エピローグ
「き、貴様は⁉」
「僕はしがない援軍だよ……って、聞いてないか」
魔族の後ろには、笑みを浮かべたラルフが立っていた。
すでにラルフは剣を振って、魔族を首だけにしている。ラルフの言葉などもう聞こえてはいない。ラルフは剣を振って血を飛ばしつつ、3人に笑いかけた。
「やっほぉ。3人ともケガはない?」
「「「ラ、ラルフ⁉」」」
ラルフの問いかけには答えず、3人は驚愕の声を出す。
(驚いてるね。ビッティーの格好をしてるときに、僕を呼んでくるって言っといたはずなんだけど。信じてくれてなかったのかな?)
色々と考えるが、途中で思考を終わらせる。今は考え事をしている場合ではないのだ。敵を倒す必要もあるし、上の立場の者への挨拶も必要である。
「アイゼル様。コルイフ様。レアム様。僭越ながら私、勇者ラルフが加勢に参りました。すぐに片付けますので、しばしのご辛抱を」
「あ、ああ。ありがとうラルフ。3人も苦戦してたみたいだし、助かったよ」
「いえいえ。勇者として当然のことをしたまでです」
アイゼルの礼の言葉へ笑顔で返し、ラルフは残りの敵に剣を向ける。そして兵士達と挟み込むように、つまり背後をとるように斬りかかった。こうなると敵は混乱。背後のラルフに対応しようとすれば正面の騎士に攻撃されるし、正面の騎士に意識を裂けばラルフに斬られる。
(ん~。さっきのボスみたいな人以外は弱いねぇ。数を寄せ集めたって感じがするよ。なんでこの程度の実力で王城に入り込めたのやら。というか、ビッティーの暗殺のために暗殺者は沢山使ったから、しばらくは暗殺はないって公爵も言ってなかったっけ?)
色々と疑問が浮かんでくる。だが、ラルフは深く考えたりしない。今の仕事は目の前の魔族を打ち倒すことなのだ。考えることは、そういう仕事の人に任せてしまえば良い。
「ほいっ!……これで最後、ですかね?」
数分後、ラルフの活躍によってあっという間に魔族の殲滅は完了した。数人は尋問を行うために生きたまま捕らえている。全て倒すだけなら楽だったのだが、生け捕りをするための作業に予想外に手こずった。
(まさか、自害用の毒を飲むとは思わなかったよ。自害される前に捕らえるのがどれだけ大変だったか)
ラルフは疲れた顔をしつつ、剣を納めてアイゼル達の元へ歩いて行く。
「アイゼル様。殲滅完了致しました」
「うん。お疲れ様。ビッティーが間に合ったみたいで良かったよ」
「ええ。……とはいえ、ビッティー様よりメイドの方が足は速かったですけどね。メイドだけよこせば安全で迅速だったのでは?」
「はははっ。それはそうなんだけどさ。ビッティーが1人で走って行っちゃったから」
ラルフの言葉に、アイゼルは苦笑いをする。お前がそれを言うなという顔である。だが、この会話は必要な会話なのだ。ラルフとビッティーが別人であると言うことを周りの王女や勇者パーティーに知らせるために。
「君が噂の勇者君か。……助かった。後で褒美を出そう」
「ありがたき幸せ」
コルイフは微妙に壁がある態度で礼を述べてきた。ラルフとしても問題はないので、感謝の言葉と共に頭を下げておく。すると今度はコルイフの隣からレアムが、
「ふぅ~ん。君が噂のラルフ君かぁ。確かに整った顔をしてるねぇ。戦うところも格好良かったし。惚れるのも分かる気がするよ」
「……へ?ありがとう、ございます?」
ラルフは何を言っているのかよく分からないとと言ったように、首をかしげて間抜けな声を出しておく。もちろん、本当は理解しているが。
(僕は鈍感系主人公。だから女の子から向けられる行為とか興味とかには全く気付かない。僕は鈍感系主人公僕は鈍感系主人公僕は鈍感…………)
「ラルフ君?」
「あっ。はい!」
自分を洗脳することで頭がいっぱいになっており、途中からレアムの話を聞いていなかった。それを知ってか知らずか、レアムはもう1度復唱してくれる。
「突然こんなこと言ってもビックリしちゃうよね。もう1回言うよ。……もしもう1人四天王を倒すことができれば、私と婚約させてあげよう!」
(は?何言ってるのこの子?)
聞いたときの率直な感想がこれである。確かに、ラルフが将来有望そうなら婚約も考えると言っていたので、そういう話が来るのは予想していた。だが、この婚約がまるでありがたいもののように言ってこられるとは思っていなかったのだ。ラルフはため息が出そうになるのを全力で抑えつつ、
「私の婚約は、公爵家の政治的なカードでございます。私が決められることではございません」
できるだけ丁寧に逃げた。王族の話を断るなんてありえない。だが、ラルフとしてはできれば恋愛結婚がしたいので受け入れたくもない。ここは逃げる一択だ。
「えぇ~。ラルフ君は、私との婚約が不満なわけ?」
「そうは言っておりません。ただ、私の婚約に対して私個人の気持ちなど全く必要ないものですので」
「……固いねぇ」
ラルフに返ってるのは、呆れたような言葉。だが、ラルフとしてはこれで良いのだ。わざわざレアムに好かれる必要など無いのだから。
そう思っていたのだが、
「気に入ったよラルフ君。もし本当に四天王を1人で倒したなら、私との婚約話を公爵家に持って行くね。楽しみにしてて」
「へ?」
「ふふっ。私はあんまり上手い立ち回りとかできないから、優秀な夫が欲しいんだよねぇ。ラルフ君なら貴族社会でも上手く立ち回ってくれそうじゃん」
なぜか気に入られてしまったようである。
(あ、あれぇ。おかしいなぁ~。ゲームの中のレアムって、もっと砕けた感じの人が好きだったはずなんだけど。そうじゃなきゃ、平民の主人公の友人キャラとか慣れないはずじゃん!……もしかして、あの性格はこれからできあがっていくって事⁉)
そうだと考えると、今後のレアムの性格に問題が出かねない。ゲーム通りの性格からは遠ざかってしまう可能性がある。これは考えものだ。
「今度ラルフ君個人を呼んでお茶会とかやるから、ちゃんと来てね」
「……時間があるときには参加させて頂きます」
レアムの言葉に、ラルフは無難な回答をしておく。だが、どこかレアムは満足げな表情だ。ラルフはその理由を、自分が面白い遊び相手だと認識されたからだと予想した。決して鈍感系主人公になりきろうとしたわけではない。
だが、残念ながら遊び相手と思われているわけではない。ラルフは気付いてないが、ラルフの後ろで闘志に燃えている乙女達がいたのだ。気になっているだけのレアムとは違って、本当にラルフへ惚れている乙女達が。
「急いでビッティー様に契約書を見てもらわなければ」
「うむ。我もだ。明日にでも遊びに誘う手紙を出すぞ」
「ラルフ君が四天王を倒すより先に、ラルフ君と婚約して見せます!」
頼る相手がビッティーであることも非常に複雑である。この流れは、確実にゲームの流れからそれていた。
ただ確実に言えるのは、今の悪役令嬢が本物よりも魅力的である、ということだろう。
最終回です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
他にもSFの作品などを書いておりますので、ご興味あればよろしくお願いいたします。




