急襲せし彗獣の暴魔 第五幕
絶体絶命の境地に救世主の如く現れ、あのロマリウスに痛恨の一撃を与えた大きな西洋騎士甲冑を身に纏う者。それによってかサキの動きを封じていた氷魔法も解ける。
後ろには重騎士の仲間であろう魔法使いもいるが……それよりも今がチャンスだ。
「すまん助かった!マジで恩に着る!!」
ロマリウスがダメージを受けた隙を狙い、気絶しているクチクの元へ木刀を拾いつつ向かう。流石に無防備じゃ危ない、どこか安全な場所でクチクを休ませたい……と、向かおうとしたところ、重騎士がクチクに物を投げた。
「えっ、ちょ、おい、確殺する気かよ!!」
「黙って見ておけ」
重騎士のたった一言。それだけで身体中に鳥肌が立った。いやもう少し簡単に言おう、ゾクッとした。
そして何やらクチクのほうを指さしているので見ると……
「うっ、かはっ……」
少し苦しみながらも回復したクチクの姿が。一体何を投げたのか気になる、気になりすぎる。
「なあ……鎧のアンタ!さっき投げたアレ、何入ってるんだ!?」
多分何かの回復薬とかそんな所だろうか、だけど今まで見たことなかったから気になるんだよな〜、あわよくばどこで売ってるのかも聞けないだろうか。
「心配するな。ただの回復薬だ」
やっぱり回復薬か、さっきまで苦しんでいたクチク本人も困惑しているほどピンピンするレベルの回復力……欲しい!!だけど流石に売っている場所を今聞けるほどの度胸は無い!!
「グ、アアア!!やるねぇ……不意打ちだなんてさぁ!」
どうやらロマリウスも体制を整え直したようだ、だが見た感じあの二人はそれぞれ銀と金、上級と最上級。俺らが死ぬことはまず無くなっただろう。ロマリウスが重騎士に集中してる間にクチクの元へと向かう。
「立てるな!?今のうちだ、みんなで逃げるぞ!」
「あの二人はどうするんだ」
「あの二人は銀と金だ、そう簡単にはやられんだろう……どころかロマリウスを倒しちまうかもよ?」
まあホントにそうなってくれたら嬉しい限りだが……いや待て、正直俺が倒したい気持ちもあった……!
「ワロタ、クチク、もう逃げる準備はできたよ! あの魔法使いさんも手助けしてくれるらしいし」
サキが言うのでちらっと奥を見ると、金髪の魔法使いが無表情でこちらへ向けて軽く手を振っていた。
「なるほど頼もしいや……よし、今回は命優先だ、あの鎧の人が時間を稼いでいる間にとっととずらかるぞ!!」
「悪党が言いそうなセリフなんだよね」
そして魔法使いの元へ行き、逃げ先を案内される。恐らく通ってきた道だろう。
「心配無用、注意がそっちに向かないように、私達が護ってあげよう」
「ありがてェ……!」
そのまま森の奥へ逃げようとする俺達だったが、やっぱりなんか不満というか何というか……
「なあ、俺らこのままルターロ村に帰ってもなんも意味無くね……?」
そう、悪樹を倒した……いや厳密には倒されたが。その証拠が存在しない訳だ。
それじゃあ冒険者ギルドに戻っても「悪樹倒しましたー!」「え?ホントに?嘘ついてない?」とか疑われて報酬とか何も貰えない可能性がある……嫌だ!!こんなに苦労したってのに何もかも無意味になるなんて!!
「見ろ、ワロタ」
「へ?」
クチクが見る先には、なんと悪樹の一部であった物だろう太い枝が落ちていた。
「ワオ! こんなところに悪樹の枝が! でかした!!」
「恐らく俺が斬って分離させた物がそのまま残ったんだろう……持って帰るぞ!」
悪樹を討伐した証拠は取れた。後は無事に帰るだけ──うおっ!!
「逃がさないよぉ……まだまだ戦いはこっからでしょぉ!!」
ああもうタチ悪ぃ、こんな所まで風来坊を飛ばしてくるなんてな……魔法使いの人がバリア貼ってくれたからいいものの……マジで危ないからそれ!!
「なに余所見しているんだ?」
「キミも……鬱陶しいなぁっ!!」
よかった、また重騎士の方に注意が向いた。見た感じ互角っぽいな……
なんかロマリウスの方もまた知らない魔法沢山撃ち込んでんな、まださっきのは本気じゃなかったってことかよ……! うわっしかもこっちに流れ弾飛んで来やがる!!
「よしもう無理だ!みんな逃げるぞォ!!」
「後ろは私が塞いでおこう。……さあ、行きたまえ」
「サンキュー!!」
俺達は冒険者ギルドへと無事に帰るために、森の奥へと走る。
後ろを振り向くと、魔法使い。そしてその奥には重騎士を過剰な魔法の連続で押し込むロマリウス。
ロマリウスは、逃げる俺達に気付いて言い放った。
「……あっはは、君たちとは……きっと近いうちにまた会えるよ!! ……いや、遭いに行くよ!!」
その言葉に、俺は震えと悔しさと闘志を隠せずに言ってしまった。
「────上等じゃねえか彗獣の肆!! 次会う時までには、お前以外の四天王全員ぶっ倒してやるよ!!」
その言葉に、ロマリウスも期待を隠せず。
森の中には、彗獣の笑い声が響き渡った。
その日、俺たちは初めての完全敗北を喫したのだ。
………………
…………
……
「帰ってきて早々何が起きてんの……」
何とか無事に帰ってきた俺達だが、もう夜だからなのか何やら人がめちゃくちゃ多い。
ギルドの受付に人が沢山集まっている。
「これじゃあ悪樹討伐の証拠見せる暇なんて無いな」
「う〜ん……どうしよっか」
まあその場から離れるのも癪なので集まっている人々に近付いて話を盗み聞きしてみる。
『おい!予定と違うじゃねーか!!』
『まだ道具の準備もできてねーよ!』
『こんな状態でアレと戦えなんて私達を見殺しにするんですか!?』
いや何!? なんかめちゃくちゃ物騒なんだけど!!
「なあ、マジで何が起こって…………サキ?」
「……ちょっと、あの張り紙見てよ」
何故か愕然としているサキに言われた通り、張り紙を見る。
「『プライダル・ドラピリア』出現まであと五日────」
魔を喰らう領域の竜は月に一つ、この地へと襲来する。
第一章、終───




