おいしいごはんとやさしいひとたち
ねえしゃまと呼んでは、もう一回!のやり取り、これもう何度目よ。なにコレ打ち込み?僕は文系なんだよ。
文系と体育系の埋まらない溝について考えてるとジンさんがトレーを手に戻ってきた。
「おいアルベルト、何してやがる」
「あらジン早かったわねチッ」
「舌打ちしてんじゃねぇよ!」
「うるさいわね、さっさとスープ寄越しなさいよ冷めちゃうじゃない」
「てめぇ」
おお、ようやく終わった。無限に続くかと思ったよ。
そしてジンさん睨んでる。ものすっごい睨んでる。けどアルベルトさんはどこ吹く風だ。っょぃ。
しかしこの2人のやり取り、横で聞いてると面白いんだよね。
「ふふふ」
「やだ~!笑顔も超絶可愛いぃ!ほらジン、ぼさっとしてないでさっさと食べさせてあげなさいよ」
テキパキと僕を起こし背中にクッションをあてながら言うアルベルトさんに、ジンさんは疲れたというようにため息をついて僕の側に来てくれた。
ベッド用の小さなテーブルに置かれたトレーには、ほわほわと湯気をたてるスープが載っていて目が釘付けになる。
はわわ!なんて美味しそうなスープちゃん!おっと涎が。ジュルリ。
「火傷しないように気をつけろ。あせらずゆっくり食えよ」
「あい。いたらきます」
挨拶は大事です。例え視線がスープに釘付けでもね。
ジンさんが差し出してくれたスプーンを受け取り、ふうふうと息を吹きかける。一口含む。そのまま固まった。
「おいチビ?どうした?」
ジンさんが心配そうに声をかけてくれてるけど、全く聞こえない。いや聞こえてるけど。
そんなことよりも!このスープめちゃくちゃ
「おいちい!」
あまりの美味しさにスプーンが止まらない。
モリモリと食べているとお皿にポタリと水が垂れた。
おっといけない涎が。いや、違う。涎じゃなくて涙だ。自覚すると止まらなくなった。
「ひっぐ、うぶぅ、うっうぁぁん」
ジンさんとアルベルトさんが驚いているのが分かるけど、どうしても止められない。
泣きじゃくっていると大きな手が僕の頭を撫でる。そして僕の手からスプーンを取るとスープを口元に運んでくれる。
ああこんなイケメンな事してくれるのはきっとジンさんだ。だって出会ってからずっとジンさんは僕に優しくしてくれてる。
ぐずる合間に少しずつ、少しずつ食べさせてくれるジンさんがどんな顔をしているか、その時の僕にはわからなかった。
少しずつスープを食べさせてもらい時々柔らかい布で涙やら鼻水やらを拭かれる。これはきっとアルベルトさんだ。
2人がかりでご飯の面倒をみてもらい、完食する頃には少し落ち着くことが出来た。
「残さず食べたな。偉いぞ」
「本当。頑張ったわね。良い子良い子」
ご飯を食べて泣くなんて情緒不安定にも程がある。それに完食できて偉いと誉められるなんて子供か。あ、今は子供なんだった。
「ありがとござましゅ。ごちしょーさまでちた。おいしかったでしゅ」
お礼とごちそうさまを言うと途端に眠くなってきた。満腹になった途端眠くなるなんてますます子供みたいだ。いや今は子供なんだった。
色々考えたいし、聞きたい事もあるのに。
横にしてもらい胸をぽんぽんしてもらうともう駄目だった。ぐぅ。
「「おやすみ」」
ご飯を食べてすぐ眠くなる、そしてそのまま眠ることが出来るのはとても幸せだと思います。皆様の眠気を覚ます或いは誘うことができれば嬉しく思います。今日も皆様に感謝します。