5.魔力紙
クラス分けの結果は正面玄関の掲示板に張り出されていた。校舎に入る時に確認して各教室に散っていく。
掲示板の前は新入生で溢れかえっていた。
「全然見えねぇ」
「僕も見えないや」
マリアとシスタは共に掲示板の前で結果を見ようと跳ねたりして四苦八苦している。本当は人が集まるまでに見たかったのだが、マリアが寝坊してしまったせいでちょうどピークと重なってしまっていた。
「待つしかないか・・」
自らのクラスを知った生徒たちは落胆、歓喜とその感情は様々だ。中には友達を煽りながら教室へと向かうものもいた。
少しずつ人混みが解消されていき、やっとマリアとシスタも掲示板に書かれている文字が見えるところまでやってきた。
「俺の名前はどこかな~っと・・・、あった!」
マリアの名前は上から2番目のBクラスに記されていた。しかし、載っている名前は彼以外は貴族の名だ。ただのマリアは明らかに目立っている。
「僕は1番下のFか・・・」
覚悟していたもののシスタは落胆を隠せずにいる。
「心配すんなって。俺が魔法教えてやるよ」
マリアはシスタの背中をバンッと叩く。シスタは痛そうに背中をさすった。
「教室行こうぜ」
「うん」
マリアとシスタは昼休みに合流する約束を取り付けてそれぞれの教室へと向かった。
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「Aクラスじゃなくて残念だったね」
シスタと別れて教室に向かっている最中にアルマがマリアに声をかける。
「まぁ、最初はそんなもんだろ?俺だって魔力量が少ないことくらい分かってるさ」
Aクラスに入れなかったことを悔やんでいるかと思いきや、マリアはそれほど気にしていないようだ。
「まぁ、Bで一位になればAに行けるだろ」
目標を定めながら教室の扉を開ける。既に教室にいた生徒達が一斉にマリアの品定めを始める。有力な貴族ならば自分を売るために挨拶をすることが基本だ。しかし、ただのマリアには一切関係ない。
誰一人彼に話しかけることなく、マリアは空いている席につく。
「身なりいい奴ばっかだな」
「掲示板見た感じだと貴族ばかりだったね」
「僕を待ってる可愛い女の子はどこかな」
「静かにしててほしい・・・」
4人も教室内を見回して同じように品定めを行う。教室内にはいくつかの集団が出来ており、最も大きいものは1人の少年に10人近くが集まっていた。
「あいつがこのクラスで一番だったんかな?」
「そうかもね。もしくは有力な貴族かも」
「なんだ。男じゃないか」
「おやすみ・・・」
至る所から話し声が聞こえる教室内もやがて担当の教師が入ってくるとピタリと止んだ。教師は男性で眼鏡をかけて優しそうな雰囲気を持っている。
「みなさん。座ってください。出欠を取りますよ」
順番に名前を呼ばれていく生徒たちは張り切って返事をする。その中であの大きい集団の中心の少年の名前が分かった。
彼の名前はフェリオ・ディ・マーレというらしい。いかにも貴族といった名前だ。
そして、最後にマリアの名前が呼ばれる。
「最後に、マリア」
「はい」
性を持たぬマリアの返事に生徒達の視線が彼を貫いた。
ある者は困惑、ある者は称賛、ある者は侮蔑。晒されたマリアは気にする素振りは見せない。それどころかベントが女の子に視線を向けられて嬉しそうだった。
「これで全員ですね。では、続いて魔力紙を配ります」
教師から手のひらに収まるほどの1枚の紙が全員に配られる。
「知っている方も多いと思いますが、これは魔力紙と呼ばれるものでみなさんの潜在魔力の属性を調べることができます。魔力をこめると・・・」
見本として掲げられた魔力紙が赤、青、緑の3色に染まる。青色が紙の半分以上を占めていて、赤色は隅に申し訳なさそうに染みを作っていた。
「私の場合は青色の魔法が最も適性があるというわけです。反対に赤色は持ってはいますが、小さすぎて上達は難しいでしょう。このようにみなさんの属性を知ることが出来ます。授業の選択に役立ててください」
生徒たちは教師の説明も中頃に思い思いに魔力をこめていく。魔力紙は手のひらに収まっているのでマリアからは他人の色は分からなかった。
「授業はBクラス以下のものであれば好きなように取ることが出来ます。例えば、赤色が大きければBクラスのものを小さければDクラスのものを取るということです。得意な部分を伸ばすか、苦手な部分を伸ばすかはみなさんの自由です」
「なるほどねぇ」
マリアは白紙の魔力紙を片手に教師の話を聞いていた。彼は魔力を込める必要などなかった。5人の人格がそれぞれ1つの属性を持っているからだ。アルマは未だに不明のままではあるが。
「それでは今日はこれで終了です。3日後から授業が始まりますので各自取る授業を考えておくように」
言うべき言葉をすべて伝え終わると教師はさっさと教室を出て行ってしまった。そういえば教師は自分の名前すら言っていない。
「シスタのとこ行くか」
マリアは教師がいなくなった途端に騒がしくなる生徒達をよそめに教室を出ようとした。しかし、背後から声がかかってしまった。
「おい!平民!」
マリアが振り返るとフェリオ・ディ・マーレが立っていた。