第5話 残念!砕けました!!
「降参だよぉ~」
「ほほほっ。初めてにしては筋が良かったと思うのぉ」
勝負がついた。ヴァーム爺の勝利である。ヴァーム爺に褒められたニューニャはまんざらでもなさそうな顔をしていた。彼女の太刀筋は綺麗なモノで無かったため、ラルフは経験者ではないと予想する。
(前世で剣術を習ったりはしてなかったのかな?スゴイ剣を推してたから思い入れでもあるのかと思ったけど)
そういうわけでもなさそうだ。ラルフがそういうことで考察をしていると、
「今度はラルフの番だよ!」
「え?僕?……うん。まあいいけど」
彼は木刀を持って立ち上がり、ヴァーム爺の方へと歩く。それから剣を振り上げ、
「てい!」
そこそこの手加減をして振り下ろした。これはヴァーム爺をケガさせないための配慮などではなく、純粋に転生者とバレないための行動だ。最初から上手いとバレかねないので、年相応程度にしておこうと考えたのである。
(このあとハイペースで強くなるのは、勇者の才能ってことで見逃して貰えるかな)
「てい!やぁ!」
何度か剣を振る。当然全てヴァーム爺は防ぎ、いなしてくる。ラルフにはここで本気を出したところで、勝てるビジョンは見えなかった。そんな中、ふとあることを思いつく。
(ここでただ模擬戦するだけだと修行にならないよね。それなら、ちょっと実験してみようか。よく身体強化で使ってる謎の力(気力)をこの剣に流して……)
剣に力を流し込んでいく。やっていることのイメージとしては、魔力を流して魔法剣をつくる感じだ。彼の理想とするものもそれである。
だが、そんな考えに反して、
ピキッ!
「ん?」
何かが折れるような音が聞こえた。少し不吉な予感がする音である。ラルフも音の原因に意識を向けたいところだが、目の前のヴァーム爺から目を背けるわけにもいかない。後で何か起きていないか確認しようかと考えたところで、
パキパキパキパキッ!
「うえぇ⁉」
異変に気づいた。自分の持ってる木刀に大量のひびが入っていたのだ。もう壊れる寸前。
(え?え?なんで⁉ヴァーム爺、木刀にひび入れるわざとか持ってるの⁉)
そんなことを考えている間にもひびの数は増えていき、
パラパラパラパラ。
「うええぇぇぇ!!!????」
崩れていく木刀。もう見る影もなくなっていた。ラルフは怯えたような目でヴァーム爺に視線を送る。だが、ヴァーム爺も彼と同じように理解が出来ないという顔をしていた。
「ラ、ラルフ。魔力でも流したのかの?」
「ま、魔力?魔力なんて使えないよ」
ラルフはドキッとしつつも首を横に振った。ラルフが使った者は魔力ではなくよく分からない力(気力)なので、嘘ではない。ただ、ラルフが魔力を目指して手に入れた力であるのは確かだ。深いことを聞かれないようにするためにも、ラルフは質問をする。
「ま、魔力を流すと、木刀って粉々になるの?」
「そうじゃな。加減を間違えて強い魔力を流すと、木刀みたいに耐久力が低い物は力に耐えきれずに砕けるのじゃ」
「そ、そうなんだ。よ、よく分からないけど、ごめんなさい」
「い、いやいや。謝る必要はないんじゃよ。木刀はいくつもあるし、1本くらいなくなっても問題ないわい。……ただ、原因が分からんのぉ。本当に魔力は使えないんじゃな?」
「う、うん。使えないよ」
ラルフは頷く。そうしながらも、頭の中では原因に察しがついて考え込んでいた。
(この謎の力、流すと剣が壊れちゃうのかぁ~。……いや、流しすぎると壊れるって行ってたから、手加減できるようになれば良いのかな?後でこっそり練習しておこう)
地面に落ちた木刀だった物を見ながら心に固く誓った。彼がそんな決意をした後、剣術は素振りの練習が行われた。その前ににぎり方や方なども教わったが、ここは割愛。
その日以降、木の枝がいくつも粉になったことは言うまでもないだろう。
「えいっ!たぁ!」
「ふん!ふん!!」
「そうじゃ!その調子じゃ!もっと肘を入れて、振り下ろしをまっすぐ!!」
かれこれ数十分。ひたすら剣を振り、それをヴァーム爺に見てもらっている。休憩もなく、ひたすら降り続けているのだ。この単純作業は、ある意味地獄と言えば地獄かもしれない。ただ、そう感じるのも人によると言える。ラルフとニューニャの2人は、そんな単純作業に嫌気を感じることはない。
ニューニャの方は分からないが、ラルフに関しては理由がある。彼の場合は、
(動けない間はひたすら魔力を求めて力を操ってたからね。単純作業には慣れてるよ!この単純作業の間にも改善点を見つけて、それを修正し続ければかなり強くなれるはず!)
赤子の時期に忍耐力がついていた。ひたすら剣を振りながら、自分の筋肉の動き、剣先の乱れ、呼吸と身体の動きのズレといったものを確認していく。このときに役に立ったのが、『集中』のスキルだ。すでに上級にまでなっており、今はスキルの効果もあってまったく剣以外のことに心が揺れたりすることがない。それこそ、
「……ルフ、ラルフ!」
「っ⁉な、何⁉」
「何ってこっちの台詞だよ!ラルフ、何回呼びかけても気付かないんだもん!」
「え?………ああ。ごめん」
こうなるくらいには。