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空飛ぶ鯨  作者: まるや
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2、空飛ぶ鯨−2

30名は300年ぶりに地上に降り立つ……深夜 真っ暗な海から頭がポコポコ出てきた。静かに浜辺に歩いていく。だがすぐに岩場に身を隠す。


動揺を隠せない……バクバクバクバク …バレたのか!?

深夜の暗闇に身を隠したはずが、辺りは物凄く明るいのだ。

海岸には松明ではなく眩しく光る何かが絶えず辺り明るく照らしている。

何やら音が聞こえるが、人々が争い殺し合う音ではない。陽気な音が流れて笑い声まで聞こえる。


戦争は終わっているのか?

今はどの国がこの辺りの領主なのだろうか?


歩いていた1人の男を捕まえ質問をする。

勿論 催眠・暗示の能力者が能力を使って質問をする。


「今この国は何という国だ?」

「トルダーニュ国。」

「戦争はどうなった?」

「戦争? 戦争なんてこの250年ない。300年前の大戦で次々に敵国を討ち滅ぼしこの大陸を平定したロドルコ様によってこの世は統一され それ以来世界は平和を保っている。」


「世界統一!? ロドルコ様……トルダーニュ国……。

それでは…ゴクリ それでは 能力者はどうなった?」

「能力者? ああ、特別なお力を持つ レンブラント軍の事か? あの方たちは国の要 今も勿論ご活躍されている。特別な能力を国のために使ってらっしゃって素晴らしい方たちだ! 

特別な能力者は皆 厳しい修行を行なって比類なき力をお持ちになって尊敬されている。

レンブラント軍は我が国の誇りだ!!」

「そ、そうか。」


上手く記憶を処理して一旦帰した。



「今の話は本当だろうか?」

「ああ、トルダーニュ国が世界統一したとか言う話しはどうでも良いが、能力者の集まりのレンブラント軍とは本当のことだろうか?」

「もし本当ならこれからは隠れて生きなくても良いって事だ!」

「隠れるどころか大手を振って生きていけるって言うのか?」

「俄には信じられないな。」

「ああ。 本当だったら俺たちは今まで何のために海底都市で隠れ住んでいたのか!?」

「・・・。もう少しレンブラント軍について調べよう。」

「ああ、そうしよう。」



30名は各地に散って情報を収集した。

実際に自分たちでも確認したが あの時の男の情報に間違いはなかった。

300年後の今は能力者はレンブラント軍に所属し優遇されていた。世界統一された事により戦争は起きなくなった。今はその能力を使って平和な世界の一役を担っていた。


300年前は役にも立たないと言われていた動物と意思疎通が出来るだけだった能力も今は重宝がられている事に驚きを隠せなかった。

この300年の間にそれらの能力を生かす方法が確立され、多少の重要度の違いはあるが、概ねどの能力も一様に唯一無二の稀有な能力として崇められていた。



シャルドレの民は驚愕し愕然とした。

何故ならシャルドレの民5600名は殆どが能力者なのだ!!

シャルドレの民が陸に上がっても 食うに困らない生活が出来そうだった。


それからもレンブラント軍について詳しく調査をした。

その詳細な調査の内容を一度シャルドレに持ち帰り報告する事にした。




それ以来シャルドレでも30名が持ち帰った話しで持ちきりだった。


「地上はとっくの昔に戦争は終わり平和な世の中になっていたって?」

「ああ、俺たちが隠れ住む世の中ではなかったとか……本当か?」

「聞いた、聞いた! 迫害どころかエリート扱いだって?」

「レンブラント軍ってのに所属すると 寝る所も食事も与えられて金も貰って綺麗な服を着て一生楽して生きられるって?」

「ああ、その上 ちょっとしか能力を使う事がないのに、金は毎月ちゃんとくれるんだってよー!」

「それに街に遊びに出たって、レンブラント軍の人間だって知ると 皆が英雄みたいに扱われるって話しだ!」

「何だか 大した能力でもない人も重宝がられて聖人扱いだって!?」

「300年前の戦争は250年前には終息してたって? なら何のためにこんな……。」


「ねえ、戦争ってなぁに?」

「おじちゃんたちはここシャルドレが嫌いなの?」


「・・・・・・。」

「戦争ってのは人が人を殺す 殺し合いだ。しかも大量に人が死ぬ…昨日まで友人だった奴とも殺し合う。しかも俺たちみたいな能力者はその殺し合いに無理やり前線で戦わされる…、恐ろしいものだ。」


「英雄オンバスはその殺し合いに利用される同胞を助けるために守るために、逃げてシャルドレを作ってのでしょう? ここはこんなにも平和なのに何でここから出たいって思うの?」


「……あー、子供には分からないだろうな。シャルドレは平和で良い街だ。でも どこかで逃げている、隠れている、見つかってはいけない、そう思って生きてきたんだ。

だけど 隠れて生きる必要がないって聞くと……人生を無駄にしてきた気がしてしまうんだよなー。」

ボリボリと頭をかく。


このシャルドレにある絵本や教材は最初にこの地に来た50名が用意したものだ。

基本的には自分たちに都合の良いようにしか書いていないものだった。だから英雄オンバスは唯一無二の聖人君子であり、シャルドレは素晴らしい街であった。

だが、この世界は300年前の理想で出来ていたのだ。

「今の地上なら どこに行くにも誰にも追われない。好きに生きられる…そう聞くと…そんな世界を憧れてやまないんだ。」


「そうなんだ……。嫌いなわけじゃないんだね?」

「勿論さ、俺たちを守ってきてくれたのは このシャルドレであり、英雄オンバスたちだからな。300年前の戦争で先祖が死んでいたら今こうしていられることもなかっただろうし…感謝している!」

「そうだ、それは忘れてはいけない事だよ!」

「ああ、確かに俺たちはこのシャルドレに守られ生かされてきた。」

「うん 大事な場所だ!」

口では英雄オンバスとシャルドレに謝意を上らせるが、その実 溢れ出る好奇心を抑えられなかった。


「ああ そうだ! 凄い上手いものが沢山あったって言っていたぞ!」

「おおおおう、それに見たこともない店やでっけー建物があって 首が痛てぇーのなんの!ってボヤいてたな、それに夜も夕方くらい明るいってよぉー!」

「あたしも聞いた! なんだか女たちも綺麗だったなんて聞いて、ちょっと気になっちまったよ。」


人々はまだ見ぬ別世界に想いを馳せていた。



そんな中 初号機『ウィッシュ』がゆっくりと空から降りてくる。

空飛ぶ鯨はかなりくたびれていた…大空を飛ぶ姿を遠目で見ていた時よりも更にオンボロに見えた。

メンテナンスの為ドックに繋がり、修理が施される……はずだった。


本来は新しい船に引っ越す事になっていたのだが、機関室のシステムが複雑すぎて引っ越す事ができなかったのだ。いや、引っ越そうと思えば引っ越せたがそれを望まなかった。

故に オンボロ船『ウィッシュ』をメンテナンスする事になった。



ドーマやタニーたちはいつも見上げる存在が目の前にある事に違和感があった。

「ほえー! こんなにデカかったのかよ!」

「下から見ている時は鯨の腹が丸見えだったのに、こんなに間近だとここからここまでくらいしか見えませんね。」

「英雄船『ウィッシュ』いつも私たちのために休まず働いてくれて有難う!!」

そうメリルが言うと皆で頭を下げてお礼を言った。


「かっこいいわねぇ〜。」

「うん、中も見てみたいよなぁ〜。」

「私 いつも働いてくれている『ウィッシュ』のためにお掃除してあげたい! 綺麗になってまた空を飛んでほしなぁ〜。」

「そうだね。でもこのシャルドレで一番重要なものが詰まっているから中には入れないってね。」

ガックリと肩を落とす。



街では移住計画が本格化していた。

最初の下見以来 地上に憧れる者が増えて気持ちは地上に上がりレンブラント軍として生きていく未来しか見えていなかった。だから定期的に地上へ行き 一先ず皆が暮らせそうなところがないか探していた。


毎度持ち帰られる話は刺激的で日に日に地上移住生活の応募者が殺到していた。



シャルドレの住民のうち380人程が地上へ移り住んだ。

ドーマとイヴァンの親も移住を決めている。

皆でここで遊べる時間は残り少ない。


ここに残ると言っていた人間も地上へ移り住んだ者たちの様子を聞き、次第に心動かされていった。年寄りにとって生まれ育った土地を離れるのは大きな決断のいる事だった。

だが それでも心を決めたのは 慣れ親しんだ友が地上にはいるから。皆が一緒なら新しい土地でもやっていけるだろうと決断したのだった。


活気のあるシャルドレの街は徐々に人が減り寂しく感じるようになった。

いつも通りかかると飴をくれたおばさんもいなくなった。足のサイズを測って靴を作ってくれたおじさんの店は伽藍堂、可愛いリボンをオマケしてくれたお姉さんももういない。


街からおしゃべりや笑い声が消えていった。

3日後にはドーマやイヴァンたちも出ていってしまうらしい。


だからドーマたちは最後に大冒険をする事にした。

街の人たちは新天地の事に夢中で誰も英雄船『ウィッシュ』には見向きもしなかった。

だから絶好の機会だった。

深夜 家を抜け出して集合し『ウィッシュ』の前で待ち合わせた。



本当なら急ピッチでこのシャルドレの守護神をメンテナンスするために、多くの人が集まり煌々と明かりが灯されているはずだが、今は真っ暗で静まり返っている。


「メリル…随分大きなリュックね。」

「うん、『ウィッシュ』にプレゼントを持ってきたの。」

「そう、メリルは優しいわね。」


「さあ、いよいよだな。」

「うん、誰もいないのかな?」

「おおぅ、真っ暗だよなー。」

「あっ!」

「どうしたんだよ タニー! 大きな声で出したらダメだろ!」

「悪い、こんな暗いと思っていなくて明かりを持ってこなかったよ。」

「「「ああ!! 確かに!」」」


「はい、どうぞ。」

「ん? えっとー? 誰? ああ、エマか。おお、流石エマ! サンキュー。」


船の中に6人は船の中に潜入した。

 

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