3、空飛ぶ鯨−3
中に入ったは良いものの どこへいけば良いかも分からない。
タニーが船内図を広げ難しい顔をする。
「おい、タニーどうしたんだよ? 俺たちはどっちいけば良いんだ?」
「誰か来たりしませんかねー?」
「ビクビクすんなって。今は……どうせ人はいないよ。」
「なんかさー、この図面と中が違うんだよ。だからどこへ行っていいか分かんないんだ。」
「えー!! マジかよ!? タニーがいるからと思って! 参ったなー!」
「黙って! いつもタニー任せにしているのに文句だけドーマは一丁前ね!」
「どこへ行きたいの?」
「うーーーん、この船の心臓部! 機関室に行きたい!」
「なら、あっちの奥の階段じゃないかな? ほら、地図のここ!」
「うん、あー あれ? さっきと違…? うん そうだね。」
「おー、じゃあ行ってみようぜ!」
「そうですよ! 早くしないと見つかってしまうかもしれません!」
キュッキュッ キュッキュッ キュッキュッ キュッキュッ キュッキュッ
「お、おい ここかな?」
ゴクリ
「誰かいたら どうする?」
「じゃあ、私がまずチラッと見てみるわ。」
「ああ、頼むね カレン。」
キーーーー
「どうだー?」
「誰もいないみたい。」
「そうか? じゃあ。しつれーしまーす。」
「ほわーーー! すげー!! すげー!!」
「うん、凄いわね! ここが船をコントロールする場所!」
「今は飛んでないのに ここで立派に仕事しているのねー。」
「お船は一人で動いているの?」
「どうなんだろーなー? 詳しいこと知っている大人の知り合いがいないから結局わからなかったもんなー。」
ドーマとタニーは機関室に置いてあるものを目を輝かせてみている。イヴァンとカレンはあちこちの扉を開けて見ている。メリルは持ってきたのぬいぐるみをリュックから取り出していた。
メリルはサイ、豹、キリン、七色の羊、ピンクのもこもこの兎、それにユニコーン。
それを並べている。
「メリル 何をしているの?」
「あのね、…… 街の人たちはどんどん地上に出ていってる。私はここにいたいけどお母さんたちが行くって言えばついていく事になる……そうなると このお船これから一人ぼっちになってしまうでしょ? それは凄く寂しいと思うの。」
「うん、そうだよな……。」
「私の家も両親が地上での仕事について話をしていたわ。」
「「「「「・・・・・・。」」」」」
「だからね、この『ウィッシュ』が寂しくならないように…私たちの代わりに このぬいぐるみを置いていこうと思うの。」
「そっか、メリルは優しいな。」
「ずるるるる、俺たちだけでもこの船のこと覚えておこうな!」
「うん、私おばあちゃんになっても忘れない!!」
「おう! 目に焼き付けような!!」
その後もそれぞれが思い思いに船を散策した。
「キャーーーーーーーー!!!」
えっ!? 何があった!! 今の声はメリルだ!!
慌ててメリルを探した!
「おい、メリル無事かー!!」
「メリルー!!」
メリルは床に腰を抜かして座っていた。
そこにはメリル以外の人影はなかったが、確かに何かを見つめていた。
「あああああああああ エ、エマが!」
「えっ?」
全員がメリルが指さす方向を見ると小さな女の子が液体の中を漂っているように見えた。
「「「うわぁーーーー!!!」」」
「きゃーーーー!!」
「な、なんだよ これ!?」
漂っているように見えた少女は液体の中で固定されていた。無数に頭から伸びるコード、その上いくつもの脳とコードで繋がっている。
皆 錆びついたロボットのようにギコギコと首を動かし隣に立つ少女を見た。
隣に立つ少女と液体の少女は同じ顔をしていた。
「エ、エマ あれはエマか!? どう言うことだ?」
「何でエマがあんなトコにいるの?」
「イヤ ただ似ているだけか?」
「あれは誰なんだ!?」
エマは優しく微笑むだけだった。
バチっ!!
5人は気づくと最初に潜入した場所に戻っていた。
そしてどうやって目的地に行くかを話し合っていた。時間が巻き戻った。
タニーが船内図を広げ難しい顔をする。
「おい、タニーどうしたんだよ? 俺たちはどっちいけば良いんだ?」
「誰か来たりしませんかねー?」
「ビクビクすんなって。今は……どうせ人はいないよ。」
「なんかさー、この図面と中が違うんだよ。だからどこへ行っていいか分かんないんだ。」
「えー!! マジかよ!? タニーがいるからと思って! 参ったなー!」
「黙って! いつもタニー任せにしているのに文句だけドーマは一丁前ね!」
全員が何かデジャヴを感じている。
不思議な感覚に陥っていると、一人の老人が来た。
「君たちはここで何をしているのかな?」
「「「「「うわぁー!!!」」」」」
「おやおやおや、驚かせてしまいましたか?」
「ごっごめんなさい!! 俺たちどうしてもこの船にこの『ウィッシュ』にお礼が言いたかったんだ!」
「私は……本当はこのままここで暮らしたい。でも…出来ないから・・・。」
「俺もここが好きだ。空を見上げてこの空飛ぶ鯨を見ると 誇らしい気持ちになっていた。」
「俺も英雄オンバスとこの英雄船が大好きだ。別に…別に高い建物が立ち並ぶ大きな街に行かなくてもここで暮らしたい!」
「お気に入りの場所も友達もここに全部あった、他に行かなくても……うぅぅ ここにいたいよ!!」
「有難うございます。愛してくれる者がいると知ればこの『ウィッシュ』も喜ぶでしょう。でも 遅くに子供だけで来てはいけません、お家の方が心配なさいますよ?」
「でももうすぐ地上に行かなくちゃいけないから…今日しかなかったんです!」
「そうですか。冒険の時間はお終いです、さあ もうお帰りなさい。」
「あ、あのーこれをこの『ウィッシュ』にあげたいの。」
「これは何ですか?」
「ぬいぐるみです。サイ、豹、キリン、七色の羊、ピンクのもこもこの兎、それに×××?あれ? 何だっけ?」
「有難う この船もこのぬいぐるみがあれば寂しくないでしょう、最後に素敵な贈り物を…感謝しますよ。」
「あの・・・おじさんだぁれ?」
「ああ、すみません。私はライハンと言います。ドーマ君、タニー君、イヴァン君、カレンさん、メリルさん出来ればこのシャルドレの事、ウィッシュの事、忘れないでくださると嬉しいです。」
「えー!! あのライハンさん!? 初期メンバーの!? ここここんばんは!」
「おや、私をご存知ですか? ふふ光栄です。
本当にあなた達に感謝しています。こんな夜中にここに来るのは勇気がいったでしょう? 帰り道に気をつけるのですよ。 あなた達の未来が輝き 精一杯生きる事を切に願っていますよ。」
「「「「「はい!!」」」」」
「あの、無断で入ってごめんなさい。」
「はい、謝罪を受け入れます。」
ライハンさんは優しく微笑んでくれた。
移住者は加速して増えていき後始末をする人間を残して全員がこのシャルドレから出ていった。残っているの初期メンバーの子孫たち
オンバスの未来予知、サーシャの瞬間移動、タンジンの怪力、アーロンの物体創造の力は受け継がれていない。だがシャルドレの住民の中にはそう言った能力が発現している者はいた。完全なる初期メンバーの力を受け継いでいるのはライハンだけだった。
だが他のメンバーも名前は継がれている。
因みに初期メンバーたちがこのシャルドレを現在まで取り仕切っていた。
「ライハン、お前も一緒に行こう。」
「イヤ私はここに残るよ。」
「だが一人では寂しいだろう?」
「一人ではない、エマ様がいる。」
「「「「・・・・・・。」」」」
「だがエマ様は1人と言う訳では…ないだろう?」
「すまない…こんな言い方は悪いと分かっているが、私には過去500年間の完全記憶がある。私たちは等しく罪人だ……だから何もかもを忘れて生きていくなど……ここを捨てる事は出来ない。
責めている訳ではない ただ私はそう言う生き方しかできないのだ、だから君たちは君たちで幸せになってくれ。私は生涯をエマ様に捧げると決めたのだ、許してくれ。」
「ライハン……。」
これまでもこのメンバーもライハンの家族も一緒に行こうと説得してきたが、ライハンは首を縦には振らなかった。
最終日全員を送り出した。
今 空に空挺船は飛んでいない。4隻の空挺船は住民を乗せて結界を超えて地上へと旅立った。あるのはオンボロの『ウィッシュ』がここに繋がれているだけ。
誰もいない『ウィッシュ』の中をライハンは歩いて水槽のエマの前に立つ。横にあるユニコーンを手に取り また戻した。何も言わずにそこにある椅子に座る。
ライハンは目を閉じ過去の記憶を思い返している。
初期メンバーたちはここに移り住んで50年くらい経ってまずタンジンが死んだ。それからライハンも死んだ。次々に死んでいく仲間たち。
このシャルドレを維持するためには高い能力者が必要だった。
だから初期メンバーはアーロンの作ったシステムに50人の能力者たちが交代制で座り結界を作っていた。だがその内 死んだ者、妊娠した者座れなくなる者が出てきた。そこでシステムの見直しなどが必要となった。シャルドレには力の強い者 弱い者 歳をとった者 生まれて間もない者がいて一律に選ぶ事も出来なくなった。それに年々増える人口に受け皿としての力は以前よりもっと必要になっていった。そこでアーロンは死んだ者たちの脳を取り出しそれも動力とした。それは初期メンバーだけではなくこのシャルドレで死んだ者を使って補強し動力の確保をしようとしたが、脳だけでは上手く稼働しなかった。
そんな時に生まれたのがエマだった。
エマは言ってみれば全知全能の神そのものだった。
普通は一つの能力も物凄く力を必要とするので何個も能力が発現する事はないのだ。
何でもできると言う事はそれだけ桁外れの力を有していると言う事。
生まれて1年も経たないのに素晴らしい能力を見せた。
アーロンは生まれて間もないエマをシャルドレ維持の歯車とする事を前提にシステムを作り始めた。エマは日々様々なテスト受けさせられ1日の全てをコントロールされた。エマの両親はオンバスとサーシャの血も汲んでいたいたため、大きく反対できなかった。アーロンはエマに読み聞かせをするかのようにこの国の住民を助ける意義を繰り返し言い聞かせた。
そしてたった5歳のエマをこの巨大システムに縛りつけた。
今まで死んだ者たちの脳も単体では能力を発揮しなかったがエマを介する事で上手く動力源の一つとなった。住民の中からアーロンと同じような能力者を見つけ後継者にした。最初は地上で行っていたが流石にそれを知った上層部はアーロンを糾弾した。
「迫害され安住の地を求めてここへ来たのに、お前はたった5歳の少女に何もかもを背負わせたのだぞ!!」
「だったら地上へ上がるか? お前たちにこの地を維持することができるのか?
この海底都市に増えた人口もあり以前よりももっと力が必要になっている、だけど人の能力はまちまちだ! 今は弱い力の者しかいないから仕方ないなんて言っていたら結界すら維持できない。食料を作るための土地、太陽、雨、風 これらのシステムが止まって仕舞えば全員死ぬしかないんだ! 現実をみろよ!! 戦争している地上に戻るかエマに頼るか・・・。
当初50人で暮らすのに10人交代で補充していたシステムだ、人口が増えエマに頼らなければ20人交代、また増えれば30人、40人 増えていく分動力を確保する人間も増やさなければならない。死んだ人間の補充も妊婦の代わりの補充も必要だ、子供たちはすぐには使えないとれば、別の人間が代打に立つ。50人の近親婚はいずれ近い将来に歪みを生むだろう。
だが それがエマ1人の犠牲でかなりの時間保つようになる……。
私だってエマに申し訳なく思っている。
一日中一緒にいる友の血を引く子供をこのような形で手にかけたんだ、私はきっと地獄へ堕ちるだろう、分かっている! 分かっているがこれしかなかったんだ!!」
シーーーーン
「アーロン1人に背負わせてすまない。 それにもうエマは戻ってこないのだ。
皆 この事は胸にしまおう、そしてエマを忘れないようにしよう。」
全員が同じ罪を背負う決心をした瞬間だった。