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始まり始まる

「この辺りは異常ねぇな」


周囲を見回し普段と変わらない様子に一人頷くと、少し離れた所から声がかかる


「隊長ー、こっちは異常なしっす」


「こっちもだ。一応もう少し奥まで見回っとくぞ」


「えーまだ行くんすかー?」


「グダグダ言うな」


「ヒィッ!わかったっすから睨まないでくださいよー」


ごねる相手を一睨みしてから先へ進む。

俺の名はジン。国立研究所の警備部隊で隊長の職に就いてる。隣の男は部下のリンクス。

そしてここは魔の森。国内でも最大規模の魔素溜まり、俗にいうスポットを有する森。

国立研究所はスポット観測のために設立されたもので、研究所及び研究員達を警護するのが俺たちの主な仕事である。こうやって研究所の周囲を見回る事もその一つ。

音をたてないように警戒しつつしばらく歩くとマーダーグリズリーが転がっているのを見つけた。死亡を確認するために近づくと少し離れた所に妙な物を見つけた。

それは小さな子供の足跡だった。


「!? 何でこんなもんが」


「どうしたんすか隊長ってなんすかコレ!?どう見ても子供の足跡っすよね!?何でこんなもんがこんなとこに!?」


「うるせぇ騒ぐな。とにかく調べるぞ」


騒ぐリンクスを睨み魔獣避けの香を焚き、改めて周辺を調べる。マーダーグリズリーの爪や牙を調べてみるが血の汚れは見られない。


「こっちの足跡はかなりデカいっすけど、ウルフっすね。しかしこの子供の足跡が意味わかんないっすよね」


「おそらく子供を襲おうとしたマーダーグリズリーを、ウルフが仕止めたんだろう。残ってる血痕は魔獣のもんだから、子供は連れてったんだろう。だが問題はそこじゃねえ」


問題はその子供がどこから来たのかということだ。

この森は民間人が、それも子供が一人で来られる場所じゃない。

そもそも国が管理するこの森は出入りがかなり厳しくチェックされる。それだけ危険な場所だからだ。

リンクスも同じことを考えていたのだろう。能天気で陽気な男が苦い顔をしている。


「…もう、無理でしょうね…」


はっきりと言わずともその意味は通じる。


「リンクス、お前は研究所に戻ってこの事を副所長とエリックに報告してこい。報告が済んだら周辺を調べろ。侵入者の可能性もある。俺はこのままウルフを追う」


「了解っす」


リンクスと別れウルフの足跡を追う。いつも通りの、なんてことない任務のはずが。胸くその悪いイレギュラーに舌打ちがこぼれた。


◇◇◇


マーダーグリズリーの死体があったところから随分離れたが、何も見つからない。

クソ、一旦研究所へ戻るか。そう思ったとき、微かに子供の声が聞こえた。

反射的に声のする方へ走ると、小さな子供の背中が見えた。


「おい!大丈夫か!?」


「ぶあああああぁ!!」


俺に気付き、泣きながらヨロヨロと立ち上がる子供に駆け寄り怪我がないか調べる。

服に残っている血痕は魔獣の物で子供自身には怪我は見当たらないことにほっとため息をつく。

大丈夫だと繰り返す俺に必死にしがみつく子供の体温に安堵する。

しかし子供を慰めながらも周囲を警戒することは怠らない。この子供を連れてきた何者か、そしてウルフが近くにいないか周囲の気配を探る。

何の気配もねぇな。侵入者はともかく、この子供をここまで運んだはずのウルフの気配もないってのはどういうことだ?そもそもウルフは何でこの子供を食わずに連れ去ったんだ?

訝しく思っていると子供の泣き声がおさまってきた。

落ち着いたのだろう、礼を言いながらこちらを見上げる顔は汚れていても整っていることが分かる。軽く顔を拭いてやり水を飲ませる。

携帯用の小さな水筒なのに、この子供が持つと大きく見える。

余りに細い腕に不安になり、水筒を支えてやる。

こんな子供がよくぞこの森で無事でいられたものだ。

子供が落ち着いたのを見て、名前を聞いてみると分からないと返ってきた。意味が分からず聞き返せば更に衝撃的な言葉が返ってきた。


「…なまえも、ここがどこなのか、どうしてここにいるのか、なんにもわかんにゃいでしゅ」


なんてこった。記憶喪失?置き去りにされたショックでか?

目の前の小さな子供が受けたであろう仕打ちを考えると怒りが込み上げる。俺の服をぎゅっと握りしめ、不安げにこちらを見上げる子供を助けないという選択肢は存在しない。この子供が何者であろうと、俺がコイツを守る。とにかく急いで研究所に戻らねぇと。


「…分かった。ひとまず、お前を保護する。研究所、俺の仕事場まで行くぞ。ここからそう遠くないし、医者もいる」


そう言って子供を抱き上げると、その細さと軽さがよく分かる。その事にまた舌打ちがもれそうになるが、子供を怖がらせないように耐える。

首にぎゅっとしがみつく子供の背中を軽くたたいてから走る。

急いで研究所に戻ろうと走る途中、子供が気を失っているのに気付いた。

気絶してる!?クソッ外傷が無いから油断した!早く戻らねえと!

焦る余り全力で走り、それが子供にダメージを与えた事に気付かず、医務室の主に大目玉をくらうことになった。



新キャラ視点でお送りします。本日も拙作のために時間をくださる皆様に感謝します。

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