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ラフサーガ  作者: 笑太郎
一章 新たな冒険は彗星の如く
2/43

始まりは清々しく、異変と共に

 およそ二年の月日が経った。


「いぃぃぃやっはーーーっ!!」


 遂に、遂に冒険人生が始まった!

 俺の名はワロタ。俺は今の今まで一人で町から離れることを許されていなかったが、十五歳となった今、呆気なく独り立ちを許されたんだ。ってワケで、実質家出みたいな状況だが……事前に伝えはしたから問題はない……はず!


 運良くほぼ雲の無い状況で辺りは草原。その場で立っているだけでも気持ちがいい。

 青空の下、緑の草原。どんなに清々しい気持ちか。気分は高まり、辺りを適当に走り出す。


「はーっはっはァァァァ!! ホント自由って感じだ!!」


 何でそこまで喜んでるかって? そうだな、まずは話そう。


 おおよそ二年くらい前にこの国……ミハなんたら王国? ってとこに引っ越してから本当に暇だった。引っ越す前は友人も何人かいてまあまあ満足してたんだけど、この国に来てからは近くにいるのが港町のおっさんばかりで遊び相手がいない! まあ色々世話してもらって有り難かったけども。


 ちなみに俺の親父はあの強烈な夜逃げ事件から行方不明になった。そういうのもあって俺は引っ越したんだろうな〜とか考えたりしてる。その後は親父の代わりとなる、親父の知り合いらしいよく分からんオッサンに世話してもらって何とか生きてきた。

 これがまた頑固で、さっきも言った通り今まで冒険させてくれなかったんだ……理由を聞いても答えてくんねえし。


 だからこそ、俺は遂に完全なる自由を手に入れられて嬉しいんだ。


「よっしゃァ! 今日からは本当の冒険を楽しみまくるぞ!!」





………………

…………

……






 だだっ広い草原を気が済むまで走ってから、背負っているリュックを置いて腕を頭の後ろに組み、草原の上で仰向けに横たわる。


「そういえば考えてなかったけど、この後どうしようか」


 実を言うと冒険に出るという行動のみを目標としていたので、冒険を始めた後にどうするかを明確に決めていなかった。ってかあんま考えていなかった。とりあえず冒険ができればいいってくらいあの時は暇だったからな!


「まァ、冒険とか旅って出発直後は目標とか決めてないことが多いし……よっと!」


 と言いつつ、強い意志を持ち始めたかのように勢いよく立ち上がる。


「とりあえず、魔物とか見つけながら、いろんな町にでも行くとするか! まあ魔物いないかもだけど」


 まずは小さな目標を決め、俺は一直線に前へ向かった。



 そうして歩いていると、川に行く手を阻まれた。こっちに行ったのミスったかな……と思いつつも突破口を考える。


「そういえば、川の流れの先に行くと集落があることが多いって何かで見た気がするな……よし!」


 本かどこかで学んだ記憶を頼りに、下流へと走る。


「ゼェ………ゼェ………」


 結構な距離を走ったためか、息切れを起こした。急ぐ必要は全く無いんだが、興奮というかワクワクが強すぎて張り切り過ぎたかな。


「いやァ〜、疲れた……せっかくだしちょっと軽くこの川で水浴びでもするか……」


 綺麗な川だったのでつい飲んだり浴びたくなってしまった。走った後に浴びる綺麗な川は最高だ。

 ヒンヤリしてるし爽快感も最っ高! 周りに人なんて誰もいないし大声でこの感情叫んだろ!!


「ぷはぁーっ!最っ高!晴れてるから水面も輝いてるしもうホント最高っスわーー! …………って、ん?」


 グッシャグシャに濡れた俺の視界の先に、一目で町とわかるほどに様々な建物があった。多少声も聞こえる。


「うわマジか! 割と見える距離だったのになんでさっき気付かなかったんだ!? タオルタオル……」


 リュックの中からタオルを取り出し、急いで身体を拭く。あんまこういう所は他人に見られたくはないしな。


「冒険史上初の町発見! ほんじゃあ早速お邪魔しますか」



………………

…………

……




 町へ入ろうと歩くと、少しずつ、町から聞こえる声に違和感を感じてくる。


 その直後。目線の先にあった家が、轟音とともに崩壊した。


 思わず歩みを止め、警戒態勢をとる。

 すぐにこの町の違和感と、家が崩壊した原因が分かった。


「最初の町を発見してすぐに最初の敵発見か……まさか本当にああいうのが実在するなんてな」


 ミノタウロスと言うべきか。およそ三メートル程ある巨体は、見る者全てを圧倒するかのような威圧を放つ。それは二足歩行の茶色い牛のような姿をしており、頭には双角が生えている。アレが町を危険に晒しているということは本能で分かる。


「キャァァァァ!!」


 町民が牛の化け物から必死に逃げるようにして遠ざかっている。


「グハハハハ!! 暇つぶしに来てみたが、弱っちくて楽しめやしねェ!! ついでに金品貰ってくぜ」


「ひいいい……! 牛の化け物!!」


 やはり正直そこまで考えてもいなかった。現状はこれからいろんな街巡りをしたり、いろんな人と話したり、本に伝わるスライムやゴブリンを倒しながら、軽い気分で冒険するつもりだった。しかし今は目の前に軽く三メートルは超えているであろう巨体の化け物がいる。

 肌で感じる……マトモではないと。


「ありゃあちょっと現実的じゃねぇよな……ヤバいな、さすがに逃げるか? ……いや」


 冒険を始めたばかりなのに、早速逃げるなんてそんなクッソつまらん選択はできない。俺は身体で分かっていた。苦しくて苦しくて胸が張り裂けそうな程に、この時を待ち焦がれていたのだから。


「───やろうぜ……牛の化け物!!」



………………

…………



「グハハハハ!!今度はこの家貰っちまおうかな……」


「うわあああ! ローン残ってるのに! プリンも箱ごと買ったばかりなのに!!」


 男の目の前まで迫る巨体の牛の化け物。凶悪な笑みを浮かべながら恐らく男の家であろう建物に手を付ける。

 その直後だった。


「グハハハハ!! プリンは半分残してやらんことも……ガッ!?」


 ゴンッ、と音を立てて牛の化け物の頭部に何かが直撃した。


「何だ、レンガ……?」


 すかさず辺りを見回す牛の化け物。その先に君臨するは…………


「……誰だ貴様ァ」


「俺か? 俺の名はワロタ、ついさっき始めたばかりの冒険者だ!!」


 決まったァァァ〜〜〜〜!!

 第一印象は大事だからな、俺の人生史上初の本格的な冒険……最高のスタートを切っていこうじゃねーか!!


 そう悦に入っている間に、一人の町民の男が俺へと飛び付く。


「馬鹿アンタ! 何やってんだ……! 魔物相手に……!!」


 焦る気持ちは分かる、だが冒険駆け出し無謀モードの俺以外に現状あの牛の化け物に抵抗できる人間がいるとは思えない。


「それにアンタまだ子供だろう……! ここは大人の俺たちに任せて、早く逃げるんだ!」


「じゃあなんで大人もみんな逃げてんだよ、ここにいるのもうおっさん一人だろ!」


 まだ人が沢山いたならば、別に牛の化け物を挑発するためにレンガを投げつける必要などない。だが実際は既にほとんどの人は逃げており、目の前にいるのは町民の男だけだ。


「ッ……だからと言って、子供を危険な目に合わせる訳にはいかないだろう……!」


 流石にそんな会話も長くなっては、牛の化け物が待ってくれるはずもなく。


「ガキィ……この俺にキズを付けた罪は重いぞ!!」


 レンガを頭に投げつけられた牛の化け物の怒りは爆発。まあまあ落ち着いて、アンガーマネジメントっていう良い抑え方が……ってヤベェ!! 拳が俺目掛けて振り下ろされ……!


「危ない!!」


「ぐあっ」


 町民の男に俺は突き飛ばされ、間一髪食らわずに済んだ。しかし───


「───おっさん!!」


「アァ? オイオイオメェじゃねェのによォ、()()()()……」


 町民の男が建物の瓦礫にまみれ、血を流していた。


「う……がは……俺のローン……」


「おっさん!! すまねえ……俺が来たせいで!!」


「いいんだ、それよりアンタにケガが無くて良かった……」


「グハハ……! 何言ってんだお前、ちゃんとこのガキもすぐに同じような姿にしてやるよ……」


 やはりマトモではなかった。牛の化け物の殴打は木造建築を破壊できる程の強さはあった。いくらなんでもアレを食らったらそこで冒険……それどころか人生はおしまいだ。


「───チクショウっ」


「へッ、走って逃げやがった!やっぱりただの臆病なガキだな」


 すまんおっさん、少しの間耐えてくれ……!



………………

…………

……




 一旦策を練る。冷静になって考えると俺はなぜ武器を手にしていないんだ!?……本に書いてある物語でさえ木の棒くらいは手にしてたってのに。

 そう自分に呆れた俺はあることを思いついた。


「あの家が一番キッチンデカそうだな」


 牛の化け物に見つからないように崩れた家へ向かい、一人ブツブツと祈りながら素早く建物内のキッチンを漁る。


「あった……!コイツがありゃ行けるだろ」


 野菜や魚程度ならサクサク切れるレベルの包丁を手にした。これであの巨体を切断できるとは限らないが、何度も斬り刻めばかなりのダメージを負わせることは可能だろう。


「今に見てやがれよ化け物……!おっさんの仇を……俺が取る!!」

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