第19話 残念!就任式でした!!
「ただ、教育係を増やすことはない。……この意味は分かるね?」
公爵は問いかける。暗殺技術用の技術を教える教育がかかりを増やすことはないが、どうやって学べばいいかわかるか、と。
もしここでよくこの家のことが分かっていないのであれば、騎士団の面々に尋ねるなんて言う答えが出るかもしれないが、
「はい。スティラさんから教われと言うことですね?」
「その通り。よく分かってるね」
マナーなどを教えてくれているスティラ。だが、教わる中でその動きに戦闘面の考えが入っていることをラルフは理解している。教育係で表向きに戦闘を教えてくれていたのはレンシスだが、2人が戦えば勝つのはスティラだろう。
(しかも、本業は暗殺なんだよね?レンシスさんは気付くことなく殺されちゃうんだろうなぁ)
そんなことを考えながら、その日の訓練を始めた。その日からスティラによる教育は始まるようで、
「公爵様から通達があったと思いますが、本日より訓練内容に暗殺やそれに関連する技術を追加致しますので」
「はい。宜しくお願いします」
その日の訓練はいつもとはまた違った意味でハードだった。毒を調合し、耐性をつけるために自分でそれを飲んだり。その毒に侵された状態で解毒剤を作らされたり。とりあえず身体には悪そうな訓練がいくつも行われた。
《スキル『調合(入門)』を獲得しました》
《スキル『毒耐性(入門)』を獲得しました》
《スキル『下痢耐性(入門)』を獲得しました》
《スキル『麻痺耐性(入門)』を獲得しました》
《スキル『激痛耐性(入門)』を獲得しました》
訓練によって手にはいるスキルは知らないものが沢山。辛く苦しい訓練だったが、モチベーションが落ちることはなかった。
暗殺関連の訓練も始まって数日。その日、ラルフの訓練は休みとなった。訓練の代わりにおめかしをされ馬車に乗せられ、ゴトゴトと揺られていく。
(どなどなど~な~ど~な~)
出荷されていく子牛の気分である。隣に座っている公爵からも移動の理由は一切説明されていないのだ。事情を聞いてみても、
「行けば分かる」
と、満面の笑みを浮かべて返してくるだけ。とはいっても、ラルフとて何も予想できていないわけではない。こんな格好をさせられているのだから、
(位の高い人に会いに行くんでしょ。今後仲間になる予定の子達との顔合わせかな?)
公爵達が話し合って決めたように、勇者以外にも魔王を倒すための職に就くものがいる。ゲームにも出てきたので、その人物達をラルフは知っていた。
では、馬車に揺られている間になぜ職業が必要なのかという話をしよう。この公爵家がそれぞれ出した職業なのだが、一般的な職業とは大きく違う。一般人は剣を持てば剣士と名乗ることが出来るし、魔法を使えば魔法使いと名乗れる。だが、魔王に対抗するために職に就く4人は、神(と呼ばれる存在)から加護を受け、それぞれの職業として強力な力を開花させるのだ。
ただ、必ず勇者という存在は必要になる。なぜなら、勇者のみが魔王の命を絶つことが出来るからだ。それぞれ選ばれたものは強大な力を得るが、魔王を殺すことは敵わない。唯一勇者だけが、その命を奪い去ることができるのだ。
では、勇者だけいれば良いのではないかと思うかもしれない。
しかし、そうもいかないのだ。なぜなら、強大な敵は魔王だけではないのだから。向こうは向こうで力を持った存在がいて、その筆頭が魔王の配下である四天王だ。魔王ほどではないにしろ強大な力を持つ彼らは、一般の兵士1000人と同程度の力を持つとされている。そんな存在を4人も相手をすることは、たった1人の勇者には無理である。だからこそ、仲間が必要なのだ。そしてまた、仲間達と協力することこそが勝利の鍵となるのである。
(まあ、そこは大丈夫でしょ。ゲームでラルフは仲間から惚れられるくらいだったし、あの子達とはすぐに仲良くなれるはず)
「さて、着いたよ」
公爵の声。ラルフは思考の海から現実に意識を戻す。そして、視線を馬車の外へと向けた。
「おお。ここですか…………って、ここ、王城では?」
ラルフの目に見えたもの。それはキラキラと輝く宝石類がふんだんに使われた、豪華な西洋風の城。勇者としての仲間と会うにしては、場所が豪華すぎる気がする。となると、
「え?もしかして、もう就任式なんですか?」
「ああ。そうだよ」
「え?ちょ⁉言って下さいよ。国王様にどう挨拶するとか考えてないんですけど」
「はははっ。大丈夫だよ。誰も期待してないから」
「それはそれでひどくないですか⁉」
期待はされていないらしい。ラルフは顔を引きつらせながら公爵を見る。が、彼の訴えは適当にあしらわれる。ここで公爵が何を言ったところで、現実は変わらないのだから。
(うわぁ。就任式って事は、アイゼル以外の攻略キャラとも顔を合わせることになるのかな)
他の公爵家の人間や、この国の王子。ゲームの攻略キャラ達も式に参加する可能性がある。ラルフは彼らに会った場合、どう反応すべきかと悩むのであった。




