第11話 残念!見つかっちゃいました!!
(あぁ。もう完全にナイフは逝っちゃったね。武器は棍棒を使うしかないかな)
ナイフがポッキリと折れていた。もう使い物にはならない。せいぜい投げて牽制に使える程度だろう。そこまでして持って行く必要もないと思われるため、ラルフはナイフを放り投げる。それから、
「加勢にいけるかな」
そう呟いて男衆が懸命に戦っている前線へと向かう。……というのはまだ残念なことに出来ない。オーガとの戦闘でゴブリン達は吹き飛ばされたとはいえ、全てを倒しきれたわけではないのだ。まだまだ残党はいるため、この場所で唯一戦えるラルフが処理しなければならない。
「えいえいえいえいっ!」
レベルアップして強くなった身体なら、適当に棍棒を振り回すだけで圧倒的な力の差で始末できる。すぐに残党の始末は終わった。それから残りがいないか入念にチャックして、全て倒し終わったことを確認してから前線へと向かった。
そうして戦い続けて1時間後。
「か、勝った。勝ったぞぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」」」
全ての魔物の討伐が完了。ラルフも前線へ参加し、多くの魔物を叩き潰していた。当然大幅なレベルアップもしている。
今回の戦いにおける1番の功績者は、当然ではあるがヴァーム爺だ。ラルフがどうにか1体だけ倒したオーガを、1人で10体ほど片付けている。同時に数体相手にもしていたらしい。まだまだ剣の腕は衰えていないようだった。そして、その衰えなかった腕のおかげで、守れたものは沢山ある。
「ラルフ!無茶しやがって!」
「父さん………皆を守るためなら、これくらいどうって事ないよ」
血まみれのラルフを、汚れることも気にせず父親が抱きしめた。血まみれではあるが、ほとんどが返り血。ラルフの努力の証とも言える。
「ラルフ。ありがとう。ありがとう………」
「どういたしまして。母さん。守れて本当に良かった」
抱き合う2人を、更に細い腕が包んだ。母親は複雑な表情で、涙を流しながら感謝の言葉を述べている。
(子供が血まみれになりながら戦ってるのに、自分が何も出来ないのは辛いよね。気持ちは良く分かるけど僕も譲れないし、安心させられるようなことは何も言えないな)
母親にこんな顔はさせたくなかった。だが、ラルフにも譲れないところがある。ラルフにはただ抱きつかれ続けることしか出来なかった。
その後。村の復興が行われ、たまにその手伝いをしたりヴァーム爺に剣の指導を受けたりしながら日々を過ごした。村が被害を受けてしまったことで変わったのはもちろんだが、村人達のラルフを見る目も変わっている。特に顕著なのは子供と女性。前線には出ず、バリケードに隠れていたモノたちだ。その視線には、感謝と畏怖が込められている。
(血まみれになりながら剣振ってたからなぁ。あのときはそこまで考えが及ばなかったけど、かなり怖いよねぇ)
助けられたことで感謝する気持ち。そして、狂気を感じるほどの戦いを見て恐怖する気持ち。その両方がラルフには理解できる。だから、村人達からやや壁を感じるのも彼には納得の出来ることだった。そして、彼にとって村人に好かれることは重要でないように感じていたため、特に気にすることもない。彼にとっては家族が守れただけで、もうそれだけで良いのだから。
そんな風に村での立場が変わり始めた頃。
「………君、勇者にならないかな?」
「勇者、ですか」
煌びやかな服を着た人が彼の家にやってきて、勇者に勧誘されていた。手狭な家に大量の騎士が入り込んでおり、圧迫感がものすごい。断れる雰囲気ではなかった。
(そうだよねぇ。そうなるよねぇ)
ラルフにもこうなることは予想できていた。目の前にいる男が、この年齢でオーガ1体倒せる優秀な人材を逃すわけがないのだから。
「あっ。申し遅れたね。私はワトスヨイム・セーナ。この国で公爵をしているよ」
「はい。名高き公爵様のことは存じ上げております」
「おや。そうかい。最近の子供は優秀だねぇ」
そう言って笑みを浮かべる公爵。国王の次くらいに偉い公爵だ。因みに、ラルフが公爵のことを知っているのは本当である。
なぜかって?この男がとある人物の父親だからだ。しかも、ゲームにおいてはラルフの雇い主でもあった。今回もそうなりそうな雰囲気ではあるが。
「で?どうかな?勇者、なってみる気はあるかい?」
今、ラルフには究極の選択肢が突きつけられている。




