第12話 残念!断れませんでした!!
本日気分的に2話投稿です。
「で?どうかな?勇者、なってみる気はあるかい?」
今、ラルフには究極の選択肢が突きつけられている。YESにしろNOにしろ、どちらを言っても危ない状況になることは確実だろう。この男に目をつけられた時点で、平穏な生活は終わったと言っても過言ではない。
この話を受けた場合、ラルフはゲーム通り勇者となる。そして、戦場へ駆り出され、毎日のように戦場で戦い続けなければならなくなる。逆に断った場合、事態は違った方向へ悪化する。まず、公爵によってこの村は冷遇されることになるだろう。公爵の領地からの輸入品が値上がりし、村の経済状況の悪化が見込まれる。そして、そんな困った中こんなことを言ってくるはずだ。
「もし勇者になってくれるんだったら、この村に寄付金を出そう。きっとこの村は大きく発展するよ」
というか、今の段階でさえこんなことを言ってきている。これが、冷遇されて困っているときに告げられたら、どれほどありがたい言葉に聞こえるだろうか。村からの圧力も掛かり、受け入れざるを得ない状況となるだろう。そうなった場合ラルフにとっては、村を救ってもらう代わりに公爵のために働くという形になる。公爵へ頭が上がらなくなるわけだ。
(きっと無茶な要求もされるだろうなぁ。……流石にそれは嫌だし、今のうちに受けちゃうのが良いだろうね。というか、そうするしかないかなぁ)
ラルフは思考をまとめる。危機的状況になってからよりは,今のうちに交渉しておいた方が良い。
「僕……失礼。私は家族を守るために魔物と戦いました。私が勇者となった場合、村の防衛はどうなるのでしょうか?公爵様がご存じかは分かりませんが、この村は魔物からの襲撃を受けたばかりでして。私としてもいつまた次の襲撃が起きるのかと思うと、気が気でないのです」
「ああ。それが心配なのかい?それは勿論この村に兵士をおくから大丈夫だよ。きっと今までの数倍は防衛力が上がるはずだ」
「そうなのですか。分かりました。では次に勇者の仕事内容に関して質問したいのですが」
ラルフの質問に、だんだんと公爵の表情が変化していく。最初は子供だと思って油断していたが、思った以上に彼が優秀で気を引き締めたのだ。ラルフとしては、このまま油断し続けて欲しいところではあったのだが。
「お給料はどうなるのでしょう?」
「大まかにこれくらいを予定してるよ」
そう言って、公爵は1枚の紙を差し出してくる。そこに書かれた金額は、村で土を耕している場合の10倍以上。父親も母親も、目を見開いて驚いている。
だが、ラルフは落ち着いて対処する。子供らしく無邪気な笑みを浮かべながら、
「この金額は外部に知らせても良いですよね?」
「っ!……お、おっと。すまない。私としたことが0を1つ書き忘れていた」
素速く数字が書き足される。どうやら勇者として働くにしては釣り合わない金額を提示していたようだった。ラルフの笑みは更に深まる。
因みに、0を1つ書き忘れたと言った割には0が3つほど増えていたりする。
(とりあえず、ここくらいが限界かな。後は情報を小出しで伝えてボーナスでも得るとしようか)
「分かりました。ではこの内容で契約させて頂きます」
「う、うん。よろしく頼むよ」
ラルフは頭を下げる。こうして、この日新たな勇者が誕生するのであった。
……ということでは残念ながらない。まだ彼が勇者になると完全に確定したわけではないのだ。勇者が確定するのは、他の公爵と協議を重ねてから。そして、全て残す役が推薦した人物が決まった職業に就いてからだ。
「ラルフ!」
「そんな戦場なんかに行かなくても!」
その契約を見て慌てるのが両親。だが、ラルフは首を横に振った。
「公爵様の提案を断るなんてできないよ。できるだけ僕も怪我しないように頑張るから、ね」
優しく、できるだけ優しく語りかける。だが、両親達の納得がいかないような顔は残ったまま。
(まあ、そうだよね。子供が戦場に行くって言って、いってらっしゃい!って笑顔で言える親はなかなかいないよね)
それこそどこかの戦時中に洗脳でもされていないとそうはならないだろう。
「では、また今度正式に迎えをよこすよ。その時までに家族間で話をつけていることをおすすめする」
「はい。分かっています。宜しくお願いします」
ラルフへ必要なことを簡潔に告げ、公爵は帰って行った。公爵の護衛や使用人たちも去り、家に残るのはラルフと両親の3人。
重苦しい雰囲気に支配される。
「……なんで受けたんだ」




