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第13話 残念!迎えが来たのでした!!

「……なんで受けたんだ」


怒りを含んだ声で父親がラルフに尋ねる。母親も、厳しい表情で彼のことを見ていた。


「公爵家からの話を断れるわけがないでしょ。貴族が平民の心情に配慮して行動するわけないじゃん。断ったら、きっとひどいことされてたよ」


「そ、そんなことはないかもしれないだろ!公爵様が優しい人の可能性だって」「ないね」


ラルフはバッサリと切り捨てる。公爵が優しいなんて、万に一つとしてあり得た話ではない。その証拠として、


「僕への給料、最初に適正よりかなり少ない金額提示してきてたでしょ?あれで僕たちのことを考えてくれるなんてありえたことじゃないよ」


「そ、それは………」


そこまで言われてしまえば、父親反論できる要素はない。両親もどうしたって貴族には逆らえないので、諦めるしかないと理解したようだ。


(はぁ。どうすれば良かったんだろうね。2人を守るためには絶対に戦う必要があったし。村のことは見捨てて逃げるのが1番だったのかな)


自分たちにはどうしようも出来ないと知って憤りを感じている両親。2人を見ながら、ラルフは自分の過ちを考えるのだった。




「……ラルフ様ですね?」


時間は過ぎ去り数日後。豪華な馬車が村へとやってきた。ヴァーム爺やニューニャと共に剣を振っていたところを、馬車に乗って迎えに来たのだという人に話しかけられる。その背中に着いていこうとして、ラルフは思い直して足を止める。


「ヴァーム爺。今まで剣を教えてくれてありがとうございました。また戻ってきたときに剣を見て下さると嬉しいです」


「う、うむ?ラルフがそんなに敬語を使えるとは意外じゃったが……まあ良いわい。いつでも戻ってこい。稽古くらいつけてやる。勇者の活躍、楽しみにしておるぞ」


「はい!ありがとうございます!!」


ラルフは感謝を込めて頭を深く下げる。ヴァーム爺はこの村の中でもかなり感謝している人だ。魔物と戦う力をくれたし、魔物に襲撃された後も変わらず優しく接してくれた。

ヴァーム爺に頭を下げた後は、隣の女の子へ目を向ける。


「ニューニャ。ごめんね。ニューニャの方が剣にやる気だったのに、僕が公爵様のところに行くことになっちゃって」


「いや。いいんだよ!凄い事じゃん!………でも、悔しいから今度帰ってきたときに戦ってね?ヴァーム爺に強くしてもらって、ラルフなんてボッコボコに出来るくらい強くなるんだから!」


「そっか。……うん。分かった。楽しみにしてるよ!またね!」


「うん。またね!」


ラルフは、ニューニャの影響で剣術をやり続けているという体をとっておきたい。だからこその謝罪だ。ニューニャが公爵に選んでもらえなかったことに対しての。

ニューニャも元々の目的はラルフを強くすることだったので、特に文句を言われるようなことはなかった。ラルフもそれは分かっていたので、ある意味ラルフの描いていた筋書き通りの会話。

少し目を潤ませつつ、再開の約束をして別れた。


(良い演技が出来たんじゃないかな。原作のラルフに近い性格で振る舞えたし、きっと僕が転生者だとはニューニャも気付いてないでしょ)


「じゃあ、僕は家族のところに行きますね。別れの挨拶がしたいので」


「ええ。勿論お待ち致しますとも。3時間ほどは時間がありますよ」


「分かりました。ご配慮頂きありがとうございます」


ラルフは最愛の人たちの元へと向かう。この数年間、毎日過ごした家。そして、


「母さん!父さん!」


「ん?どうしたの?」


「そんな慌ててると危ないぞ。………って、まさか⁉」


父と母。2人の元へとラルフは走った。

2人は最初こそ笑顔を浮かべていたが、ラルフの急ぎように父親は何かを察する。そして、苦々しい表情のまま、

ガバッ!と、両手でラルフを包み込んだ。いつものハグよりも力がこもっている。


「っ!そういうことなのね」


その上から、更に力が。母親も続いて抱きついてきたのだ。2人の抱擁にラルフは包まれる。そこはとても幸せな空間に感じられた。


(ああ。こうしてハグするのもしばらくなくなるのか。寂しいなぁ)


そう思うと、なんだか目に液体が浮かんでくる。目を擦るが、それでも視界は晴れずに歪んだまま。ふと見てみると、両親も同じように目に涙を浮かべていた。


「……絶対、生きて帰ってくるから」


「ああ。ああ。ちゃんと帰ってこい。……村が栄えれば、きっともっと美味しいモノを食べさせてやれるから」


「ふふっ。良いんだよ。どんな都会の珍しい食べ物より、母さんがつくってくれる料理の方が美味しいんだから」


「ラルフゥ!」


母親が抱きついている背中側が激しく湿っていくのを感じる。だが、気にせず彼はそのまま抱き合い続けた。


「僕がいなくて寂しいなら、弟か妹をつくれば良いんだよ。僕も、兄弟が増えたら嬉しいしね」


「ああ。お前の、ラルフの妹をつくるつもりだよ。……だから、生まれたときにはちゃんと顔見せに来るんだぞ」


「分かってる。父さんと母さんの娘なら、可愛いのは間違いないから」


「………ああ。そうだな」


さらっと弟ではなく妹となる事が決まった。どちらが生まれるかなど分からないと思うのだが、両親は妹であることに自信がありそうだ。ラルフはどこから来たのか分からない自信に苦笑しつつ、少しだけ抱きしめる力を強くする。このぬくもりを忘れないために。

それから2時間ほどラルフ達は抱き合い続けた。離ればなれにはなるが、家族がぬくもりを忘れることはないだろう。

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