創造主は対話する
場所は移り、都内にあるC.R.A.F.T社の本社。
尋常ではない技術によりゲーム業界だけでない分野すら荒らしに荒らした怪物とも言える会社。
与太話だとしても余りに馬鹿らしい本当に人外が関わっているのではないかという噂すらまことしやかに囁かれるその会社の前に余りにも場違いなママチャリを漕いでやってきた人影が見える。
「ひゃー、つーかーれーたー!!」
その人影は、ひょいと警備員のまえでママチャリから降り、慣れたように鍵を渡して入っていった。警備員たちは呆れたような顔をしながらも預かったママチャリをきちんと保管する。
「いやー、君たちもお疲れだね~。一時間後には戻れるからよろしくね~。」
その手に持った明らかに酒の瓶のことをスルーしつつ警備員たちは敬礼をしてもとの職務へと戻っていく。いつものことだと言わんばかりに。
────指紋を認証します
────パスワードを入力してください
────網膜を確認します
────音声を確認します
────ネームプレートを翳してください
気が狂っていると言わんばかりの厳重なロック。それを鼻唄を歌いながら人影は手際よく解除していく。
漸く、重いロックが外れドアが開くと同時に勝手知ったる我が家のように人影は中に機嫌よく入っていく。
「やっほー!生きてるかぁい?愛ちゃんよぅ!」
「相変わらず喧しいね、君は。」
そうやって人影こと現警察庁警備第X課警視監 森砂 煌瀬と、C.R.A.F.T社の最高責任者たる四月朔日 愛はC.R.A.F.T社の地下深くで持っている権力とは似つかわしくない気の抜けたテンションで会合した。
「いやさ~、本当に優秀な子がいてサ~」
「酒が入ってもボケるようなたまじゃないだろうに本題は何だい?」
「うん?そう急かさないでくれよ~、ここぐらいじゃないと気が抜けないんだよ~わかってくれよ~。」
「いい加減にしないと追い出すよ?」
「全く、ハイハイ昔っから君はせっかちで余裕がないね~。本題、本題ねぇ?」
すっとぼけたように四月朔日 愛の方を見てくる森砂 煌瀬 の顔が相当ウザかったのか周りの空気が軋み始める。すると、慌てて森砂 煌瀬は、平謝りをしながら会話を再開する。
「まぁまぁ、落ち着いて!本題に入るから物騒な気配出すの止めて!それともなんだ!いい歳をとった大の大人が失禁するところでも見たいのかい?!ここの掃除をするのは基本的に君なんだからね?!」
そんな警察庁の上から数えた方が早い階級の人物とは思えない余りにも情けない姿を見て呆れたのか空気は平常のものへと緩和していった。
「で、本題ってのはねあんまりなくて~。実際のところ君たちの世界の進捗はどんな感じかな?っていう世間話......まぁ君の顔を見る限り進展はなさそうだけど。」
「変わっていないよ、何一つ。私たちの世界は何一つ変化も見られない。そうそうに変わるようなものではないが、どいつもこいつも期待はずればかりだ。やれ、バグだ。仕様だなんだのほざいて諦める始末。一部の連中は真剣になって取り組んで、神秘に触れるものがいるがまだまだ変革には程遠い。」
「そっかぁ…………。大変だねぇ~。」
「他人ごとのようだな。」
「実際のところ他人事だしねぇ。君は既に私たちの手から離れているもの。それは、君が押し通したことだし文句を言われるのは筋違いだ。ここはもはや日本という国家の枠組みから外れている治外法権のようなものだからねぇ。」
「そうだな。私が進んで作り上げた私のための監獄だからな、誰にも邪魔なんてさせない。」
「まったく、上との間を取り持つ私の身にもなってくれよ。まだまだ若いのに白髪が生えてきそうだ。」
森砂 煌瀬が、空になったボトルを部屋の隅にあるごみ箱へ投げ捨てると同時に席を立つ。
壁一面に液晶パネルが埋め込まれ電脳のもう一つの世界を監視している光のみがこのコンクリートジャングルの底での対話があった部屋を照らしている。
森砂 煌瀬が部屋から出て行ってしばらくして電脳世界の創造主は一人暗い深海のような部屋でしばらくは開くことのない厳重な扉を真っ黒な目で見つめていた。




