夏の後悔と一生の思い出。
僕は彼女いない歴=年齢の冴えない少年だった。クラスのカーストは最底辺で、よくヤンキーにパシられるような人間だった。
誰かが手を差し伸べて助けてくれるわけでも、教師がヤンキーたちを注意する訳でもなかった。
そんな生活も割と限界が近づいて来た頃、親の転勤で引っ越すことになった。
引越し先は「ド」がつきそうなくらいの田舎だった。
転入先のクラスでは陽キャたちの仲間になってやる!なんて意気込んでいた。そんな想像も虚しく、いざ転入先のクラスへ行ってみると、緊張し過ぎて記憶が曖昧でよく思い出せない。
でも、1つだけ鮮明に覚えていることがある。
それは、彼女のことだ。教卓の目の前の席に座る人形のような少女。初めて見た時は、言葉で言い表すには勿体無いほど美しい少女がいて、こんな綺麗な人存在するんだと内心すごく驚いた。
必然かのように、僕は彼女に一目惚れをした。
クラスで過ごしていくうちに、彼女はクラスで孤立しているということがわかった。
僕にも、最初こそ話しかけてくれる人はいたが、なにせ今まで人から話しかけられるなんてこと全くなかったものだから、上手く受け答えができず、みんな離れていってしまった。
僕にとっては初めての恋ということもあり、張り切って彼女に話しかけまくった。
最初はすごく嫌がられていたが、段々と会話をしてくれるようになった。
次第に彼女から話しかけてくれるようになったり、2人で遊びに行ったりするようになった。
ついに僕は雪の降るホワイトクリスマスの日に彼女に告白をした。返事はOKだった。
年が明け、月日が流れ、進級の季節になった。
田舎だったからクラスは1つしかなく、学年が変わっても顔ぶれは変わらない。
僕は去年の暮れ頃から陽キャに目をつけられ、いじめられていた。なぜ目をつけられているのかは分からなかった。
時が経つにつれてエスカレートして行くいじめのせいで、次第に僕の中で死にたいという気持ちが強くなっていった。
そのことを彼女に話すと、彼女も死にたいと言った。僕と死にたい、と。
そこからの話は早く、僕達は心中することになった。
簡単に、親への感謝やいじめっ子達への恨みを連ねた遺書を書いた。
約束の時間の午前2時ごろ、学校の校門前に集合し、2人で記念撮影をした。その後旧校舎の屋上へと向かった。
空いっぱいに星が広がっていた。しばらく2人で話した。
彼女がおもむろに立ち上がったのであとを追いかけた。彼女が振り返り両手を広げた。
僕は抱きつき、同時にキスをした。「愛してる」と言いながら。お互い、これがファーストキスだった。
話題が尽きたので、そろそろ行くことにした。
「よーいドン!」
彼女の合図で走り出した。ジャンプの直前、僕はわざと転んだ。死ぬのが、怖かったから。
彼女は何か言っていたが、聞き返す暇もなく落ちていった。
僕は、本気で彼女のことを愛していたが、彼女と一緒に死ぬ勇気はなかった。
途端に彼女を裏切った罪悪感と彼女を死なせてしまったという後悔が押し寄せてきた。
心の中で子供じみた言い訳をしながら、行先も考えずその場から逃げた。