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ロストティアーズ―再生の物語―  作者: 加藤とぐ郎
序章 アーネストラトス・ランスガンという少年
2/7

山賊と兵器人形と殺意

 僕の名前はアーネストラトス・ランスガン、というそうだ。訳あって記憶を貸し出している。その訳も忘れてしまった。


 僕が覚えているのは砂利道を三日三晩歩いたその先にある町で何か頼まれ事を引き受けたということ。えっと確か、なんだったかを何とかして欲しいという依頼だったはず。


「やっと見えてきたの!あれがきっと山賊の根城、旧砦跡さ!」

「山賊?山賊を捕まえに行くの?」

「そう、山賊を捕まえに行くのさ。ってあれ?もしかしてまた記憶飛んでるの?」

「そうらしい。」


 そっか山賊か。山賊、山賊。

「え!?それってかなり危険なのでは?」


・・・・・


 旧砦跡はウルムウェイン大公国が建国される前からあったとても古い建造物で、まだ魔道が兵器として扱われる前の時代の遺跡らしい。といっても、魔道という物がどういうものか忘れてしまっているので、兵器として扱われる前だから何だというのかさっぱりわからない。


「致命的なの。」

「プレシュさんが吸い取っちゃったのがいけないんでしょ?良い配分で一般常識とかだけ残せなかったんですか?」

「君も無茶言うの。ていうか、君の最悪の体験には魔道が密接に関わってるのさ。」

「ふうん。」

「興味持てとは言えないけど、その反応はどうなの?」


 旧砦跡は深い森に囲まれていて、僕たちはそれを見張るように木々の中に身を潜めていた。そこで記憶が飛んだ僕のためにプレシュさんが現状を整理してくれることになった。


「まず私たちは首都ゲネトスギルトに向かおうって事になったのさ。その理由は、ロストの研究室にある【ティアーズ】奪還のためなの。」

「ああ、僕のお母さんの物とか言ってたやつね。」

「うわー!忘れて欲しいこと覚えてるのはどうしてなのさ!?」


 こればっかりは僕だけの責任では無いから、そんなこと言われても仕方ないだろ。と口には出さないでおいた。


「とにかく、その為には作戦遂行のための情報に戦力に諸々の資金、どれも全く足りてないって事が判明したの。そこで二つ!目的達成までの道を考えたのさ。」


 プレシュさんは得意気に人差し指と親指を立て、それを顎の方に持っていった。


「一つ目はゲネトスギルトに向かう道中、日雇いの仕事を見つけたり旅芸人の一座に加えてもらったりして何とか資金を集め、それを使って情報や戦力を増やしていくという道。」


「それは今回の山賊討伐と何か関係がある?」

「ある!私たちはそっちを選び、町を目指して砂利道を進んだの。で、そこは山賊に荒らされた後で、ほとんどの物が根こそぎ奪われてた上に、女子供が軒並み拐われていたとんでもない不運に見舞われた町だったのさ。」


 そこら辺は何となく思い出せるような気がする。確か町に人が少なくて町外れの教会に寄ったらおじさんがいて、山賊について教えてくれたのだ。


「こんなこと言うと不謹慎だけど、山賊は私たちにとっては出会えれば幸運の歩く金銀財宝、要するに財源でしかないの。おまけにアジトまで教えてもらっちゃったら乗り込むしか無いわよねって話なのさ!」

「でも山賊って手強そう。」

「大丈夫大丈夫。そこら辺の山賊ごとき、十秒とかからずコテンパンに打ちのめしてやるの。」


 そう言うとプレシュさんは旧砦跡に近づいて行った。僕も彼女についていき、二人ともすっかり姿を現したが、旧砦跡の方からは何の反応も無かった。


 塔が幾つか建っており、城壁には砲台や窓もあった。とても堅固で頑丈そうな石造りで、旧砦跡と言うだけあって裏口以外からの侵入は難しそうだ。しかし今は古く朽ち、所々緑に覆われている。


「砦というより、ただの隠れ家にしか見えないな。」

「隠れ家と言えば財宝さ。町の人からも幾らか報酬を貰えれば当分は困らなさそうなの。さあ!いっくぞ~!」

「お~!」


 と勢いづけたその矢先、砦の屋上から人が悲鳴と共に落ちてきて、無惨に叩きつけられて絶命した。


 人が死ぬのを見るのは初めてではないらしい。血に染まる泥を見ても、僕は少しも動揺しなかった。もしかしたら動揺のし過ぎで逆に落ち着いてしまった、という可能性もあるが。


「な、この力、魔道なの!?嘘、なにも感じないのに!」

「感じる感じないって気配の話?」

「魔道には魔力というエネルギーが必要なの。なのに、この旧砦跡からはそこまで濃い魔力を感じないってこと!」


 プレシュさんはいつものおふざけ倒した態度から一変、真剣な表情になり警戒を強めている。確かに頭上から人が軽々しく吹っ飛ばされて来たら、警戒しない方がおかしい。


「どういうこと?結局魔道の力は使われてないの?」

「いいえ。魔力を持っていてそれを他者に感知させないように隠す事ができるのは、相当の熟練者。思っていたよりこの依頼、ヤバいことになりそうなの。」


 そう話を続けながら当然のように、死体から剣とその鞘を奪い取って僕に与えた。


「ちょっと!倫理をご存知でない?」

「少なくとも、お化けに問う物では無いさ。」


 そう言えばプレシュさんは自身のことをお化けと言っていた。自分の正体もわかってないけど、プレシュさんの正体も謎だ。


 本当にこんな人の言うことを聞いていて大丈夫なのか。堂々と裏口から乗り込んでいく後ろ姿を見て、僕は少しだけ心配になった。


「あんだてめぇら!?」

「おいおい、どこの迷子だぁ!?ええ?」

「見張りは何やってやがる!?」


 十六、十七人か。この場に居ない者も含めて二十としておこう。


「こっちの娘なかなか綺麗な顔だぜ!」

「いやこっちの娘も。」

「馬鹿そっちは男だろ!」


 山賊の口汚い言葉を躱して、どんどんと奥へ進んでいく。外観に比べると内装は輪をかけて古びており、所々崩落しかけていた。壁が壊れて出来上がった大きな居間のようなスペースに、十数人の山賊が屯している。


「こいつら、屋上の奴に気付いてないみたいなの。」

「あの、プレシュさんこの後はどうするんですか?」

「おいクソガキども!シカトこいてんじゃねぇッ!!」


 背後から掴みかかってきた大男の心臓を真っ直ぐ剣で一突きし、引き抜くと同時に近くにいた仲間二人の首もとを切り裂く。自分でも驚くような身のこなしだった。


 プレシュさんの方を見ると既に五人が意識を失って倒れていた。周りの山賊たちは恐れおののき、僕たちから後退りしている。


「君には剣術の才があって、毎日鍛練に励んでいたの。今の練習台で、感覚は掴めたでしょう。」

「は、はい。体が勝手に動いたような感覚でしたけど。」

「さすがに記憶を失くした程度じゃ、腕は落ちないということかしら。」


 記憶を失くした程度って、僕はいったいどれ程の努力を積んで来たのだろうか。それに今の力は……。


「その分なら問題無さそうだから、一旦二手に分かれるの。私は地下に囚われている町の人たちを避難させるから、君には屋上に居るヤバい奴を何とかして欲しいの。」

「何とかって、いくらなんでも無理ですよ!」

「やってみなければわからないさ。それに私が奴の相手をしても良いけど、君は町の人たちを避難させられる自信あるの?」


 自信という話ならどっちにしろ無い。


「人の命を預かってる余裕が無いなら、屋上に行く方が良い。」

「プレシュさん、信じて良いんですね?あなたのこと、あなたが知ってる僕のことを。」

「信じなさい。」


 僕は剣を鞘に納め湧きたての血の池を渡り、屍を踏みつけて屋上へ向かう、階段や梯子が無いか探した。


 僕は三人殺した。山賊とはいえ、何故こんなにも簡単に冷静に人を殺められるのか、僕自身のことなのに、僕にはわからなかった。あの瞬間、(つか)を握る手に力と憎悪が流れてきて、気が付けば三人も殺していた。


 記憶を失う前の僕は、平気で人を殺すような人間だったのか、人を殺しても平気な人間だったのか。それとも僕という人間がそもそも、命をぞんざいに扱えるような生まれつきの悪人なのか。僕はぼんやりと考えながら、屋上へ向かった。


 今、僕の中にある確かな物は、朧気な悲しみの残りかすと、脱力感と虚無感だけだ。


「この上だな。」


 屋上へと続く梯子を見つけ、僕は深呼吸をした。僕に太刀打ちできるものなのだろうか。

 

 若干弱気になりつつも梯子を登りきる。すると、曇天の下に少女が一人、俯きがちに立っているだけだった。汚れた白いボロボロの服が、風ではためいている。


「君は、町の人?こんな所にいたら危ないよ。近くに……、えっと、ヤバい奴が居るらしいんだ。こっちにおいで。」


 反応がまったく無い。直後、僕は自分の身なりを振り返って、頭を抱えたくなった。返り血だらけの衣服を纏い武器を持っている見知らぬ男が、“こっちにおいで”だなんて怪しすぎる。誰だって、ついていこうとするはずがない。


 僕は剣をその場に置いて、ゆっくりと少女の方へ近づいた。


「大丈夫。僕は君を助けに来たんだ。町へ帰ろう。」

「奇妙な人間。」


 近づくと、服の裂けた部分から露出した彼女の鋼鉄で出来た関節が、鈍く光った。


「そうだ。人間は奇妙だ。だから嫌いなんだよクソが!」


 次の瞬間、強烈な突風が押し寄せ全身が吹き飛ばされる。脳裡によぎる落下した男、両足が浮いた僕は為す術無く屋上の外へ運ばれる。


「ぐっ!!」


 僕は何とか両腕を地に伸ばし、石に爪を立てて勢いを殺す。すべて剥がれる事も覚悟の上だったが、僕の身体は思ったより頑丈らしい。


 突然のことで混乱したがあれは突風が吹いたのではない。少女が足を地面に叩きつけた瞬間、突風のような衝撃波が生まれたのだ。


「かかってこい人間!ワタクシがぶっ殺してやるぜ!」

「君がヤバい奴、みたいだね。」


 衝撃波に何とか耐えたは良いけど、剣を置いた場所から遠ざかってしまった。どうにか彼女の隙をついて拾いにいかなければ。


「うッ!グゥッ!や、やめろ……。」

「何だ?だけど今なら。」


 彼女がいきなり苦しみ出したおかげで、僕は剣の元まで移動できた。しかし用意が整ったとしても山賊じゃない彼女と戦う理由なんて、僕には無い。いったいどうすれば。


「……。徒を象って堕落する。瞳を切り裂いて君臨する。【CAC・キャノンコマンド】。」


 人ならざる少女は何か呪文めいたことを呟き始めた。


「意志を砕く波の再現性。自己超越の希少性。破壊不能の循環機構。降雪が檻に積もり重なる。脱け殻に情を埋葬する。我欲の満たされた槽に浸かる。長針と短針の可塑性。技法を知悉し網羅する。これより、標的を殲滅する。」


 少女は腕を突き出し掌を僕に向ける。その手も鋼鉄で出来ており、線や凹凸が模様のように腕全体に走っていた。長く伸び、荒れて傷んだ赤髪の奥で、少女の瞳が光を放つ。


 意思の無い殺意が僕を襲う。

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