第21話 残念!拒絶されました!!
「……ふむ。筋肉が足りないな。本当にそんなので勇者としてやっていけるのか?」
「黒き波動を感じない!貴様に深淵は覗けないようだな!」
「あ、あの。向こうに行って貰えますか?」
3人とも微妙な反応である。というか、どちらかというと嫌われているような反応だ。3人目に関しては、完全な拒否である。
(あ、あれ?僕、というかゲームのラルフってこの子達に好かれるんだよね?そのはずだよね?)
あまりの対応にラルフは困惑。しかし、これも仕方のないことなのだ。この世界はラルフが転生したこともあって、少し変化が起きてしまっているのだから。
まず1番の変化が、ラルフの性格である。ゲームのラルフはこの当時、家族を魔物に殺されたトラウマによって憔悴しきっていった。そんな彼に、初対面の彼女たちは驚き心配したのである。心がボロボロな彼に寄り添い、励ましたのだ。
だが、今のラルフにそんな様子はない。初対面で引きつけるようなインパクトがなかったため、急速に距離が縮まることはなかったのだ。
そして2つ目の変化。これは、彼女たちが初対面でなかったことにある。ゲームではここで4人が初めて出会うのだが、ラルフが公爵に情報を提供したことでそれが変化してしまった。それぞれ技術を交換するような形になるため、すでに出会ってしまっているのだ。しかも、3人はかなり仲良くなってしまっている。
イメージして欲しい。とても仲の良いグループに、新しくメンバーがやってくることを。それこそ高いコミュ力がない限り、あまり上手く行きにくいだろう。
このラルフの性格と初対面かどうかと言う2つの変化によって、ラルフは彼女たちに若干距離をとられてしまっているのだ。
「あっ。……ええと、じゃあ、失礼します」
距離をとって欲しいと言われてしまったので、ラルフは彼女たちから少し離れた場所に座る。護衛が慣れない動作で菓子類を持ってきたので、礼を述べてそれを受け取った。困った笑みを浮かべつつ少女達を見るが、向こうへ警戒した表情で見てくるだけ。
「とりあえず、自己紹介だけでもして頂けないでしょうか?」
距離が開いているので、ラルフもこんな敬語を使う羽目になった。少女達は嫌そうな顔をしながらも、
「仕方ない。特別に輝く星となる我が名を教えてやろう!我は堕天せし究極の暗黒聖女!ブラックエクスタシーだ!」
(いや。輝く星にはなるなよ)
ラルフは心の中でツッコむ、輝く星になると言うことは、死ぬということに他ならない。自殺志願者っぽいが、ただの厨二病である。ただ年齢の問題もあり知識量が足りていないだけだ。因みにこの少女は、ゲームでは本来賢者となっていたキャラだ。
「ブラックエクスタシーさんね。聖女なんだ。よろしく。覚えておくよ」
「……一応言っておくがそいつの名前は嘘だからな。そいつはディアナ。それでもって私がライラ。賢者だ」
ブラックエクスタシーは偽名で、本名はディアナらしい。でも、ゲームを知っているラルフはそのことも当然知っている。
そして、そのことを教えてくれたライラのことも当然知っている。ゲームでは結界騎士をしていたキャラである。それでもって、勇者パーティー随一の脳筋でもある。
「ライラね。ディアナ、じゃなくてブラックエクスタシーのことはなんとなく分かってたから大丈夫だよ。でも、教えてくれてありがとう。……そして、君は?」
「わ、私は、ルルです。結界騎士です。……あ、あの、出来れば話しかけないで下さい」
「あ、ああ。うん。ごめんね」
最後のひどく嫌われている様子なのがルル。ゲームでは聖女をしていた内気な少女だ。毒舌設定もゲームではあった。ただ、少し毒舌の色合いが違うが。
(まだこっちの方がいいのかな?ゲームの中のルルはもっと陰湿な感じの悪口だったし)
ゲームでは京都かと思うような嫌みが飛び出していた。それと比べればまだ嫌がられていることが分かる分、こっちの方がましな気もする。
ルルに話しかけるなと言われてしまったのでそれ以上会話はせず、時間は流れていく。途中で少女3人は小声で何か話していたが、ラルフには何も聞こえなかった。
(はぁ~、憂鬱だなぁ。……お茶がしみるよ)
そんな気まずい中30分。
「さぁ。君たち。行くよ」
「仲良くは……なれてないみたいだね。まあいいけど、急いでくれるかな」
公爵達が部屋にやってきた。ラルフを含めて部屋にいたモノたちが立ち上がり部屋を出て行く。
(た、助かったぁ~。やっとあの気まずい部屋から出られる)
開放感を感じつつ、ラルフは公爵の斜め後ろを歩く。少女達は相変わらずラルフを避けており、通路の反対側へできるだけ身を寄せるように歩いている。そうして避けられながらも暫く歩くと広い場所へ。貴族のような煌びやかな格好をした者たちが大勢集まっており、ここが式典会場だと理解できる。ざっと見た限りでは、ゲームの攻略キャラの姿は見えない。というかメインキャラクターどころではなく、子供の姿が見えない。
中央まで歩いて行くと、公爵から手で跪くよう指示が。ラルフは素速くその指示に従い、数秒遅れて少女達も跪いた。そうしてしばらく跪いて待っていると、
「面を上げよ」




