じっけんのせいか1
将来の自分に思いを馳せていると、ピーピーピーと電子音が鳴った。
「早いな」
「まずは分刻みで調べてみようかと」
ジンさんと話しながら遠心分離機から試験管を取り出すベンジャミンさん。
中身は茶色いペースト状のまま。最初に入れた時と変わりない。
成分分析機にかけてみたけど、特に分離している成分もなく、全体的に一定というか安定している状態らしい。
つまりただのチョコレート(の素)ということ。じゅるり
遠心分離機にかける時間を変えていくつか調べてみたけど、今のところ全敗。
どれもただのチョコレート(の素)だった。じゅるり
「まあ、いきなり成功するワケないわよねぇ」
「そりゃあそうだろう」
「まだまだ時間はありますから。試してない方法もありますし」
残念そうなアルベルトさんとイワンさんだが、ベンジャミンさんはメラメラと燃えているのが分かる。
研究魂に火がついたのね。
「ベンジャミンしゃん、むりちないでね」
「ふふ、ありがとうノア君」
そんなこんなで、今日のところはお開きになったのだった。
◇◇◇
お祭りスイーツ試食会から数日たったある日、ベンジャミンさんから呼び出された。
研究室にお邪魔すると、ベンジャミンさんの後ろの実験台には大量のカクの実と、これまた大量の粉乳がのっている。
気分転換に普通のチョコレートでも作ってるのかな?じゅるり
「ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」
「なんでしゅか?」
ヨダレを引っ込めてベンジャミンさんと向き合うと、一本の試験管を渡された。
その中身はなんだかちょっぴり明るい茶色いもの。
他所で誰かに渡されたものなら、ただの怪しい物体だ。
けど、この研究室で、ベンジャミンさんに渡されたのなら、その正体は決まってる。
「ベンジャミンしゃん、こりぇ、ましゃか…」
「ああ。チョコレートだよ。ただし、今まで作っていたチョコレートとは成分バランスが少しだけ違う」
そう言って今度はスプーンを渡された。
試験管の中身と同じ、ちょっぴり明るい茶色いものがのってる。
ごくりと喉がなる。心臓もドキドキと鳴っている。
そっと口に含んでゆっくりと味わい嚥下する。
間違いない。これは!
「ミルクチョコレート!」
この甘さ、間違いなくミルクチョコレートだ!
「カクの実のペーストにあるモノを加えて、撹拌機にかけてみたんだ。それがこれだ」
向こうの世界では、カカオマスが入ってない状態のものがホワイトチョコレートというんだと思っていた。
だからこそ、チョコレートの成分を分離させればいいものだと思いこんでいた。
だけど、ベンジャミンさんの実行した方法は真逆といえる。そんな方法を思いつくなんて!
「あるモノをさらに多く加えたチョコレートを撹拌機にかけてるところなんだ。もうそろそろ完了するはずだ」
ベンジャミンさんが言うのとほぼ同時に、ピーピーピーと電子音が鳴った。
学生時代、実験はわりと好きでしたが理科の成績はまあ、残念な方でした
でも、好きであることと得意であることは必ずしも比例してなくてもいいもんだと思っております
今日も読んでくださる皆様に感謝します
ありがとうございます




