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5話~王子との遭遇

御久し振りで御座います。ようこそ、またのご来店まことにありがとう御座います……。

ささ、本日も演目が始まりますのでどうぞごゆるりとお楽しみを。

~ジャ・ヴァリアス学園~



「はぁ~~!いつ見ても荘厳な門構えですね、ルシエル!」


「誠に御座いますね、マルス様」


 暗澹(あんたん)たる思いを一夜にして忘れ去ったマルスは現在入学式当日、ジャ・ヴァリアス学園の荘厳な魔大理石の門前にその足を向けて歩いております。


「この太く大きな白い門柱などは正に、外に出て日に焼けた男児の足をこれっぽちも持たないマルス様のおみ足そっくりで御座います」


「うひょっ!?」


 いつもの調子でマルスに愛想が皆無なルシエルさん、今日も例えが辛辣ですね。


「お、おい、誰だよあの美人は?」


「知らねぇよ! ……俺たちと同じ腕章だから新入生――だろ?」


 相当な美人さんであるルシエルに男子による好意の視線と、一部女子学生からの羨望と嫉妬の視線が突き刺さります。

 しかしその数多の感情を物ともしない彼女を伴い歩く様に男子からは妬み嫉みを一手に受けるマルス。う~ん、理不尽ですね。


 周りの視線を集める中、昔からこの手の事には慣れっこなマルスさんは堂々としたお腹を張り出しながらずんずんと人込みを突き抜けて歩いていきます。まるで旧約聖書のモーゼのごとく人込みをかち割りながら進む二人は当然のようにさらに周りの視線を集めるわけでして……。


「ん? なんだこの人だかりは……王国の獅子たるこの俺よりも注目を集めているだと!? 一体どこのどいつ――」


 時を同じくして学園の門前と到着したは入学生の中でも最も煌びやかな装飾が施された堅牢な馬車。馬車の扉と掲げる旗にはレムレス王国の象徴である剣と王尺を持つ神鳥フライムバードが刻印され、馬を操る御者の身なりもまるで宮廷つき執事のような……?

 それに、何やら馬車の中から漏れ出る暑く苦しいオーラはまさか――


「――……なるほど、マルスの奴か!! そりゃあ!!」


「え? ちょっ――若様!?」


 馬車の中から突如大声と共に閃光があふれ出て、混乱する御者を置き去りにして扉が吹っ飛び一人の男が飛び出します!

 マルス達にアヒルの子の如くくっ付いていた生徒の波が一様にぎょっとして後ろを振り向けば、そこには赤い髪を風になびかせ空中回転をする偉丈夫の姿。


「噓でしょう……? 宮廷付き魔法使いの魔法ですら防ぐと言われている馬車の扉が……!?」


「「若様ぁっ!!」」


 曲芸師の如く華麗な宙返りで見るものを魅了する光景に対して、宮廷魔法使いの魔法すら防ぐ扉を吹っ飛ばした事に驚きの声を上げる護衛の兵士一同。

 学園の玄関前の道が段々と混沌を催していく中、すたこらさっさと玄関口へ向かっていくマルスとルシエル。


「ここで会ったが運命のなせる業、今日こそは彼女を賭けて俺と勝負だマル――」


 白地に金の装飾が施された高貴な学生服と風にマントを靡かせながら着地した雄姿は正に王族!直後すっくと立ち上がり前方へ指をさすダンガラムは注目の的です!


「――スッ!! ……ふっ、決まった……」


「「「…………」」」


 鎮まる一同、視線が集まるはダンガラムの指が指す方向。


「……ん? 何だこの静けさは……?」


「あ、あの王子!」


「なんだ、ティケム。俺は今マルスの奴に――」


 だが、しかし――


「あれ?」


「マルス様は既に学び舎の中で御座いますれば……」


 二人は既に玄関を通り過ぎて入学式が開かれる講堂を探しに道案内掲示板を見に向かう所だったのです。


「なぁぁにぃぃ~~~!!??」


 なんと勇ましく、なんと残念な王子ダンガラム……。こうして彼の華々しく華麗な学園生活は、公衆の面前での入学に期待を膨らませる生徒全てを巻き込んだ盛大なずっこけから始まるので御座いました。




~入学式・講堂~





 そんなドタバタが起きているとは露知らず、マルスとルシエルの二人は既に講堂にて空いている所に整列している所です。


「ルシエル、さっき玄関口が騒がしかったようですけど何かあったんですかね?」


「……ちっ。どうやら今年の特待生によるちょっとした催し物があったようですね、特に支障はありません。馬鹿とまぬけと暑苦しさがぽっちゃり野郎のマルス様に移るだけですので、これ以上お笑いな特性追加はご遠慮して頂かないと……」


「うひょ!? ひ、ひどい……」


 淑女とは思えないほどの目つきと舌打ちをかましたルシエルの言葉で怯えるマルス。もはや日常と化している彼女のよりきつい言葉に泣きまねで返して茶化し返す姿は、広い講堂の中でもとても目立っていました。

 誰もかれもが新しい環境に緊張しているというのに、マイペースで談笑(?)している二人に周りはいつしか耳をそばだてて聞き入っていますね。


「今年の特待生と言う事はマルスさん達の同輩、実は少しだけ心当たりがあるのですけれど……まさかねぇ……」


「……マルス様はご心配なされる事ではありません。そのような些事に気をかける暇がおいでなら御痩せになって――あ、無理でしたね……ぷぷっ」


「ぐはっ!?」


 美少女とぽっちゃり少年が織りなすコントに対して周囲に突っ込める新入生はおらず。また色々と入学式の準備で動きまわっている先生方も、あまりにも敏感な話題のマルスに対して注意を促せる筈もなく……。

 ただただ時間が過ぎる中、ひそひそとな話すことも無く笑うことも許される空気ではない彼彼女らは黙って立ち尽くす他無いのでした。


(((だ、誰かあの二人を止めてくれ(ちょうだい)……誰かっ!?)))


 実に切実な心の叫びですね、今年の新入生は連帯感に良と言った処でしょうか?


「――ですから、マルス様は魔力蓄積型魔道タンクの如きお腹を張って堂々としておられれば良いのです。おっと、急に振り向かないで下さい。お隣方がマルス様のお腹かから発生する衝撃波で弾き飛ばされますので」


「うひょっ!? マルスさんにそんな力が……! って、そんな震動厳禁の蓄積型魔道炉タンクみたいにマルスさんが振り向いただけで衝撃波なんて出るわけないでしょう!? …………で、出ませんよね?」


(((出る訳ねぇだろっ(ないでしょっ)!!)))


 なおも続く二人のコントに涙をにじませ笑いを堪えながら心で叫ぶ新入生。そんな彼らをしり目に忙しく準備を進める学園教師達……三者三様の面持ちで彼彼女らの新しい生活が始まろうとしていました。




お疲れ様で御座いました。


どうぞ、また次回もお会いできます事を心より願っております。

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