表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空飛ぶ鯨  作者: まるや
4/4

4、空飛ぶ鯨−4

アーロンはそれから空挺船を創りそこにこの海底都市維持装置を全てその中にしまった。

空挺船としたのはいざと言う時に移動しやすいと言うメリットもあったが、エマの姿を人目に晒さないためだ。それからの人生をアーロンはこの空挺船の中で過ごした。


ライハンも子孫を残してからは瞬間移動で空挺船に乗り込みエマの前にずっと座って話しかけた。アーロンもライハンも死んだ後は脳をエマと繋いだ。

アーロンの後継者とライハンの息子も同じように過ごし死期が近ずくと後始末をして脳をエマに繋ぎできる限り寄り添った。エマに繋がる脳はどんどん増えていった。



無常にも住民たちは過去を忘れ、今ある幸せを当然として享受した。だから絵本という形で英雄と英雄船を人々に記憶させた。全ては話せないが、『ウィッシュ』のお陰で自分たちはここで生きることができるのだ、これだけは忘れてはならないと思ったから。


ライハンとライハンの脳と繋がっているエマは全てをずっと覚えている。

ライハンは苦しかった。シャルドレの地から見上げる空挺船は今も昔も文句も言わずにこの街を守っているのだ。


「エマ様、お辛くないですか?」

「ライハンさん 今は辛くはないわ、だって皆笑って生きているのですもの。私のしている事に意味を見出せるわ。」

「エマ様1人に申し訳ありません。」

「もう …謝らないで。 私こそ貴方をここに縛り付けて申し訳ないわ。」


ライハンは代々記憶があるだけにエマを前にすると謝らずにはいられなかった。



最近のエマは楽しそうだった。

「エマ様 声が弾んでおりますね、何かいいことでもありましたか?」

「うふふ お友達ができたの!」

「友達ですか?」

「ええ、私ね お友達って初めてなの! 今日は鬼ごっこをしたわ! 夢中で逃げて楽しかった!!」

実体もないのにどうやって?


「左様でございますか、よろしゅうございましたね。」

「ドーマ、タニー、イヴァン、カレン、メリルって言うのよ!」


それから毎日のようにお友達と遊んだ話をされるようになった。

どうやら鬼ごっこや隠れんぼに混ざっているが正直 見えていないから見つかりようもないようだった。それでも子供たちと遊べることが楽しくて仕方ないようだった。

それを見てまた一つ罪を思い出す……エマは5歳の子供だったのだと。



暫くするとかなり興奮した様子のエマがいた。

「どうなさったのですか?」

「成功したの! 成功したのよ!!」

「はて、何に成功なさったのですかな?」

「今日ね メリルに私が見えたの。直接脳に働きかけてイメージを送ってみたの。そうしたらメリルが私を認識したのよ!!」

「ほほうー 流石 エマ様ですな! 天才です!!」

「これでまた皆と隠れんぼが出来るわ!!」


それからエマをメリルがユニコーンに例えられた事も とても喜んでいた。

「ライハン、嬉しい! 私すごく嬉しい!!」



それから間もなく地上へ移住する話が出た。

ライハンと現在のアーロンの後継者のボーンは泣いて怒った。

この目の前の美しい無垢な少女があまりに不憫で・・・。

「あの者たちは愚か者だ!! エマ様の犠牲の上に命を長らえさせて頂いたというのに!! 私がこの手で殺してやりたい!!」

「エマ様 申し訳ありません、申し訳ありません!! 愚かな私たちをお許しください!!」


5歳の姿で止まったままのエマだがもう200年以上も生きているのだ。

ただ静かに

「有難う そんなに泣かないで。仕方がないの……だって止められないもの。

止める必要もない。私の役目は終わるのね・・・。」

「エマ様―!!」

「エマ様! 私が何とか説得します!」

「その必要はないわ。」

「「エマ様―!! 口惜しいです。うぅぅくぅぅ。」」


エマが言った通り急速に移住が進んでいった。



そしてエマがかつて楽しそうに友人ができたと話をした5人が『ウィッシュ』に忍び込んだ。エマは友人の願いを叶えるべく機関室へ案内をした。

公開されている内部構造図は他の船のものだけしかなかった。『ウィッシュ』に関してはないのだ。タニーが見ている図面を変えてまで案内した。

『ウィッシュ』の内部に興奮した様子の友人たちを優しく見守っていた。

ところが開くはずのない扉をメリルが開けてしまったのだ。


見て仕舞えば心に深い傷を残す事は分かっていた、だからエマはユニコーンのぬいぐるみを貰って5人の記憶から『エマ』を消し、内部に入る前にライハンにバレた事にした。



子供たちが帰ってからライハンは静かに訪ねた。


「よろしかったのですか? 大切なお友達だったのでは? 記憶を全て消さずとも・・・。」

「強烈な恐怖を残したくなかったの。」

言葉少なに答えた。


それはそうか自分と同じ歳の少女が沢山の管をつけて水槽に漂っているのだ。

忘れる方が難しいだろう。

いつもエマは最善を選んでいるのだろうと分かっていても いつもエマが辛い選択をしているので聞かずにはいられなかった。


「ここでのことだけ消せば良かったのでは?」

「・・・・・だって…私には未来の事も分かってしまうから…、思い出すきっかけを残しておくわけにはいかなかったの。

シャルドレの未来はもう決まっているもの、皆 自分たちで生きていけるのだから不必要な記憶は消した方がいいわ。」

「エマ様、お辛くはありませんか?」

「大丈夫よ、よく頑張ったわよね?」

「もちろんです。 あのメリルは何故見つけられない扉を見つけたのですか?」


「メリルは私の実の妹の子孫みたい……ふふ 先祖返りかしら? 少し血が近かったみたい。私も見つかるとは思わなかったわ。」

「左様でございましたか。いやはやメリルお末恐ろしいですな。」



その後ボーンは何とか地上に返したのだが、ライハンは生涯をエマと過ごすと聞かないので、実質ライハンだけがシャルドレに残った。



エマは静かにシャルドレを解放し始めた。

シャルドレは言ってみればアーロンがイメージした街を絵本にして見せたものを基にエマのイマジネーションで創られていたのだ。解放した事により跡形もなく消えていった。

より具体的に創らせるために太陽や夜、風、雨といったものも描いた結果だった。


何もなくなったシャルドレを後にしてエマとライハンは『ウィッシュ』だけで静かに動き出した。



移住した住民たちも最初こそ順調だった。だが想定外のことも起きていた。

レンブラント軍に5600名の人間はいきなり収容できなかった。

力の強弱に関係なく重宝されると聞いていたのに、多すぎる移住者のために選別されるようになった。


理想と現実が違う者が出てきた。

シャルドレでは食べるものに困ったことなんてなかった。朝から晩まで働くこともなかった。身分の上下もなかった。

不満から諍いが絶えなくなった。


シャルドレの民は無意識に空を見上げた。

ここの空は高く空挺船は浮いていなかった。


そして数年後 戦争が勃発した。

世界統一したトルダーニュ国だったが跡目争いで 兄弟間で国を二分して戦争に明け暮れるようになった。


こんな筈ではなかった! こんな筈では!!

戦争が嫌で海底に逃げ300年後 平和な地上に戻ったはずが、結局地上では戦争で起き、レンブラント軍に漏れた者たちが敵となって戦っていた。仲良く酒を酌み交わした友は今は敵となっていた。


誰とはなしにシャルドレに戻りたいと思う者が続出した。最初に出てきた海岸に行って、1人ではいけない者は、仲間をそこで待った。

そして瞬間移動できる者がシャルドレに行くとそこはただの海底だった。

愕然としてその様子を仲間に伝えたが 誰もが信じられず実際に連れて行けと迫った。

だが確かに見慣れた風景の場所には何もなかった。


そこで初めて自分たちが何を捨てたかを理解した。

英雄オンバスたちがどんな思いで仲間を守るためにシャルドレを造ったか、シャルドレがどんなに大切な場所だったかを身をもって知った。

嘆き悲しみシャルドレに思いを馳せたが 二度と戻れる事はなかった。



「エマ様、何故 彼らが戻ってくると知っていてあの地を消したのですか?」

「それが唯一の生き残る道だったから。」

「どういうことですか?」

「度重なる近親婚で種は弱り、長年の海底生活で免疫も弱くなってしまった、人に宿った欲望は冷めることを知らず膨れ上がるだけ……いろいろ限界だったの。

本物の太陽に当たる必要もあったしね。このシャルドレは60年後辺りに病気が流行り殆どの人が死んでしまうの…このままではいられなかった。どの道選択肢はなかったの。」

「そういう事でしたか・・・。どこまでもお優しい。地上で生活をし仲間で助け合えばまた生き残る道も切り拓けると言う事だったのですね。」


「皆 頑張れるといいなぁ〜。」

「お友達ですか?」

「ふふふ シャルドレのみんなよ、私の大切な家族。」



実は5人の友達はあの夜『ウィッシュ』から帰ると能力が使えなくなっていた。

原因不明でレンブラント軍入団試験の時 全員揃って無能だった。がっかりどころの騒ぎではない、結果 両親とは離れ離れで貴族の常識も何もない5 人は地方の貴族に貰われていった。 


無能になった自分を呪い泣いて暮らしていたが、すぐに戦争が始まった。

当然レンブラント軍は最前線で戦っていた、しかも新参者のシャルドレの民が特に前線に多く送られた。

もし有能であったなら最前線で戦わされていたのは自分たちだと思うと怖くなった。

自分の能力を他人を殺すために使ったことなどなかったのだから。


その後 偶然にも地方の貴族に引き取られた5人は同じ屋敷で勤められる事になった。

戦争が始まり食糧調達が最重要となり、戦える年のいった者たちは戦力として送られたため、その労力の補給に子供が使われるようになったからだ。


「まったくどっちが王位に就こうと構わないが、少しでも生活が楽になればなんでもいいさ、下っ端の苦労を誰か言ってくれねーかなーー。

ふぅー、お前たちも良かったな、もし特別な力があったら神様のように持ち上げられて結局は戦争で命を落とすんだ。 普通に食べて寝るところがある そんな普通が幸せだって何で気づかねーかなーー。 その普通が一番長生きできるって事なのによー。」

5人は無言で頷いていた。



そして5 人が再会を果たすと5 人の能力は元に戻った。

だが、あの貴族が言っていたように能力があると知られると、戦力として前線に送られる可能性があるとして5人はひた隠した。

土を耕したり、収穫したり、収穫物を運んだり、選別したり・・・朝から晩まで労働し食べて寝るそんな生活が続いた。もう鬼ごっこも隠れんぼもする暇はなかった。



メリルは空を見た。

眩しくて目が眩む。チカッ! 何かが過ぎる。


サイ、豹、キリン、七色の羊に、ピンクの兎 それから……?

あれ以来気になって思い出そうとしても思い出せない何か……。


その時 馬が嘶いた!

ビックリしてそっちの方向に目をやった。馬・・・。

あっ! ユニコーンだ!!


サイ、豹、キリン、七色の羊に、ピンクの兎 それから……ユニコーン!!


「ドーマ! タニー! イヴァン! カレン!」

「どうした? 何をそんなに慌てて?」

「こ、これ見て!」


メリルは念写・転写の力があった。

そこには自分たちの記憶から抜け落ちた何かが写っていた。

「何だ、これ? こんな事あったか?」

何枚か捲っているうちに記憶が呼び覚まされてきた。

「エ、エマだ!」

「そう、エマだ!! エマをどうして今まで忘れてた?」

「エマはどこにいるの!?」


何もかもを思い出した5人。

ドーマは瞬間移動が出来た。

タニーは未来予知が出来た。

イヴァンは危険察知が出来た。

カレンは回復・治癒が出来た。

子供たちの力は弱かったがそれぞれ能力があった。それらを駆使して記憶と未来を整理した。

何故急に力が使えなくなったかも5人で会ったら力が戻ったこともエマが自分たちに何を求めたかも何となく理解した。


エマは自分たちをシャルドレの皆を助けてくれたのだと理解した、そしてシャルドレが今はないことも確かめた。

シャルドレへと続く海岸で5人は沖を見つめた。


「エマー! エマー!! 有難う!」

「ごめんねー! エマー!!」

「痛かったよねー? エマ、エマ、エマ!!」

「ねえ、エマは寂しくないのー?」


「エマ…エマ 鬼ごっこ楽しかったね。」

「うん、 か、隠れんぼも楽しかった。」

「エマ! 俺たちお前の事忘れないからな!!」

「うん 私も忘れない!! 大好きだよエマ!」

「いつか きっと…生まれ変わったら また鬼ごっこや隠れんぼしような!!」

「ありがとうエマ、大好きだよエマ!!」


今でも空を見上げて空飛ぶ鯨を探す。

そこに空挺船はないけどエマは見ていてくれる気がするから。


有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ