とあるだれかのバレンタイン3
いよいよ今日、あの人とお茶をする。
男性とお茶をするに相応しい服とはいったいどんなものか、またもや頭を抱えることになった。
お礼をするために会うのだし、フォーマルな服装がいいだろうか。いや面接じゃあるまいし。
しかしもともとワードローブは数も色味も少ない。
結局白いシャツに紺のスカートと、いつも通りの地味な服で向かうのだった。
「あの、改めてお礼を言わせて下さい。あの時はありがとうございました」
「い、いや、こちらこそ、初対面の女性に大変失礼を働いたと、詫びなければと思いまして」
「いえ、確かに驚きはしましたが、お陰様で食材を無駄にせずに済みました。ひとり暮らしなので、やりくりが大変で。なので、本当に気になさらないで下さい」
「そ、そうですか。そう言ってもらえるとありがたいです」
「あ、私ディアナといいます」
「俺はキースといいます。あ、あの、何か困った事があれば相談してください!力になります!」
「ご親切にありがとうございます」
昨日まで胃が痛くなるほど緊張していたけれど、当日になれば吹っ切れたのか、自分でも驚くほどスムーズに会話することが出来た。
恩人であるという意識が強いせいだろうか。
それと、彼に恥ずかしくない人間でいたいという思い。
あとキースさん、親戚のおじさんに似てるからなんとなく安心する。おじさん、元気にしてるかなあ。
そんな事を考えつつお茶をしていたらそれなりの時間がたっていた。
このあたりが潮時だろう。
「あの、今日はご馳走させて下さい」
「えっ、いや、女性に支払いをしてもらうわけにはいきませんよ!」
「いえ、先日のお礼なんですから、払わせて下さい」
「いや、しかし…」
「気になさらないで下さい。キースさんのお陰で本当に助かったんですから」
「な、なら…またお茶をしてもらえませんか!?今日のお礼をさせて下さい!」
「え!?」
「お願いします!」
お礼のお礼っていうこと?でもそれって本末転倒なんじゃ…
「あ、あの、別に下心とかではなく!男たるもの女性に財布を出させるわけにはいかないと言いますか!沽券に関わるといいますか、とにかく決して下心などではなく!」
男の沽券。そういえばおじさんもよく同じことを言っていたなあ。
「では、お言葉に甘えて次はご馳走になっても?」
「は、はい!ありがとうございます!」
「なんでキースさんがお礼を言うんですか」
「はっ!い、いや、なんででしょう!?」
…なんだか面白い人だなあ。
自然と笑いがこみ上げてくる。
「で、では、いつがよろしいでしょうか!?」
「そうですねーー」
そうやって次の約束をして、その日は別れた。
家に帰って、お気に入りのソファに腰掛ける。
ふう、とひとつ息をついてぐっと拳を握る。
「やったぁぁ…!」
いままでにない達成感を噛みしめる。
きちんとお礼を伝えることが出来た。休日に人と会った。さらに次に会う約束まで!
たったそれだけのこと、と人は言うだろう。
けど、自分にとってはそれだけではないのだ。
今までの自分では、到底考えられないことだ。
奇跡と言っても過言ではない。
今にも叫びたくなるような、走り出したくなるような気分だ。悪くない。というより、実に良い気分だ。
それもこれも、彼のお陰だ。
そのまましばらくの間、ドキドキとなる胸に手を当てて彼の笑顔を思い出していた。
良い人どころか親戚のおじさん枠のキースさん
気の毒に←
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