちゃうなんて想定外だったし、まさか異能が魂の方に宿っているとは思わなくて魂だけになっても無事になるように自己改造できてその挙句永劫の時間に耐えるために複数の人格ができるとは思わなくてね?」
「何なら、異能が切れたせいで姿が封じ込めた時の一番被害が出そうな時で固定化された挙句…。封じ込めが完全なものじゃなくなり入口ができてしまっているわけ。」
そうして、指を指し示した先にあったのがあの真っ黒な湖だった。
「その入口の出入りを今の私が、管理しているんだ。」
「だから、皆さんの準備が整ったら私に話しかけてください。門を開きますから…。」
そして、居住まいを正し、俺たちの方をまっすぐ見据えてこう懇願してきた。
「どうか、私たちを殺してください。今度こそ、役割を果たせるように。」




