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1.4人の人格

 俺が、いや、俺たちが不思議な体質だと気づいたのはいつだっただろうか。

 小さな子供ながらにおかしな目で見られたことをよく覚えている。

 よく両親は捨てなかったなと今でも思う。


 12歳になった今では町のみんなもころころと性格の変わる俺たちに当たり前のように接してくれている。


 __



「おい!アルマ!本なんか読んでいないで外で魔法の練習でもしようぜ!」


「もう~。今は僕の時間でしょ。マリアも3人みたいに大人しくしててよ」



 今の主人格はアルマ。

 性格は大人しく、知識欲に溢れていて暇があれば本を読んでいる。

 魔法の属性は不明。というのも魔法が苦手でまともに発動しないからだ。

 夢は学者。


 ちょっかいをかけている人格をマリアという。

 性格はいたずら好きで、頭よりも先に体が動いてしまう。

 魔法の属性は赤。そして、性格とは反対に精密な魔力操作に優れている。

 夢は世界最強。



「俺たちももうすぐ魔法学校に行かなきゃいけないんだぜ。他の奴らに早く差をつけたいんだよ」


「マリアならだいじょーぶだいじょーぶ」


 アルマは適当にマリアをいなしてページをめくる。この2人のいつものやりとりだ。


 この2人の他に3人の人格がいるが、めんどくさがりで寝てばかりいる、女の子の前以外では出てこない、人見知りで出てこない等の理由で基本的にはマリアとアルマで交互に体を操っている。



「・・・ふむふむ」


 アルマは本をじっくりと読んで内容を頭に入れていく。ちょっかいをかけられていると言っても自分の体の中で起きていることだ。慣れてしまえばどうということは無かった。

 もし仮にマリアが隣にいたならば、肩を揺らされたり、目隠しをされたりして物理的に本を読めなくなっていたことだろう。


 邪魔をされていることに変わりはないが、多重人格を嫌だとは思わなかった。


 __



「ふぅ・・・。なかなかだった・・・」


 アルマは最後のページをめくり終わると本を閉じて棚にしまう。ふと外を見ると太陽が傾き始めていてオレンジ色の光が部屋に差し込んでいる。


「あれ?いつのまにか僕の時間過ぎてたんだ。珍しいな。いつもならマリアが時間教えてくれるのに。おかげで集中できたけど」


 マリアは目覚ましとして優秀だった。自分の時間を常に待ちわびている彼は決められた時間に飛び起きてくる。

 逆に交代しなければいけないときは文句をブーブー垂れるのだが。

 今日は珍しくちょっかいに飽きて体の奥でグーグーと眠っていた。


「マリア~。読み終わったよ」


 アルマは自分の中にいるマリアに呼びかける。

 上も下もない暗い空間に大の字で寝転がっているマリアの肩を叩く。


「んぁ?」


 マリアは寝ぼけて間の抜けた声を出す。


「おお、アルマ。なにか用か?」


「もう僕の時間終わったよ」


「まじ!?やっちまった!さっさと庭行かねぇと」



 こうして体の操作が入れ替わる。




「アルマの野郎。ずっと本読んでやがったな。体バキバキじゃねぇか」


 目一杯の伸びをして固まった体をほぐす。ぽきぽきと関節が鳴る。

 そして、勢いよく扉を開けて外へと飛び出す。


 この5人は同じ体であるのに人格が入れ替わると運動能力も魔法能力も変わってしまう。そして、記憶も意図的に共有しないかぎりはそれぞれで所有している。

 つまり、マリアの頭の中にはアルマの読んだ本の内容など一切入っていない。


「早くしねぇと陽が暮れちまう!」


 慌てて庭に飛び出して隅の塀に立てかけてある人形を持ち出す。

 いつもの所に置いて20歩ほど離れる。人形の背後の塀は他の部分に比べて明らかに壊れかけていた。


「ムムム・・・」


 マリアは人形に手のひらを向けて魔力を集中させると彼の手の中には透き通った球が出来上がる。

 これは魔力球という基礎となる魔法だ。ここに個人が持つ色を混ぜるとそれぞれの特徴を持つ魔法となる。

 例えばマリアの場合は魔力を混ぜると炎の球になったりする。


 しかし、この庭では魔力を混ぜることは母親によって固く禁じられている。

 理由はマリアが以前調子に乗って家ごと燃やしかけたからだ。

 その時に喰らった拳骨の痛みは兄妹5人の中で数少ない共通の話題になっている。


「そりゃ!」


 放たれた魔力球は風を切りながら真っすぐと人形に向かっていく。肩口に当たるとバチンと音を立てて弾けた。


「ちょっとずれてるなぁ」


 マリアはもう1度手の中に魔力球を作り出すと人形に向かって放った。

 しかし、放たれた魔力球は先ほどよりも明らかに遅い。そして、今度は胸の中心にぶつかって弾けた。


「くそ!やっぱり操作すると全然速くねぇ!」


 走っている者が突然曲がれないように、魔力球も速度を出せば狙いがずれている時に修正することは難しい。


 実践で使うことを考えるならば、速く、そして正確に相手を狙わなければならない。



 ところでマリアは悔しがっているが、平均的な同世代に比べて魔力操作に優れている。

 手で持った球でさえ狙ったところに投げることは難しい。


 そんなことは露ほども知らずにマリアは魔力球を放ち続ける。


 そして、今日も陽が暮れていく。


 __


 翌日、少年はベッドから起き上がると素早く身支度を始めた。


 鏡の前に座って鼻歌まじりに髪の毛を整える。




「あーあ。しっかり乾かして無かったからボサボサだよ。マリアにもっと言っとかないとな。直すついでに水浴びでもしてくるか」




 マリアによって面倒が増えたにも関わらず、少年はふんふんと機嫌良さげに扉を開いて部屋を出ていく。




 現在の人格はベント。

 性格は女の子が大好きで軽薄。女の子と遊ぶ時だけ表に出てくる。

 魔法の属性は緑。練習は嫌いだが、格好をつけるだけの実力は備えている。

 夢はハーレムを築くこと。


 昨日マリアが魔法の練習をしていた場所にベントは出てきた。

 庭の真ん中には片付けるのを忘れられた人形が倒れていた。


「まったく。マリアはいつもこうだ」


 呆れながらも楽しそうに人形に向かって指を振る。すると人形が重力に逆らって浮き上がり、隅へと運ばれていく。


「さてと・・・。デルフ。申し訳ないけれど、いつもの頼むよ」


 ベントはシャツを脱いで別の人格へと入れ替わる。


 あくびをしながら出てきた人格はデルフ。

 性格は面倒くさがり。いつも奥で眠っているので自ら表に出てくることは滅多にない。

 魔法の属性は青。5人で最小の魔力量。


「眠い・・・。寒い・・・。水浴びたくないから上に出すよ」


 大きな口を開けてあくびをしながら手のひらを空に向ける。


 中空に大きな水の塊が生まれた。



「疲れた。おやすみ」



 そして、再びベントに入れ替わる。

 人格が変わるとふわふわと浮いていた水は効力を失って落下を始める。

 それをベントは無駄にポーズをつけて全身で受け止めた。


「やはり朝の水浴びは素晴らしい」


 ずぶ濡れとなったベントだが、彼の魔法が本領を発揮する。


「ウィンド」


 自分で生み出した風を自分に向けながら髪の毛を乾かす。


 彼は長髪が好みらしいが他の3人の反対にあってしまい、不本意ながら肩に届かない程度の毛量で我慢している。

 庭の端にある持ち込んだ鏡の前で髪をかきあげて形を作り、毛先を指先で整える。


「よし。今日も完璧だ」


 そうしてベントは町へと繰り出していった。


 ___


「やぁ。みんな待たせたかい?」



「もう!ベント遅い!」

「私は今来たところ」

「はやく遊ぼう!」


 待ち合わせの場所に着いたベントに次々と女の子が駆け寄ってきて抱き着く。

 彼は自分の背後に風を起こして転ばないように全員を受け止めた。


「今日は何をしようか?」


「公園行って遊ぼ!」


 女の子3人の意見は一致していたようで全員でベントの手を引っ張る。彼は微笑ましい表情で彼女たちについていく。

 すれちがう町の人たちも笑顔で4人を見送った。


 公園に着くとまずは砂場にベントは連れていかれる。

 砂場の真ん中に座らされると3人は1人と2人に別れて何かをし始めた。


「出来た!はい。朝ごはん。こっちはパンで、こっちがたまご、これがベーコン」


 ベントの前に出てきたものは砂で出来た朝食。見た目にわずかな差しかないが、彼はすべての配置と名称を覚える。

 間違ってしまうと怒られてしまうからだ。


「ありがとう。じゃあいただきます」


 もぐもぐと食べるふりをしながらおいしいと笑顔で感想を送る。

 女の子はにこにこしながら満足そうにしている。


「ごはん食べたら学校にいってらっしゃい!」


 ベントは促されるままに砂場の中を移動する。そして、その後ろに今母親を演じた女の子もついてきている。


「ベント君。おはようございます!今日は大きな山とトンネルを作ります!」


 せっせと砂をかき集めてこんもりと盛っていく。崩れそうになるとバケツに水を汲んできて、濡らして固めていく。

 先生役も母親役も生徒役の子も全員で砂遊びに没頭する。


 女の子の腰ほどまでの山が出来たらいよいよトンネル作りだ。

 慎重に掘っていくとやがて向こう側が見えた。


「ベント!手伸ばして」


 砂に顔をくっつけてトンネルに手を差し込む小さな手をベントは砂の中で掴む。

 手が触れると満面の笑みになる。


「ほら。顔に砂がついてるよ。目を閉じて」


 ベントは親指と人差し指で輪っかを作ると息を吹き込む。輪を通った息は増幅されて砂を吹き飛ばした。


「ありがとう」


 照れ臭そうに女の子はお礼を言った。

 ベントは決まった日時にいつも子供たちと公園で遊んでいた。最初は余裕を見せているが子供たちの無尽蔵の体力に最後はいつも肩で息をしている。


 こうして彼も町を離れるまでの残り少ない期間を楽しく過ごしていた。


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