眠れる森、悪樹の凶枝
「あの森の中だな」
「そんな遠くもなかったな〜」
俺たちが見る場所には、広大に広がる森があった。そこまで木が高くないのと昼というのもあり、森の中は明るいようだ。早速進入しよう。
「蜘蛛野郎がいた不気味な森と違って随分明るいっていうか……綺麗だな」
「なんだか眠くなってきちゃうよ」
ふと周りを見ると、リスが走っている光景が見える。
「ほ〜、普通に動物いるんだな〜、本当にこんなトコに強い魔物なんていんのかな」
「確かに、魔物がいるとは思えないほど長閑だな」
あの紅制エビルウロスを凌駕するであろう紅級の魔物がいるとは思えない程に落ち着いた森の中の空気を味わいながら更に奥へ進む。
「ザ・おとぎ話の森って感じだよな、余裕で寝れる」
「うん……魔物の気配なんて全然しないよね〜……しかもこの森かなり広いし」
恐らく悪樹は一体のみ。思っていたよりもこの森はずいぶん広かった……まさかこの量の木から一本だけ探せってことか?いやいやそんな間違い探しじみたことはないだろう……わかりやすい特徴があるはず。
「ん……? 皆見てくれ、あそこだけ……」
クチクが指さした場所には、何やら少し怪しげな雰囲気の開けた空間があった。
「アレ怪しいな、きっとあそこが悪樹の住処だ!」
悪樹がいそうな場所を見つけ、俺は早速走って向かう。
「お、おい、何が起こるか分からないからもっと慎重に……」
「私も行こーっと!」
「…………我が仲間ながら危ないヤツらだ」
……
…………
………………
俺たちが見たその開けた場所に出ると、まさにそれっぽい木があった。
「見た目的に多分あれが悪樹だよな……」
「絶対そうだね」
「……気を付けろ」
幹の色は普通の木の色──だが、周りの木より一回り以上大きく、更に幹の部分をよく見るとうっすらと表情のようなものが見える。
「眠ってる、って感じかな」
「じゃあ今のうちに攻撃したら簡単に倒せるんじゃねえか……?」
「……そうかもしれないな」
ごくりと固唾をのみ、恐る恐る三人で悪樹に近付く。が、ワロタが歩みを止める。
「(……ちょっと待った)」
「(えっだいぶ近づいちゃったよ!?)」
「(いやそもそもこれどうやって倒すよ?)」
俺はまあ短剣でちまちま削って闘気で衝撃を与えたり……クチクは普通の剣で斬って……サキってなんか武器持ってたっけ?拳一本でやってたよな……
「(は、刃物とかで削ったり?)」
「(……サキはどうすんのよ)」
「(えぇ?……ああ、そういうことか。心配しないで)」
すると、サキがゆっくりと手に力を込め──
「(ほいっ、準備ばっちり!)」
指先に沿うように鋭いオーラが流れた。
「(この技は結構体力使うから、少しずつしか使えないんだけどね)」
なるほどそういう闘気の使い方もあるのか……!鋭い手刀的な……
「(……見てると俺も闘気を使いたくなってくるな)」
「(あれ、クチクは闘気使えないんだ)」
「(修業期間が短かったから覚えられなかったんだ。まあクチクは強いしその内覚えるさ)」
自分よりも壮絶な人生を歩んでいる筈なのに自分が先に習得してしまって少し申し訳ないなとか考えながら、再度三人の目線が悪樹に向く。
「(準備はできたな……せーのでいくぞ)」
二人とも頷いて一呼吸置き、口を開く。
「「せーの……!!」」
鉄と木、そしてエネルギーの衝突する音が森に響き渡る。
「あれっ、なんだ?思ってたより柔らか──」
一瞬だった。
「ワロタ!!」
眠りから目覚めた悪樹の身体から生えた太い枝が伸び、薙ぎ払んとばかりに激突して俺は後ろへ吹っ飛んだ。
「がっは……!そういうパターンかよ……!」
「成る程、やはり攻撃方法は枝か……!」
一応さっきの攻撃でだいぶ傷が入ったみたいだが、この雰囲気だとまだまだ倒れはしないだろう。
それよりも悪樹の硬さだ。硬いには硬いが、そこらの本物の木よりは全然柔らかい。力を入れれば包丁でも薄く刃が通るレベルだった。
「全然頑張れば倒せる!もう一度攻撃だ!」
右手に短剣を構え、また悪樹へと走る。
「どおおえっ!」
眠りを妨げられた悪樹から伸びる太い枝が俺の身体を掠める。頭に当たったら死ねるな…………ん?そうか!わざわざ移動しなくたってコイツから身体を差し出してくれてんじゃねーか……!
「だったら……そぉらよっ!!」
短剣で悪樹から伸びた太い枝を切り刻みながら走る。
「ハッハァー! もうこの枝は使いモンにならねえなァ! オラオラァ!!」
そのまま悪樹本体に傷を付け、すぐに次の枝が来るのを見計らって後ろに下がる。
「ふう……初手食らっちまったけど、攻略法は見えたぜ」
「成る程……わざわざ目の前に行くまでも無いということか」
「じゃあ攻撃が来るのを待つのみ……来た!」
サキが身体を横にスライドして枝を避け、すぐに闘気の手刀……手闘とでも呼ぼうか、それで枝を切り刻む。めちゃくちゃ便利だ……
「そしてこのまま!」
本体の元へ向かった矢先、別の枝が伸びて来た。マズくないか!?
「っ……避けきれない……!」
その言葉の直後、サキの姿が消える。マジでブッ飛んでしまったのかと一瞬焦ったワロタだったが、その心配の必要も無く。
「危なかったな」
「あ、ありがと……!」
ふぅ、よかった。クチクがギリギリで飛び込み、サキを突き飛ばしたのだろう。無事に悪樹の攻撃を食らわずに済んだ。
「さて……連続二本立てか」
新たに二本の太い枝を身体から伸ばす悪樹の表情は絵に書いたような悪い顔。絵として見れば緩い何かのキャラとして成立しそうだが、実体とやりあっているとそんな風に見る暇もない。
「どういう判断で枝を飛ばす相手を選ぶのか分からねえが、二本とも一人に飛ばせるってことは……!」
地面に落ちていた石を拾い、悪樹に投げつける。
その直後怒り狂った悪樹は思っていた通り二本の枝を俺へと飛ばしてきた。
「サキ! クチク!!」
「もう、口で説明してほしいなぁ!」
何とか二本の枝を避けた後、サキとクチクに合図する。
ヘイトが一人ずつなら、その一人がヘイトを持っている間に後の二人に攻撃してもらうってパターンよ……!!
「フンッ!!」
「そらそらそらぁッ!」
クチクの剣でスパッと悪樹の枝を斬り、サキの手闘で本体に何度も傷を与える。
「うっ、もうエネルギーが……また少ししたら攻撃するよ!」
「あいよぉ!」
本体の元へ到着した俺は手闘が切れたサキと交代し、短剣でまた悪樹に傷を与える……と、
「──っ! ワロタ危ない!!」
「ウッソ!? マジかよ……!!」
また新たに太い枝……いや違う!! 丸太を生やし、俺を叩きつけんとばかりに伸ばす。
「どぉわぁぁぁぁ!!」
必死で横に倒れるように全力で跳び、ギリギリ難を逃れた。
「ハァ、ハァ…………マジかマジか……」
倒れながら上を見た時の光景、それはまさに圧倒。悪樹の後頭部からうねうねと動く四つの柱。
「あのデカさの丸太が四つ来んのかよ……!!」
悪樹は凶暴な笑みを浮かべ、それを焦燥の目で見上げる俺。
両者とも、凶なる魔がすぐ迫るとも知らず。
悪樹メーラスウッド
分かりやすい例えで言えば某ピンクの悪魔に出てくる木の敵をエビル化したもの。
それはまるで木材ではないかのように柔らかく、素早い。




