せいじゃのちからムチ!
「相変わらず、ムチちゃんのご飯はおいしいね!」
「ムチフフフ……それほどでもあるムチよ。ムチコック先生は『包丁一振り鍋一口あれば十分』と言っていたムチ。ムチちゃんはまだその境地には達していないけど、道具の不足を工夫で補うことぐらいはできるムチ」
レンが来た日はお祝いをしたムチ。ムチちゃんの物資とレンが持ってきてくれた物資を使って料理を作ったムチ。
ムチちゃんこだわりの干物たちを丁寧に戻して、複雑な味わいのスープを作ったムチ。一流店のメインを張れるレベルむちよ!
他にも魔物肉のステーキとか、レンとはじめて一緒に食べたふかふかパンとかも食べたムチ。ふかふかパンのことはレンも覚えていてくれたムチ。ムチちゃんうれしいムチ!
「──で、ムチちゃんはここをどんな風に発展させたいの?」
食後のまったりタイムでお茶を飲んでいると、レンが話しかけてきたムチ。
「ぼんやりとしているけど構想はあるムチ。ここの魔物は他よりもずいぶんと強いムチ。とってもいい素材がとれるムチ! だから、当面は冒険者や騎士団を相手に商売をしようと思っているムチ。安全な拠点さえ確保できれば行けると思うムチが、その安全な拠点で行き詰まっているムチ……」
「今だって、魔法のおうちの結界がなかったら危ないもんね」
「結界に使う魔石も無限にあるわけじゃないし、どうにかして禁呪の影響を取り払いたいムチ。居住区と畑を覆うような大きな結界がほしいムチ……」
結界と聞いて、レンの表情が少しかげりを見せたムチ。
「その結界、ボクが何とかできるかもしれないよ」
いつもより少しだけ小さい声だったムチ。
「本当ムチか?」
「本当ムチよ。これからやる事はできれば口外しないでほしいな」
そう言うと、レンは薄い絹のローブに着替えて外に出たムチ。ムチちゃんもレンを追って外に出たムチ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
すっかり日は暮れ、暗くて蒸し暑い空気が体をおおっているムチ。べっとりと汗が絡みつくムチ。
追いかけた先にいたレンは清廉な気配をまとっているムチ。歌い始めたムチ……これは、古代言語の歌ムチか?
今度は歌に合わせて舞っているムチ。神への請願ムチか?
レンの体に神気が満ちていくムチ。まさか、神降ろし──?
巨大な光の柱が現れ、周囲が神聖な気配につつまれたムチ。しばらくすると光が消えたムチ。あたりの瘴気はいつの間にかなくなっていたムチ。
「終わったよ、ムチちゃん」
こちらを振り返ったレンは、いつものレンだったムチ。
「レン、今のは……」
「聖女の力を使った禊だよ」
「聖女って……」
「おかしいよね? ボクの背中には聖女の聖痕があるんだ。限定的だけど神様との交信もできる」
「いや、おかしくなんてないムチよ……」
「おかしいよ! ボクは男なのに、聖女だなんて……」
「だから話を聞くムチ! それは聖女じゃなくて聖者の聖痕ムチ。愛と美の神様の祝福の証ムチよ。ムチムチランドに残っている記録でも、その聖痕を持った男性は過去に三人もいるムチ。文化と歴史の記録に関しては他の追従を許さない元ムチムチ大使の言葉ムチ。信じるムチ! レンはおかしくなんかないムチ!!」
「えっ……」
今にも泣き出しそうだったレンが、ムチちゃんの言葉に戸惑っているムチ。
「だからその聖痕は男の子が持っていてもおかしくないムチ。愛と美の神様は女の子のほうが好きだから滅多に祝福しないだけで、男の子に祝福することもあるムチよ」
「そ、そうなんだ……」
「レンは秘密にしていた能力を使ってまでムチちゃんに力を貸してくれたムチ。ムチちゃんとっても嬉しいムチ! だから明日からしばらくレンの好きな料理をいっぱい作るムチ!!」
「ありがとう、ムチちゃん。なんか長年悩んでたことが馬鹿みたいだ」
「馬鹿じゃないムチ。悩んだからこそ今のレンがあるムチ。ムチちゃんとも出会えたムチ。馬鹿じゃないムチよ!」
「そうだね。ありがとう、ムチちゃん」
レンの笑顔は聖女様のような美しさだったムチ。