第30話 残念!泣いてました!!
「ビッティー。……ビッティー……」
ソファーにうずくまり、涙混じりの声を出す者が1名。その人物は、ラルフにとって予想外の人物で、
「アイゼル様?」
「ぐすっ。ぐす………え?ラルフ君?」
うずくまっていた人物は顔を上げる。その人物は、確かにアイゼルだった。ただ、目の下が腫れていて、いつものような爽やかさはない。
「ビッティー様のこと、引きずっておられるのですか?」
「……違うよ。って言いたいところだけ、見られちゃったからごまかせないよね。うん。そうなんだよ。ビッティーが死んじゃったことそのものって言うより、家族が殺されたことが怖いって感じ、かな」
そう言って、アイゼルは弱々しい笑みを浮かべた。かなり無理をした笑みに見える。
(あぁ~。アイゼルも苦労してるんだねぇ。そりゃあ普段の様子がゲームと似てったって、まだまだ経験ではこっちの方が少ない子供だからなぁ)
「悲しいではなく怖い、ですか。……それは、自分も殺されるんじゃないかという恐怖ですか?」
「どうだろう。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない……自分の気持ちも、良く分からないんだよね」
「そうでしょうねぇ。自分の気持ちは自分が1番よく分かるなんて言う人もいますけど、自分を客観的に見るのも難しいことですから」
ラルフは疲れたような笑みを浮かべて、今までのことを思い返す。もし自分のことを完全に理解できてるのなら、スティラに簡単に乗せられて黒歴史を作るなんてことも無かったかもしれない。
「公爵家の次期当主として、今のままでは許されないかもしれないね。解決策でもあれば良いんだけど。ラルフ君、どうにか出来ない?」
「私ですか?私よりも精神面の安定をうまく出来る人はこの屋敷に沢山いると思うんですけど。……・でも、提案するとすれば、今みたいに誰かに話してみたり、気持ちを日記みたいな物に書いてみても良いかも知れないですね。話すにしても書くにしても、そうしている内に自分の気持ちが理解できてきますから」
「……なるほど。じゃあ、もう少しだけ相談させて貰えるかな?」
ラルフの提案を聞いて数秒考えた後、アイゼルはラルフへ眼差しを向ける。ラルフとしても断る理由はないので、
「ええ。勿論構いませんよ。私も丁度眠れなかったところなので」
「そう。……僕はさ、ビッティーが殺されたって聞いてから最初は…………」
ポツポツとアイゼルは語り出す。ラルフはしばらくその話を聞き続けた。そして、聞きながらアイゼルの心境を分析していく。その結果分かるのは、
「1番大きい悩みは、話し相手がいなくなって寂しいって事じゃないですか?」
「そう、なのかな?」
アイゼルの語る内容のほとんどは、ビッティーのみが今まで対等に話せる相手だったこと。そして、ビッティーがいなくなってしまった今、アイゼルの考えを否定したり出来る人間がいなくなってしまったこと。そういったことに集約できた。
「そうじゃないですか?今までの話を聞く限り、対等に話せる相手がいなくなって孤独を感じているように聞こえるんですけど。家族が殺されて怖いというような要素は最初だけでしたし、そこの恐怖は少ないように思えました」
「…………うぅん。なるほど。もしそうだとすると、どうするべきかな?」
アイゼルは悩むような顔に。ラルフもその隣で、一緒に何が出来るのか考えてみる。
(対等に話せる相手、か。物語の主人公としては、僕が対等な友達になるとか言うべき所なのかもしれないね。でも、僕としてはセーナ公爵家とズブズブになりすぎるのも困ったことになりかねないからなぁ。……それなら、)
「第2王女様とお見合いしてみるというのはいかがでしょうか?」
「お見合い?第2王女様と?」
「はい、まず、アイゼル様と対等に話せる方は公爵家以上の身分でなければなりません。勿論すでに当主であられる貴族様であれば別ですが、そういう方は同年代ではありませんし」
「そうなると、残るのは他の公爵家の子供か王族。他の公爵家は3家の結びつきが少し強くなってきてるから、王族にしたって感じかな?そして僕と唯一の同年代だから、第2王女様とのお見合いの話になった、と」
「その通りでございます」
完全にラルフの思考が読み取られている。アイゼルの思考能力はすでにラルフを超えているかもしれない。
(精神年齢的にはかなり差があるはずなんだけどなぁ。やっぱり、生まれって大事なのかな?僕も人生経験は豊富な方だと思ったんだけど。それなのに思考が読まれるのは悔しいねぇ)
悔しいとは思っているはずだが、顔に浮かんでくるのは笑み。アイゼルの才能を感じ取り、思わず笑みが浮かんでしまったのだ。
「今のところお顔を見たことはないでしょうが、お見合いであれば無下にも出来ないでしょう。そこで仲良くなることが出来れば、例え婚約者でなくても友人という立場にはなれるはずです。あまり性格がひどいようであれば、しばらく合わないようにすることも出来ますしね。お見合いですから」




