第20話 残念!挨拶に期待されてませんでした!!
「え?もしかして、もう就任式なんですか?」
「ああ。そうだよ」
「え?ちょ⁉言って下さいよ。国王様にどう挨拶するとか考えてないんですけど」
「はははっ。大丈夫だよ。誰も期待してないから」
「それはそれでひどくないですか⁉」
期待はされていないらしい。ラルフは顔を引きつらせながら公爵を見る。が、彼の訴えは適当にあしらわれる。ここで公爵が何を言ったところで、現実は変わらないのだから。
(うわぁ。就任式って事は、アイゼル以外の攻略キャラとも顔を合わせることになるのかな)
他の公爵家の人間や、この国の王子。ゲームの攻略キャラ達も式に参加する可能性がある。ラルフは彼らに会った場合、どう反応すべきかと悩むのであった。
「警戒しておくべき方とかいますか?」
悩んでも思いつかないので、公爵に意見を求める。ただ、意見の求め方は少し工夫してある。ここで同年代の名前ばかり挙げると、友達が欲しいのかと捉えられかねない。
(友達まで公爵家に用意されたくないからなぁ。……ただ、勇者の僕に友達が出来にくいのは確かなんだけど)
ラルフは勇者である。戦場に身を置く人間が、同年代の友人を持てるとも思えない。
「警戒、か。公爵家には警戒をしておけば良いかな。それ以外は特にいないよ。何か面倒な貴族に揚げ足をとられたりしても、それはこちらで潰せるから安心して」
「あっ。はい」
それはとても安心である。公爵様が直々に潰してくれるなら、何も怖いものはない。
(僕を攻撃するって事は、その雇い主である公爵を攻撃することに近いわけだからね。公爵も喧嘩を売られたら買うって事かな)
買うだけには収まらず、相手が二度と再起できないほどにボロボロにすることだろう。
絶大な安心感を感じながらラルフは公爵に着いていく。王城の中もラグジュアリーで、ラルフは居心地悪く感じた。教え込まれた気品のある歩き方をしつつ、ラルフはすれ違う人々を観察。兵士が突然襲ってこないかは勿論、メイドなどが近づいて暗殺を仕掛けてこないかも要注意だ。
(とは言っても、公爵の周りにいる侍女は全員そういうののプロだろうからなぁ)
ラルフにその方面の技術を教えているスティラは勿論、セーナ公爵家の侍女は大概そちらにも秀でている。その中で公爵の周りにいるのだから、相当な実力があるのは確かだろう。
しばらく歩くと、公爵は1つの部屋の前で立ち止まった。それからラルフを見て笑みを浮かべる。ここに入るのだろうと推測したラルフは、大きく頷いて返した。それを確認した公爵は更に笑みを深め、部屋の扉を開いて入っていく。
部屋の中には3人の豪華な服を着たモノたちと、その使用人と護衛。使用人と護衛だけで30人近く配はいそうだ。ここにセーナ公爵達も加わるわけだから、部屋には40人以上人が密集することになる。
「ん。セーナ公爵。やっと来たか。……ということは、その子供が?」
「ああ。私が勇者に就かせようとしている子だよ」
部屋の中にいいる全員の視線がラルフに注がれた。ラルフは心の中で苦笑しつつも、表面上は爽やかな笑みを浮かべ、
「初めまして。ラルフと申します」
簡潔に挨拶を述べる。ここで長ったらしい挨拶をしても良いのだが、下手に失敗するより平民の出であることを理由に簡潔にすることを公爵には推奨された。そして、教育係のスティラにも推奨された。その2人に言われてしまえば当然従うに決まっている。
「……ふむ。勇者君は仲間となる子達に会いたいだろう。隣の部屋に行くから会いに行くと良い」
部屋にいたうちの1人がラルフへそんな言葉をかけてくる。ラルフとしてもこの空間は居心地が悪かったのでありがたい申し出だ。
公爵に視線を送り、頷き返されたので、
「はい。ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
素直に従う。
(ここに居る3人って公爵だよね。ゲームでちらっと見た覚えがあるよ。セーナ公爵もこの人達に何かされたら対応できないって言ってたし、できるだけ関わらないようにしておこう)
セーナ公爵以外との貴族と繋がりを持つことも必要だとは思う。しかし、この空間で作る必要もない。もっと非公式な場であった方がラルフとしてもやりやすい。
「失礼します」
公爵達の集まる部屋から出たラルフは、1人の使用人に連れられて隣の部屋へ。中に入るとそこには3人の少女と数人の護衛が。
「「「…………」」」
3人から無言で見つめられる。ラルフとしては非常に居心地が悪い。だが、ここで黙っておく方が問題であると判断し。
「初めまして。この度勇者として選ばれましたラルフです。どうぞよろしくお願いします」
できるだけ笑顔で。それも、同年代(肉体的に)の子供たちを落ち着かせるような優しい笑みを浮かべて挨拶した。が、
「……ふむ。筋肉が足りないな。本当にそんなので勇者としてやっていけるのか?」
「黒き波動を感じない!貴様に深淵は覗けないようだな!」
「あ、あの。向こうに行って貰えますか?」




