第33話 残念!自分の分はありませんでした!!
「わぁ!」
「うむ。素晴らしい!早速切り分けるぞ!」
「お、美味しそうです」
今回持ってきたのはホールケーキだ。そこまで大きくはないが、子供4人で食べるなら十分な量である。3等分にケーキが切り分けられていくのを見ながら、ラルフは穏やかな表情を浮かべ、
(ん?ちょっと待って。3等分ってどういう事⁉僕の分はないの⁉)
そう思いながら取り分けられるケーキを眺める。3人も故意にやったわけではないようで、
「……あっ。つい、いつもの癖で」
「ど、どうする?ここから4等分に変えるのは難しいんじゃないか?」
「ど、どうしましょう」
慌てだした。3人でわちゃわちゃと切り方を話し合ったりしている。
(うぅん。僕も食べたかったけど、仕方ないかなぁ)
ラルフはしばらく眺めて、これ以上眺め続けても決まらないだろうと判断。少し残念に思いながらも、
「いいよ。3人で食べて。僕はたぶん別の機会に食べられると思うから」
「「「感謝する(します)!」」」
すぐに取り分けられたケーキが3人の前に並んだ。ラルフの言葉を聞いてからの行動が迅速すぎる。まるで、そのラルフの台詞を待っていたかのように。
(え?本当に僕が譲るのを狙ってたりとかしたのかな?僕の優しさが利用されちゃった?……べつに良いんだけどさ)
「おいしいな」
「うむ。素晴らしい献上品だ!褒めて使わす!」
「おいしいですぅ~」
3人は、本当に美味しそうにケーキを食べる。3人の顔を見て、ラルフも笑みを浮かべた。
(いやぁ~。利用されたとしても、笑顔を見れるのは良かったよねぇ。とっても癒やされる笑顔だよ)
「喜んで貰えたようで何よりだよ。作ってきた甲斐があったってものだね」
「ああ。おいしい……ん?」
「うむ。素晴らし……ん?」
「とっても満足で……ん?」
3人の動きが固まる。それから持っていたフォークを置き、ゆっくりとラルフを見上げ、
「「「作った?」」」
「うん。そうだよぉ。生地から焼いて作ったんだぁ。うまく出来てると思わない?」
ラルフは笑顔で尋ねる。実はラルフ、料理も非常に得意なのだ。前世では1人でいることも多かったのだから。
そんな彼の笑顔を見て、3人の女子はまた固まった。そして数秒後。
「「「……はぁ~」」」
揃ってため息をついた。どこか疲れた様子である。
ラルフはその様子を見て焦り、
「え?あっ。ごめん。僕が作ったのとか嫌だったよね。流石に高級店のを買いに行く時間は無くてさ。今度はお店の買っているから許してくれない?」
謝った。すると、なぜだかよく分からないけど3人からジト目を送られる。ラルフは首をかしげて、
(え?何?作る時間があるなら買う時間もあるだろ、とか思ってるのかな?安いお店なら確かにそうなんだけどさぁ)
「何か勘違いしているような表情だな」
「うむ。我らはそういうことが言いたいのではない」
「そうですぅ。そういう事じゃなくて」
「「「男子に料理スキルで負けたって思っただけだ(です)」」」
「……お、おぉ」
そう言われると、ラルフは気の利いたことを言えない。この年齢でケーキを作れる方が異常なのだが、ラルフがそれを言ったところで嫌みにしか聞こえない可能性もある。
(うぅん。こういうときって、どう声をかければ良いんだろう?)
ラルフがそうして悩んでいると、女子3人は顔をつきあわせて、
「私は親に、胃袋を掴むのが大事だと言われたのだがな」
「ああ。我も言われた。……まさか、逆に捕まれてしまうとは思わなかったが」
「私の村で料理できる男の人なんていなかったんですけど、外の村ってこんな人が多いんですか?」
「「そんなわけないだろ」」
ルルの疑問に、2人は首を振る。2人の出身地にも、料理の得意な男子は存在しなかったのだ。予想外な初めてのことに困惑していた。
それから3人はラルフの方を向いて、
「私よりも上手いぞ」
「うむ。我への献上品を創る腕は我より上手いな」
「料理上手なのは羨ましいですぅ~」
と、隠さずに伝えた。ラルフは分かっていたので、とりあえずマズいことにならないで良かったと安心する。それから話題を3人へと変えてみることに。
「3人は、どれくらい料理できるの?」
「私は、野菜を切れるぞ!千切りなら任せておけ!私の愛剣で一瞬だ!」
「加熱なら任せたまえ。灼熱魔法で一瞬だぞ」
「え、えぇと。野菜の泥を洗って落とせます」
(あっ。これ、駄目なヤツだ)
ラルフは3人の話を聞いて感じた。3人目のルルはまだ良い。能力は低くても危険は無さそうだ。だが、ライラは愛剣を料理に持ち込もうとしているし、ディアナは一瞬で辺りを灰に変える魔法を使おうとしている。まな板が真っ二つにされて、辺りが大火事になる未来が容易に予想できた。
(というか、君たち原作とは職業変わってるはずだよね?なんで元の職業に引っ張られてるの⁉)
ライラは賢者になっているはずだし、ディアナは聖女になったはずだ。賢者は剣を使う職業でもないし、聖女も灼熱魔法なんて使わない。




