サプライズは過去から刺してくる
C.R.AF.T社。
二年ほど前に突如として誕生したゲーム会社。と一般的には知られているが正直に言ってオカルトを少々たしなんでいる人間からすれば手を出したらいけないレベルのやつだ。
俺が知っているだけで、その会社が世に出したヘッドギアが数世紀先のようなオーパーツだとか特異点だとか言われているような品物で情報をすっぱ抜こうとしたハッカーたちが軒並み位置情報まで特定されて御縄になったとかの眉唾物挙句の果てにそこの社長さん以外誰も見たことがないだとか。
うーんミステリアス。しかも、そんなヘッドギアと同時に発表されていたゲームの評判はまさに神ゲーと言っても文句ないほどの絶賛の嵐だ。
何でも五感の再現性やNPC、哲学に関しての話題をふっても帰ってくるらしい。それだけじゃなく、戦闘の際の動きが従来とは全く違うとかなんとか。
まあ、俺からすれば噂込みで邪神ゲーといったニュアンスが強いのだが。
俺の尊敬すべき師匠から深入りしないようにね、とまで言われた厄ネタである。
いやまあ、止められなかったら本社突撃しようかなとか一ミリも、これっぽちも考えていないのだが俺だって死にたくはないのである。
それならゲームだけでも!とは考えたのだが純粋に高いのである。本体で一番安いので二十万とかである。
頑張れば買えなくはなかったのだが流石にそれくらいかけるのなら海外のあんなとこやこんなとこ....。
まあそれは置いといてそんな値の張るものがどうしてここにあるのか.....。
「というわけでだ、わが妹よ。」
「何がというわけなのかはさっぱりなのだが、とりあえず只今帰ったよ。わが兄よ。」
目の前の帰宅してきたばかりの絶賛中二病を発症している妹に、正座を促しながら問いただす。
いやまあ、こうしていきなり促してノリノリでやってるからこりゃ確実に黒だな。
なんか心なしか目がキラキラしてるし。
「さあさ、聞きたいことがあるならドンと聞いてくれ。C.R.A.F.T社からどうして荷物が届いたってとこかい?」
「はいはい、ナチュラルに先読みしないでくれ。まあ説明の手間が省けるからいいが、これ買ったのか?」
「いや~........。えっ?」
いや、何驚いてんだよ。余計に怖いわ!えっ?何、冗談半分じゃなくてマジの厄ネタなのかこれ。
そんな風にうろたえていると表情を一転させてくくくと笑い出した。
スッ
「まあ、待ちたまえ。話せばわかる、だからスリッパはやめてくれ。」
「で、結局どうゆう経緯なんだこれは」
「ざっくり言ってしまえばナンプレの懸賞の商品が当たったのだろう。前に送った記憶があるからね。と言っても一年前なので正座させられるまで忘れていたよ。」
「あぁ、あのときの」
一年ほど前に妹が暇だからとナンプレをネットで一桁間違って買ったのを家族総動員でかたずけるということがあったのだ。面白くはあったのだが途中で申込受付がギリギリであることに気づいた母さんの号令でデスマーチする羽目になりみんな三日ほど徹夜することになった。巻き込まれた何も知らない父さんには合掌。正直思い出したくもない地獄だ。
ちなみにその時余りにも鬼気迫りすぎていて近所の方々から『本城家集団徹夜事件』という不本意極まりない呼び名がついたときは全員真顔になった。
それとは別に妹がそれ以降ナンプレ見るたびにおびえるようになったのはいい気味ではあったのだが。
「つまりこれは」
「まごうことなきただのラッキーってこと。兄さんの案じてるような厄ネタじゃないよ。」
まさかこんな棚ぼたがあるなんて、人生わからないものだなぁ。しみじみそう思う。
「兄さんはまだまだ若いのだから、そんな風に浸っていると心だけじゃなくて身体も老けてしまうよ。ただでさえ死んだ魚の目のほうが未来に夢を見ているほど目つきが悪いのだからね。」
「さらりと心を読むな。何ならまだうら若き高校生だし目つきについては余計だ!」
ったくと悪態をついてみるもニヤニヤとこちらを見てくる。くっそ、こいつぅ!
まあ落ち着け、どうせあと数年もしたら黒歴史になってのたうち回る羽目になるのだから我慢我慢。
話が脱線しまくっているが本題はこいつだ。
このVRゲームセット、そして俺たちはすでに夏休みに入っている。
俺たちは、何を言うわけでもなくいそいそとヘッドギアの初期設定を済ませ水分と軽食を取りトイレも済ませた。あとはわかるな?
俺たちは、自分たちの部屋へ別れ新品のヘッドギアが転がっているベッドへと身を投じた。恐らく妹である繭里もそうしているだろう。
「さぁ、久々の未知との遭遇!テンションあがるなぁ!」
せっかくだ、勢いつけて言おうじゃないか
「認証:本城 久遠! 実行コード:ログイン!」
そうして俺の意識が闇のなかに落ちていくのを感じた