神殿の深淵、在りし巨砲の動力炉
俺たちが先程いた広い空間の奥を左に曲がり、薄暗くて細くて石の匂いしかしない道を歩く。
「ええと、確かここを右に……うーん……」
俺ら三人のうち誰一人として古代神殿の正解ルートを知らない、だからこそ唯一正解のルートを知っているハスナに対して意見を言う権利など無いのだろうが。
「ホントに大丈夫なのかよ」
「……は? 疑ってるのか?」
いやいや滅相もない、なんか不安そうな顔をしていたからちょっと気になっただけで。ていうかちょっと焦ってる顔してんじゃねえか。
まあ何を言おうと黙って着いていくしか無い訳だし無駄口は叩かない方がいいな。
それより、たまに分かれ道があるだけのただ四角くて細い道がずっと続くだけって結構地味だよな……
「あ、なんか端に謎の空間があるよ」
ちょっと退屈気味になってきたところ、サキが怪しげな位置にある空間、部屋? を見つけたようだ。ルートとは関係なくともとりあえず入ってみるか、何かあるかもしれないし。
そうしてその部屋に入ると、何やら部屋のド真ん中に宝箱が置いてあるじゃないか。
「みんな分かってるよな?」
「うん、中身は皆で山分け……でしょ」
ちげーよアホ。見るからに怪しすぎるから開けんなってことだよ! こういうのって開けるとトラップとかが発動するのがオチなんだよ。
「リーチは俺が一番長い、斬って安全かどうか確認しよう」
「頼むぜクチク」
新しく揃えた武器、壮銀の直剣のデビュー攻撃がこんな形になるとは……壮銀の直剣さん、これも重要な仕事なんだ、我慢してくれよ。
白い軌跡が弧を描き、宝箱へと突き進む。
カチッ。
「あっ」
あーそうですか。そもそも触れたらダメなパターンですか。
「ぎゃあああああ」
「うわああっ!」
「くっ……」
剣で宝箱に接触した直後、俺たちが立っていた場所の床が高速で物理的に下がる、というか落ちる。ハハハ、まるで近代的なエレベーターだな! 事故まっしぐら!!
「これ急にドーンって下に着いたら落下の衝撃で俺たち死ぬな! アレか、着く前にジャンプすればいいのか!?」
「それは意味が無いらしいぞ……!」
ダメかァ。あーこれ死んだかもな……そっかあ、まだ確か冒険始めて一週間も経ってないよな、早かったなァ……ってうるさっ。
金切り音を上げながらゆっくりと床の落下が止まる。
「……よかったー、どうやらまだ冒険できるようだ」
「ワロタって命イコール冒険なの?」
否定はできねえや、だってずっと冒険したかったんだぜ? 数年待たされてこんな所で終わりってマジのクソッタレだろ!
「まさかアレが動力炉か? ハスナ」
「……ああ」
おいおいクチク、こんなダンジョン迷宮じみた場所ですぐにお目当ての物が見つかるはずが……
オレンジ色の液体、壊れた台車、その横には何かしらのエンジンにも見える巨大な金属の塊。
見つけちゃったよ! あのエンジン的なやつ明らかに動力炉じゃん! しかも横にちゃんとオレンジ色の液体あるし。
いやあのトラップのおかげで大幅短縮出来たな……結果オーライでよかったわ。でも思ったよりも動力炉はかなりデカイし、隣にある台車は壊れてるし、どうやって運ぶかだな……ん?
「ハスナ、何をジッと見てんだ?」
「家族の形見だ」
ハスナの目線の先には、ハスナの両親のものであろうネックレスが落ちていた。
「……墓でも作るか?」
「……ああ」
両親がそこにいたという事実、唯一の証拠にハスナは涙ぐむ。
そりゃそうだよな、探索に行ったっきり数年間も帰ってこない両親の形見をその亡くなったであろう現場で見つけてしまったんだ。それはつまり亡くなったという事実がはっきりとしてしまったということでもある。
だが何かがおかしい。ハスナは先程「神殿奥地の崩壊に巻き込まれて亡くなった」と言っていた。しかし、目の前には土汚れはついているが、破損していない動力炉やアクセサリ類が残っている。普通は建物の崩壊に巻き込まれたらその痕が濃く残るはずなんだよな……掃除でもされない限り。それに上を見てみると確かに壁とかが崩れた跡があるしな……一体どうして崩壊の跡がほとんど残ってないんだ?
その理由は、直後に洞窟内に響き渡る轟音によって明かされた。
その音は、岩が岩に打ち付けられる音。まるで巨大生物が巨大な物体を運んでいるような……嘘だろ?
「……っ、デカイのが来る」
湿った目を腕で拭い、臨戦態勢へと切り替えるハスナ。どうやらお出ましのようだな……別にハスナの両親を手にかけたワケじゃないだろうが……多分この神殿の主的な存在だろう。魔物であればぶっ潰すまでだ……!
「来るぞ!!」
そうして現れた巨大な体躯は……
『……エッ?』
とてもほんわかした熊みたいな存在だった。
……
……………
…………………
「あー……なんだ、つまりアンタはここに数か月も閉じ込められてたってワケか」
『ウウッ……ヨウヤク、ヨウヤクヒトニ会エタ……!』
この謎の黄色熊について説明しよう。名をクマークという一応冒険者の彼は、半年前に砂漠の上を歩いていたら突然地面が崩れ、目が覚めたらここに閉じ込められていたという。脱出しようにも凶悪な魔物が道を塞いでいたとのことでここから出られず、時々生えている植物や、自力で編み出した睡眠法などを利用して今まで生き延びてきたらしい。後で何か食わせてあげるか……
「質問なんだけどさ、元々ここって岩だらけだったりした?」
『ウン、崩レタ跡ガイッパイアッタネ、ホトンド片ヅケタケド』
なるほどな、崩壊した場所にしてはやけに綺麗だったのはクマークが片付けたのが理由か。
ふぅ、まあ何にせよ謎も解決したことだし、お目当ての物も見つけたし……!
「よし、一緒に脱出するか!」
『……エッ!?』
「でもタダじゃねえぞ、アンタの脱出の手伝いをする代わりに……あの動力炉、外まで持ってきてくれよ」
『ッ……! モチロン!』
俺、クチク、サキ、ハスナ。そこに加わった新たなメンバー、黄熊のクマークと共に、壮絶な脱出劇が繰り広げられる。
・黄熊のクマーク
冒険者等級は銅。ガチの熊じゃなくてただのデカい獣人のため、強い訳じゃない。
ただパワーだけは岩を運べるくらいなのでズバ抜けて強い。
獣人……? 似たようなのがいましたね……?




