凪払う舞台風 其の三
「アハハ!困難ばっかでやんなっちゃうぜ!」
俺たちは明らかに毒ですよと緑色の鱗粉が舞い散っている中、全力の逃走をしていた。ちなみに祝福の鳥面はキューブちゃんに貸している。少なくとも今現在では俺の状態異常耐性の方が高いため耐性系の能力が書かれていないものとは言え吸い込みにくくなるだけで変わるだろう。
「あー、とりあえずですが鑑定通りました。名前はミミックモールドですね、名前の単語的にカビがありますから恐らくあれ冬虫夏草的な奴じゃないですかね?」
あの骸骨蝶あれで死体的なもんなのか。にしても、この花畑何処まで続いているんだよ?!くっそ、花自体の能力化は分からないけれどめっちゃスタミナが削られてく。ってか蝶みたいな見た目の癖に走るんかい!?
「鱗粉の量が多すぎてうかつに爆発物が使えませんね。下手したら粉塵爆発で私たちだけ吹っ飛ぶだけになりますし。」
そんなネガティブなニュースを知らせてくれるキューブちゃんはおんぶの形で両手を自由に使えるため麻痺毒や合成毒の瓶を投げつけたりして攻撃してくれてはいるが如何せん効果が薄いようだ。
地面から突き出してくる植物を無理やり先ほどの戦いで獲得した「リカバリーステップ」で後ろ向きに下がる動きを発動さる寸前でクルリと身体の向きを変えて前に進むことで回避した。
あたらしい攻撃パターンに結構ギリギリであったが対応できたのはありがたいがもう一度やれと言われてもできる気がしないな。
壁走りのスキルでとりあえず更に前方に新しく生やされた根を駆け上がりながらスタミナを奪われる花畑から一時的に離脱する。くそったれ、本当に俺こんなんばっかで逃げの姿勢しかしてきてないな。
「ムカつくなぁ、なんかだんだん腹が立ってきたぞぉ。なんでユニークでも何でもない強いだけのモンスターごときにこんな逃げ腰及び腰でいなきゃなんねぇんだ?」
「あの、クオンさんいきなりどうしました?」
「なあ、キューブちゃん今からあいつぶちのめさねぇか?そもそも俺らはユニークモンスターと戦うためにスキル上げしに来たんだからこの程度の奴に一矢も報いれずにリスポンするのはごめんだね。」
「お、大口叩きますねぇ。勝算はあるんですか、勝算は。」
「だったら無理やり作ればいいだろぉ!」
突然の変わりように若干引き気味な様相を呈しているキューブちゃんの問いに対して俺は答えを見せつけるようにしてあんまり使える場面のなかったそれを思いっ切り奴に向かって投げつけた。
ガチンと鉄と鉄がぶつかり合うような硬質な者同士がぶつかり合い元々一定の熱を纏うそれは急速に温度を上昇させ火花を生み出した。
チュッッッッッドォオオオン!!!!!!!
そうして、大量の鱗粉のように見える毒性の胞子こと非常に燃えやすい植物性の粉塵が待っている場所のため大爆発が発生し、花畑も何もかも一切合切俺たちごと吹き飛ばした。
多少は爆心地から距離を取れていたとはいえ熱量は凄まじく、俺が何をするか咄嗟に察してくれたキューブちゃんは不燃性のスライムで作ったジェルポーションをぶっかけて何とか死にかけギリギリで踏みとどまることができた。
「アッハッハッハ!!気分爽快だぜぇ!鬱陶しい粉も!花も!全部まとめて燃やしちまえば解決だよな!生き残れたのでなおよし!」
落下死しないように異相の蛇腹剣を鞭モードで樹木の一部に引っ掛けながら比較的素早く焦土になった地面に降り立ちながら俺は高揚した気分のまま叫ぶ。
「いや、爆発させるつもりならもっと早くいってくれませか?!運よく試作品がきちんと機能してかつギリギリとは言え間に合いましたけど!」
「耳元でそう大声出さないでくれよ…。今ただでさえキンキンしてるんだからさ。」
「そんなの私も同じ条件ですよ全く。結果的には戦いやすい状態にはなりましたけども次からはあんな無茶苦茶やらないでもらえまs、いっだっ!」
「舌噛んじゃったか、すまん。」
爆発の際で発生した黒煙の向こうから突き出された根っこの槍をレベルアップした危機察知の警告とリキャストが終了したリカバリーステップで回避しながらようやっとまともな戦闘を行うべく背中に乗せていた客をおろして武器を構える。なんか凄く後ろで文句を言いたそうなジト目を浴びせつつ爆発系の薬品を自爆のリスクなく使用できるようになった試験管やらなんやらを取り出しつつ同じく戦闘態勢に入った。
「おいおいどうしたどうした随分と小さくなったじゃないの。元々住んでたおうちはダメになっちまったかい?」
「あれが中身というか正体でよさそうです。サイズが二、三メートルクラスにまで縮んでくれたのは助かりますね。」
煙が晴れた先にいたのは身体のパーツや縮約がいびつ、ところどころ骨の一部が露出している全身緑の苔で構成されたヒトガタっぽい奴が存在していた。
ミミックモールド
厳密には苔のモンスターですらなく本来洞窟などで発生するミミックが何らかの要因でこの樹海に発生し、苔の張った水辺に擬態した個体が釣り餌たる水の部分を飲んだ別の生き物を毒殺。のちに死骸を利用してヤドカリのような感じに巣となり死骸を操っているのが今回主人公が遭遇した個体。
骨で装飾されているように見えるのは繁殖期に入り巣作りのために他の生き物の死骸を飾っている。
洞窟産のミミックは宝石や鉱石などで自らの巣をデコレーションしていく。
また、本能としての性質で巣を破壊されると中身だけで破壊した存在の姿を模倣した形態となり戦闘する。戦闘方法は魔素を用いた地形操作などで戦う。がこの個体は元々毒性を持っているため散布しながら弱らせるほか、現在巣にしているモンスターの脳をすすり獲得した植物を操る術も持っている。




