第34話 残念!義姉とは呼びません!
「……今度、一緒に料理しようか。ライラとディアナはこのままだととんでもない惨事を引き起こしそうな気がする」
「「失礼なっ!」」
「あっ。それ、私も同意しますぅ」
「「なっ⁉ルル⁉裏切り者め!」」
ルルもラルフに同意した。2人が大惨事を引き起こすのが想像できたようである。ついでに、ラルフは予想できていないが、ルルにはその大惨事の結果できた料理とは呼べない何かを食べるところまで予想できた。その未来は絶対に回避しなければならない。
「で、どうなの?料理はやらない?」
「くっ。不本意だが私は参加しよう」
「我も馬鹿にされたままではおられん!真の実力を見せてやろう!」
「私もついでにお願いしますぅ」
三者三様の反応だが、とりあえずはやるらしい。これでラルフは、次の集まる約束を取り付けられたわけだ。策士である。
(よぉし。それならこのついでに)
「ちょっと話は変わるんだけど、来週のこの辺りは時間ある?」
ラルフは3人に予定を尋ねてみる。アイゼルとの約束を果たそうと考えたのだ。
「ああ。この辺りは暇だな」「我もだ」「私もですぅ」
「そう。それなら良かった。実はこの日に第2王女様とセーナ公爵家のご子息様達でお茶会があるんだよ。そこに3人も呼んで欲しいって言われててさ」
「「「……第2王女」」」
ジトッとした視線を向けてくる3人。どうしてそんな目をするのか分からないが、寒気がしたので焦ったようにラルフは詳しい説明をする。
「ほら。第2王女様とアイゼル様がお見合いしたんだよ。そこでちょっと仲良くなったみたいで、お茶会でもしようって話になったんだって」
「「「へぇ。お見合い」」」
なぜかお見合いという単語に反応する3人。だが、先ほどまでのジトッとした視線はすぐに穏やかな者に変わった。
(な、なぜ?)
疑問には思うが、すぐに質問に意識を持ち直す。
「どう?来ない?非公式のお茶会だから、礼儀とかは最低限で良いっていわれてるんだけど」
「……私は行こうと思う。公爵家からも貴族王族との繋がりは作っておくように言われてるからな」
「うむ。我も行くとしよう。我が偉大さを高貴な血筋の者にも知らしめるとしようではないか」
「ふ、2人が行くなら私も行きますぅ」
「分かった。じゃあ、アイゼル様にはそう伝えておくね」
とりあえずやるべき事は終わった。ラルフはこの後雑談をしたりお菓子を食べたり、のんびりとした時間を過ごすのであった。
(あぁ~。スティラにいじめられた心が癒やされるぅ~。子供って癒しだなぁ~。将来はいっぱい子供が欲しいかも)
目の前のモノたちが聞いたら期待した視線を向けてきそうなことを考えつつ、ラルフは癒されるのであった。
「……着いたよ」
数日後。ラルフは豪華な馬車に乗っていた。共に乗っていたアイゼルが、目的地への到着を告げてくる。ラルフは頷き、立ち上がった。
「それではいこうか」
「はい。お兄様」
ラルフ改め、ビッティーちゃんのお披露目。そのお試しとして、第2王女や勇者パーティーの面々とのお茶会に出席するのだ。ラルフは内心緊張しているが、できるだけそれを外に出さないようにして馬車を出る。優雅に、そして傲慢に。思い描くビッティーに身体の動きを合わせる。
「良い感じです。このまま行きましょう」
後ろからそう声をかけてくるのは、ラルフの教育係でもあるスティラ。ラルフ以外には聞こえないレベルの声量で、絶妙な技術を感じさせる。
ラルフはそんな技術を持ち合わせていないので、下手に返事をしたりはしない。スティラにも、返事の必要は無いと練習の時から言われている。
スティラに褒められながらしばらく歩くと、ラルフ達の前には綺麗な庭園が広がった。そして、
「あっ!アイゼル!」
「コルイフ!」
庭園のテーブルに座ってアイゼルに向かって満面の笑みを向けてくる、ドレスを着た女の子。まっすぐな茶髪のロングで糸目。可愛いと言うよりは、どこか綺麗という印象を抱かせる。
彼女こそ、
「あっ。アイゼル。もしかしてその隣の子は」
「うん。そうだよ。この子は僕の妹のビッティー」
「なるほど。私は第2王女のコルイフ・ストラガ・ビノフ。アイゼルには世話になっている。ビッティーも仲良くしてくれると嬉しいな。よろしく」
第2王女にして、アイゼルと良い感じの関係になりつつあるコルイフだ。コルイフに挨拶されれば当然、女装ラルフも挨拶を返すことになる。
「私、ビッティー・セーナですわ。こちらこそ宜しくお願い致しますわ。コルイフ様」
スカートをつまみ、軽く会釈。何度も練習してきたので、ここは完璧だ。
ラルフの挨拶を聞いて、コルイフは、
「コルイフ様なんて、他人行儀じゃなくて良いんだよ。……そ、その。お義姉様、とかでも」
チラチラと期待するように視線を向けてくるコルイフ。ラルフは苦笑しそうになるのを押さえ込みつつ、作り笑いを浮かべる。
そして実に貴族らしく、
「ふふっ。考えさせて頂きますわ。コルイフ様」




