美味い飯は正義だ!
料理長ことイワンさんのお話です
物心ついた時には料理人になると決めていた。
成人してからはあちこちの店で修行した。
ここに来たのは師匠の知人から頼まれてのことだった。
滅多に経験できる事ではないと思い話を受けた。
それまでとは桁違いの規模の仕事に最初は苦労したが、今では慣れたもんだ。
部下を抱えてでかい厨房を回す仕事には遣り甲斐を感じるし、充実した毎日を送っている。
ある日、夕食の提供も終わり静かになった厨房で翌朝の仕込みをしていると警備の隊長が訪ねて来た。
「料理長、急ですまんが病人用のスープを半量で用意してもらえるか」
「あん?半量だ?そんな重傷者が出たなんて聞いてないぞ」
医務室からは何の連絡もきていない。
スープストックを鍋に移しながらそう聞くと予想外の応えが反ってきた。
「いや、怪我人じゃなくて子供だ」
「は?」
驚いて思わず手が止まり、振り返ると隊長はどこか楽しそうな顔をしている。
「詳しいことはまた説明する。とにかく今は急いでくれるか。腹鳴らして待ってんだ」
腹を空かせてる奴がいるならそいつの飢えを満たしてやる以上に優先することは無い。
手早くスープを仕上げて渡すと隊長は礼を言って足早に食堂を出ていった。
しばらくしてから今度は警備と医療の両隊長が訪ねてきた。そして詳しい話を聞かされた。
その内容になかば呆然となった。しかし料理人である俺に出来ることは美味い飯を食わせてやることだけだ。
翌日、医療の隊長と相談して子供用に特別に用意した昼食を持って件の子供を訪ねた。
その小ささと、境遇を感じさせない笑顔に胸が熱くなった。
料理人にとって、作った物を美味いと言われる以上に嬉しいことはない。この小さい子供にこれから山ほど美味い飯を食わせてやる。
今までも仕事に手を抜いたことは勿論ないが、より力が入るようになったのは当然だった。
この時には、今までにない全く新しい料理、スイーツに出会うことは想像もしていなかった。
料理人と調理師って似て非なるプロフェッショナルだと思います。
どちらもこなすイワンさんはすごいですね。
皆様の飢えも美味しいものや楽しいもので満たされますように。 今日もありがとうございます。