エドマエ・スタイルむち!
夕食の時間、ムチちゃんはツケ場に立ったムチ。この日のために突貫で作った小さいお寿司屋さんムチ。
まずは徹底した衛生管理ムチ。まな板や包丁を生活魔法で消毒するムチ。
次に蒸らしておいたおいたごはんや仕込んだネタの具合を確かめるムチ。いい具合ムチ。ちゃちゃっと酢飯を作るムチ。
ちょうどよい時間になったのでトビカゲさんを呼んでもらったムチ。黒装束を纏ったトビカゲさんがスキのない足運びでやってきたムチ。さすがマスター・ニンジャむちね。
「らっしゃいムチ! 今日はムチちゃんなりのエドマエ・スタイルを供させていただきますムチ!」
「これはありがたい。ティアから聞いたと思いますが、ニンジャといえばスシですからな」
「ウチもご相伴に預からせてもらうで」
「ティア、なんでいるムチか?」
「いけずやなー。ウチもニンジャの端くれやで。スシと聞いたら黙っとれんよ」
シャリもネタもじゅうぶんあるからいいムチかね。
「しょうがないムチね。じゃあリクエストを聞きながら適当に握るけど、いいムチか?」
「「いいムチよ!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「最初は突き出しムチ。海藻の和え物と白魚ムチ。本日の酒はムチムチランドから取り寄せた"ムチ祭り"の大吟醸になりますムチ。繊細な味付けの料理が多いので、酒の方もしっかりと磨いたものを選ばせてもらいましたムチ」
「ほう、これは先の料理が楽しみな出来ですな」
「ムチはん……なんで今まで食堂でコレを出してくれんかったんや……」
ティア……予算と手間の関係でそれは無理ムチよ。ウチの台所事情は厳しいムチ。
「次はマグロを中心としたお造りムチ」
サクをまな板の上に出し、包丁を入れていくムチ。ムチムチ族の手に余る長い刺身包丁を魔法の力で操っていくムチ。
こう見えても料理スキル上級持ちムチ。包丁さばきには自信ありムチ!
「どうぞムチ!」
「うまい!いや、この見事な包丁仕事、どこかで……」
「師匠、あの時って?」
「もしや──あの時の流れ板か!」
「師匠、自分だけで解決せんと、ウチにも教えてーな」
「三年前の天帝への奉納だ。我が国が誇る料理人たちが自慢の料理を奉納する中、一人の流れ者が帝を唸らせるほどの料理を作ったのだ。その流れ者はムチムチ族で、それはもうムチムチしていたという」
「まさか、それがムチはん?」
「トビカゲ殿はあの時にいらっしゃったムチか……」
おいしい東方料理が食べたいとダダをこねるムチ仙人さまのための料理修行だったけど、こうやって縁がつながるとは思わなかったムチ。
「失礼した。料理を続けてくだされ」
「ここから握りになりますムチ。たいていのネタはあるので、リクエストを受け付けますムチ」
「では、小肌をいただこうか」
「小肌むちね。かしこまりムチ」
いきなり小肌むちか。これは手強いお客さんムチね。
あらかじめ酢じめした小肌を捌いて、さっと握るムチ。ハケでお醤油を塗るムチ。そしてツケ台を布巾で清め、握りたての小肌を乗せるムチ。
「小肌ムチ。名残りのものがなんとか手に入りましたムチ。ちゃんとティアのぶんもあるムチよ」
「酢じめの仕事が見事ですな。酒も進みます」
「とってもおいしいで、ムチはん」
「では次は──穴子をいただけますかな?」
「かしこまりムチ!」
次は穴子ムチか。酢じめに煮切り、完全に職人の技量をはかる注文のしかたムチね。望むところムチ!
焼いた穴子を半分に切り、片方に刷毛で煮切り、片方に塩を振った後、香り付けに柑橘の皮を少々削ったムチ。
「穴子ですムチ」
「うむ、本場のエドマエ・スタイルにも勝るとも劣らぬ出来ですな」
「語彙がないのが悔しいわ。脂がのって、とってもおいしいで、ムチはん」
「オマケの穴子の骨せんべいムチ。日本酒のいいアテになるムチよ」
「これはありがたい。ますます酒が進む」
「ムチはんったら、これ以上ウチを酔わせてどうするきなん?」
「何もしないムチよ。少し粉っぽいから、むせないように気をつけるムチ」
その後もシャリ桶が空になるまでスシを握ったムチ。最後はもちろん玉子焼きで締めたムチ。
ティアは言うまでもなく、トビカゲさんも喜んでくれたようでよかったムチ。