3.最初の試験
翌日の朝、マリアはクラス分けのために設けられた運動場に集合していた。
生徒は優に数百人はいる。緊張に震えて吐きそうになっている者、どちらが上位に入れるか友達と競いあう者、間違いなく上位に入ると確信している者。
その表情は様々だった。
中でも背中を丸めてぶるぶると震えている青髪の少年がマリアの目に入った。その少年は周りに友達らしき人もおらず、今にも泣きだしそうに見えた。マリアは順番が来るまで手持無沙汰だったこともあり彼に話しかけてみることにした。
「大丈夫かお前」
「えっ・・・。僕・・・?」
声をかけられた少年は口を抑えながら振り返る。顔面蒼白で緊張しているのが誰の目にも明らかだ。
「そうお前。名前は?」
「シスタ・・・。シスタ・リバーフォルト」
「緊張してんのか?」
「当たり前だよ・・。こんな有名な人たちに囲まれて緊張しない方がおかしいよ。君は見たことないけれど、どこの子なの?」
「俺はマリア。ただのマリアだ」
「貴族じゃないの・・?それなのにここに来るなんてすごい自信だね。羨ましいよ・・・」
シスタは話しかけてきた少年が貴族では無いことにすこし安堵するとともに溢れでるマリアの自信に気圧された。
「それがここの良いところだろ?」
「そうだけど・・・。君みたいに緊張していないのは珍しいと思うよ」
「そうか?クラス分け楽しみで仕方ないけどな」
「すごいね・・・。僕は最下位にならなければいいかな・・・」
シスタは緊張を通り越して病弱にすら見える。縮こまった背筋、震える手足、青白い顔。
しかし、試験の順番は否応なしにやってくる。
試験官からシスタの名前が呼ばれると彼は吐きそうになりながら集団の前へとおぼつかない足取りで出る。
「大丈夫かな。あいつ」
「見に行ってみようよ」
マリアはアルマの提言もあって人混みを縫って一番前へと出る。一定の間隔を空けて横一列に生徒が並ぶとそれぞれ正面に向かって思い思いの魔法を放っている。
それぞれの属性が違うので色鮮やかな魔法が飛び交っている。
中には木剣に魔法を付与して直接斬りかかっている生徒もいた。
「あれ?あの人形うちにある奴と同じじゃん」
「ほんとだね」
魔法の的となっている物はマリアが何度も魔法を放った人形と瓜二つだった。違うのは魔法がぶつかって傷ついたと同時に元の綺麗な人形に戻っている。
「さてシスタはっと・・」
並んでいる生徒の中を探すと哀愁がひときわ漂っている人がすぐに見つかる。
シスタは試験官の説明も耳に入っていないようで虚ろな目で人形をみつめている。
やがてシスタは手のひらを人形に向けて力を込めるとじょうろのように水が出た。
花壇に使うには最適だが、試験としては優れたものではない明らかに分かる。
試験官に促されてシスタは試験を終える。辺りを見回してマリアを見つけると小走りで戻ってきた。マリアは励ましてやろうとシスタを見る。しかし、その表情は安堵に満ちていた。
「ふぅ・・・。よかった・・・」
「良かったか?」
「うん。緊張で絶対出ないと思ってたから」
「でも、見てみろよ」
マリアが他の試験を行っている生徒を指差すととてつもなく大きな魔法を放っている生徒もいる。魔法は人形にぶつかると轟音を立てて弾けた。
「あんなの無理だよ。マリア君だって無理でしょ?」
「マリアでいいよ。確かに俺も今は無理だな」
野望は大きいがマリアは存外にも自分の実力を正しく計っている。彼は4人も比べる相手がいるのだ。友達よりも家族よりもずっと長い時間を過ごしている4人が。その中の1人は間違いなくマリアよりも強い。
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マリアとシスタは順調に消化されていく試験を一緒に見ていた。かなりの人数が人形を破壊寸前の威力を持ち合わせている。
シスタはその光景に戦々恐々としていた。
そして、ついにマリアの出番が訪れる。
「じゃあ、行ってくるわ」
「うん。頑張ってね」
マリアが試験官の元へ行くと名前を間違っていないか確認をされる。あとは好きなように人形に魔法を放てばいいと告げられる。
「マリア。どうするの?ベントに変わる?」
アルマに良い結果を残せる可能性の高い選択を迫られるがマリアは断る。
「いや、いい。今の実力を知っておきたい。お前らには悪いがな」
「そう。じゃあ、頑張ってね」
アルマは聞き分けよく引っ込む。
「よし!やるか!」
人形までの距離は普段練習しているくらいの距離。威力を重視するか、精度を重視するかマリアは思案する。
彼には人形を覆うほどの大きさの魔法を出すことは出来ない。どんなに威力が高くても当たらなければ意味がない。よって彼の取った選択は精度だった。
マリアは手のひらを人形に向ける。緊張などは彼には無縁で普段通りに魔力を集中させる。
手のひらの上には拳大の透明な球が出来上がる。さらにマリアは自宅では出来なかった属性を混ぜていく。
球の中には炎が渦巻いていき、小さな台風のようになった。
「出来た。いけぇ!!」
マリアが放った火球は真っすぐと人形に飛んでいく。速度はとても速いというわけではないが、確実に真っすぐと人形に向かっていった。
そして、火球は人形の胸の真ん中にぶつかって弾けると閉じ込められていた炎が一気に解放されて爆発を起こした。
人形は一瞬で丸焦げになってしまうが、すぐに再生を始める。
「うおぉ!まじか!?うちでやらなくてよかったぁ」
魔法を放った本人が一番びっくりしていた。彼も成長していたようだ。もし自宅の庭で属性を混ぜていたら拳骨では済まなかっただろう。
マリアは成績よりも母親に怒られなかったことに安堵した。
胸をなでおろしたマリアが試験官を見ると手元の資料とにらめっこしている。試験官はマリアも出自が一般であることを疑っていた。
しかし、何度見返しても書かれている情報以上のことは得られずマリアに戻るように促した。
マリアがシスタの所に戻る途中でアルマに褒められる。
「かなり良かったんじゃない?特訓してた甲斐があったね」
「まぁな。今ならベントにも勝てるな」
その言葉にベントが口を挟む。
「おおっと、それは聞き捨てならないな。マリアが成長しているように、僕もまた成長しているのさ」
「子供と遊んでばっかだろ?」
「みんな立派なレディさ」
軽口をたたき合いながらシスタの元へ戻るとシスタは驚いた様子で駆け寄ってきた。
「マリア!すごいね!ほんとうに貴族じゃないの?」
「ああ。でも、ずっと特訓はしてきたからな」
「そうなんだ。僕は本を読んでばかりだからダメだったのかな」
シスタはアルマと気が合いそうだとマリアは思った。
こうして無事に試験は終わった。