第18話 残念!他家が抱えてました!!
「……まず、ガッシュ公爵」
「む?」
どの家が勇者を出すにふさわしいか決めるため。最初にセーナ公爵が話しかけるのは、3人の中でも1番最年長のガッシュ公爵。
「ガッシュ公爵家では最近疫病が流行っているようではないか。ここは、聖女を輩出して領地のために働いたという実績をつくるべきでは?」
「実績か……なるほど。考えさせてもらおう」
「まだ全て話し終わったわけではないけど、今は一旦保留としておこう。次にヒューリー公爵」
「私か」
ガッシュ公爵の次に目を向けるのは、この中でも1番大柄なヒューリー公爵。
「ヒューリー公爵家では最近、特殊個体やボス個体の魔物が増えてきているそうではないか。ここは、一撃の攻撃力が大きい賢者を出してみてはどうかな?」
「ふむ。一考の余地があるな」
「では、残るはレーム公爵だね」
「ほぅ。残った私が勇者か」
この中では1番の若手。まだ30代後半のレーム公爵が表面上で笑みを浮かべる。セーナ公爵はそれを表情1つ変えずに見つめつつ、
「魔物の大量発生で、最近のレーム公爵家領は防壁を幾つか壊されているみたいだね。ここは大型の結界などの防御力が高い結界騎士が良いと思うよ」
「……ああ。確かにそれなら大量の魔物に対応できるか」
3人、ある程度の納得した表情を見せる。だが、当然ではあるが、
「こうは言っても、私の言った職業は排出されないだろう?そんな職業の有望な人材を知らないだろうし」
「「「ああ」」」
揃って頷く3人の公爵。この様子を見ると、仲が良いのではないかとすら思ってしまう。セーナ公爵は笑みを深めつつ、
「確かに君たち自身には見つけられない人材だろう。でも、君たちの家で育てている優秀な者たち。他家が必要としている職業の者がいるよね?」
「「「っ⁉」」」
目を見開いて驚き、顔を見合わせる3人。そして、
「なっ⁉もしやいるのか⁉聖女の候補者が!」
「我が家には聖女候補で育てていたものがいるが……結界騎士の候補者がいるというのか?」
「我が家は結界騎士の候補者がいる。……そして、賢者の候補者もいるようだな」
お互い求めている人材が他家にいることを確認した。だが、その表情はどこか苦しげ。幾ら優秀な人材でも、他家の人間を招きたくはない。間者として動かれる可能性があるのだから。
「ここで提案ななんだけど、それぞれの候補者を合わせて必要な技術を教え合わせてみたらどうかね?優秀な指導者もいるのだろう?」
「……ほぅ。それなら出来るか」
「我が家としては候補者を外に出したくはないからな。指導者を貸し出す形でなら可能だ」
「ふむ。ではそういう方針で」
3人の話はまとまった。ということで、円満に会議は終了、とはならず。
「待て。勇者はどうするのだ?」
「どの家にも候補者はいないと言うことだろう?」
「どこかしらが妥協すれば良いのかも知れないが、その場合は協力関係が壊れるぞ」
3人の視線がセーナ公爵へ向けられる。視線を受けて彼は薄く微笑んだ後、
「そう考えて、こちらで勇者の候補者は用意してある。暗殺者を出せないのは痛手だが、未強化の数名を組ませて送り込めば対応できるだろう。ただこれは貸しとさせてもらうぞ」
あくまでセーナ公爵としては、他の家が出さないから勇者を出す。というスタンス。3家としてもセーナ公爵が最初から勇者を出すつもりであったことは知らなかったので、
「大きな借りとなるが。……致し方ないか」
「いずれ返すとしよう」
「そういうことなら3家で協力するというのはどうだ?」
セーナ公爵をおいて3人は話し出す。置いていかれた彼は、その様子を微笑みながら眺めた。まるで、それすらも自身の手の上で踊っているとでも言うように。
「とりあえず、それぞれの家が出す候補者は決定と言うことで良いね?」
「「「ああ」」」
こうして、それぞれの公爵家が出す職業は決定。ラルフが勇者となる事も確定したのである。
「……ラルフ君。君の教えてくれたことは役に立ったよ。約束通り君と君の家族には最大限の支援を行おう」
「ありがとうございます」
公爵にラルフが教えた情報は、それぞれの家に優秀な候補者がいるということ。そして、その候補者達がそれぞれ他家において役立つということ。この2点である。
因みにこの情報はゲーム内では語られず、設定資料集のコラムのような所で語られる内容なのだ。相当コアなファンでなければ知り得ない情報である。
(母さんも買ったは良いけど、設定資料集なんて読んでないだろうなぁ)
たまたま前世で押し入れをあさっているときに設定資料集は見つけた。前世の母親も忘れていただろうとラルフは考えている。
「就任式の後は本格的な訓練を行う。気付いているようだけど、そっちの方面の訓練も行うことになるから」
「分かりました」
セーナ公爵家は、代々勇者の仲間として暗殺者を輩出してきた家系である。そっちの技術というのは、つまりそういう技術だ。
「ただ、教育係を増やすことはない。……この意味は分かるね?」




