第2話 残念!転生でした!!
「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「あらあら。ラルフは元気ねぇ。きっと将来は良い農家になれるわ」
「そうだな。家を継いでもらわないとな。ついでに、良いところのお嬢さんと結婚して、今より広い農地が貰えたらなおよしだ」
「もぉ~。あなたったら。欲を出しすぎよぉ」
転生先は夫婦仲の良い農家の家庭の長男。長男といっても今のところ他に兄弟がいるわけではなく、一人っ子である。そんな彼だが、1つ確信していることがあった。
(これ、前世でやった『イケメン学園』の世界だよなぁ)
名前からお察しの通り乙女ゲームである。母親が購入していたゲームの1つであり、彼が1番長く遊んだゲームの1つでもある。
さて、ではどうして彼がその世界に転生したと分かったのか。その理由は簡単。彼が、
(僕、攻略キャラの1人だよね?しかも、上級者用のダウンロードコンテンツの)
ラルフという名前、そして、金色の髪と赤い目という特徴的な姿が決め手だった。そして、その事実によって彼は最高に落ち込むこととなる。
(ラルフって、結構不幸なキャラだったよね?しかも、勇者になって基本的に毎日戦うんだっけ?……はぁ。やだなぁ。僕は毎日家族と幸せに暮らしたいよ)
「お?どうしたラルフ。目が据わってるぞ。具合でも悪いのか?」
「あらあら本当ねぇ。書類仕事をするときのお父さんに似てるわ。どうしちゃったの?」
(はっ。いけない!心配させちゃった。ラルフに転生したからって、落ち込んだままじゃいけないよね。勇者になる素質はあるみたいだし、家族の笑顔くらい守れるように頑張らないと)
彼ことラルフは気持ちを改め、両親に向かって笑顔を浮かべる。そして、おいてきてしまった前世の母屋の顔を思いだしながら、今世の両親はおいていかないようにしようと誓うのだった。
数日後。
「あうぅ~。ばうぅ~。うばあぁぁぁ~」
ラルフは唸っていた。両手を前に突き出し、足をバタバタさせている。
だが、何か不調があるわけではない。お腹だって空いていないし、尿意や便意があるわけでもない。現在彼は、身体の中にうごめく何かに集中している最中なのだ。
(確か、この世界には魔法があったはずだよね。今のうちに魔力の流れを掴んでおけば、お母さんの買ってたラノベみたいにチートが手に入るはず!)
ラルフはラノベにありがちな魔力系チートを欲していた。とはいえ、ラノベにありがちなチートを使って無双してハーレムがつくりたいとか言う訳ではない。彼の根底にある思いは、「家族を守りたい」である。そのためには、ある程度の力が必要なのだ。
では、なぜそこまで急いで力を得る必要があるのか。それを知るには、ラルフというゲームのキャラクターを知る必要がある。
ラルフが乙女ゲームの攻略キャラの1人であり、将来勇者となる可能性があることは分かっているだろう。しかし、彼はそれだけにはとどまらない。彼は、乙女ゲームの中でも攻略が最難関と言われるキャラなのだ。
その理由の1つには、ライバルの多さが上げられる。詳しいことは今は説明しないが、彼を攻略する場合ライバルとなるキャラが4人いるのだ。しかも、そのうちの3人に関してはかなりラルフの依存度合いが高い。その3人には頼れる人がいないときに、優しく接してもらった過去があるからである。
そう。両親や村の人たちといった、頼れる人が全て殺されてしまったときに。
(両親が殺されちゃうのは5歳の時だったかな?それまでに強くなって、家族を守れるようにならないと。5年の猶予があると思えば多少心はマシになるけど、この状態じゃ身体を鍛えるのは無理だからなぁ)
「……あぅ~」
身体が鍛えられないなら何をするか。そう考えたときに思いついたものが、両手を突き出して力を込めるという奇行である。いや。奇行と言ってはいけない。これは、彼の考える中で最良の行動なのである。
(魔力を!魔力を感じるんだ!そして、5歳くらいで魔法を習ったときに初級魔法なのに大魔法みたいない威力を出して天才だって言われるんだ!異世界行ったら子供の頃に魔力を感じるとチートになるって常識だからね!)
そんな常識あるわけがないしラノベ知識に引っ張られている気もする。というか、引っ張られまくりだ。が。決して方向性は間違っていなかった。ただ、彼が感じようとしているものが魔力ではなく、
《スキル『気力身体強化(入門)』を獲得しました》
(やったぁぁぁ!!!!!一週間掛かったけど、やり遂げたよぉぉぉ!!!!僕、魔力を感じたんだぁぁ!!!)
乙女ゲームの舞台となる世界だが、スキルというものが存在する。今回は、そんなスキルの初獲得だった記念すべき日である。数日間の努力もあり、それが報われた彼の喜びも最高潮。だからこそ、彼は気付かなかった。
彼が獲得したスキルに、魔力なんて言葉はなかったことを。
「あうううううぃぃぃ!!!(これでチートでシナリオ改変だぁぁぁ!!!!)」
「あらあら。元気ねぇラルフ」
「元気なのは良いことだぞぉ!早く成長して、俺の手伝いが出来るようになってくれ!」
「ふふっ。そうねぇ。家事の手伝いもしてもらいたいわぁ」
うなずき合う両親。彼らは、微塵もラルフに戦闘力など期待してはいなかった。
(この笑顔を守るためにも、絶対強くなってやるんだ!……って、あっ。お腹が………出そう⁉)
「はははははっ」
「ふふふふふっ」
「おんぎゃぁぁぁ!!!!!」