4話~入学前の懸念事項?
おお、またのご来店誠にありがとうございます。今ちょうど物語が幕を開けた所で御座いますれば、本日もごゆるりとお楽しみ下さいませ。
かっぽらかっぽらと公爵家専用の馬車に揺られて早三日、揺られすぎてお尻が痛くなりかけて早二日……。既に二人は王都へとその身を移し、公爵家別邸にて荷下ろしをしていたのでした。
「坊ちゃま、こちらのお荷物は学園寮へと運ぶ物でよろしいですかな?」
「うひょん? ――ええ、そうです。それらはマルスさんの研究素材として自室から運びこんできたものですから、くれぐれも落としたりしないで下さいと学園寮職員に通達してくださいな」
「畏まりました、ではそのように……」
中世のルネッサンス風城館に魔法の世界特有の要素を一つまみ入れた公爵邸は、石レンガ造りの建物に古大樹の幹が合体した不思議な作り……。
大きな幹の間にはテラスがあり、そこからの眺めはそれはそれは見事なものなのです。特に夜はマルス特性の光の魔蠟燭をもとに作られた暖かな光を出す魔法カンテラがお庭を彩り、小さな精霊たちがほのかに光を瞬かせる雰囲気と相まって王都でも屈指の邸宅なのでございますよ!
「すぅ~~~~~~~……っ! うん、旨い!」
「匂いをお嗅ぎになっても、マルス様のぽっちゃりお腹は膨れませんよ……っと」
そんな中、お庭の花々の甘い香りをお腹いっぱいに吸い込んだマルス。
しっかりと整えられた髭を蓄えた老紳士風の王都公爵家別邸つき執事にそう指示を出すと、ルシエルにつっこまれつつ自らも細々とした荷物を抱え自室へと向かいます。広い玄関を通り抜け、廊下の先の階段へと歩を進める二人。
彼のまるまるとした大根足の踏みつけに音一つ立てない頑丈な階段を昇れば、絵画や高そうな花瓶が置かれたギャラリーの奥にマルスの部屋があります。
公爵家という肩書は伊達ではなく、王都に構える別邸であれど貴族というものは見栄社会!立場にふさわしい外観や調度品や家具をそろえなければなりません。
故に、どこに見せても恥ずかしくない家具を取り揃えて御座います!
重厚な扉を片手で開け放ち、すたこらさっさと中へと入るマルス。
当然ごとくその後ろを荷物を抱えたルシエルが続き、部屋へと荷物を運び終えた二人は一階リビングへと降りていきます。そう、お昼御飯です。
「マルス様、ご昼食は私お手製のデリーム肉の香草焼き。それに野菜のサラダとパンにスープで御座います――ですから、キチンとお祈りを捧げてからお召し上がり下さいぽっちゃり野郎様」
そんないつもの小言を挟みつつ瞬く間に料理を平らげていく二人。速度の割に貴族としての作法を全く崩さず平らげていく姿は、もはや一種の芸術の域といっても過言ではないのです。
食後のデザートも紅茶に入れた角砂糖のごとく一瞬で平らげた二人は、公爵家領内から持ち込んだアリバ茶を楽しみつつ入学への日程を話あっております。
「――ルシエル、もう組み分けは決まっているそうですがマルスさん達はどの組へと配置されたんですか?」
そこでふと思い出したかのように自らの配属される組みを訪ねるマルス。もちろんそのお顔には食後の満足感とアリバ茶の香ばしい香りで至福の笑みが浮かんでおります。それはもうにっこにこです。
「……マルス様と私の組は確か数字でいえば2、科目専行で言えば魔動力学…所謂研究学科に配置されているはずです」
「お~、それは上々。マルスさんにとってはとても良き組み分け結果です!」
大好きな研究を思う存分できると喜ぶマルスを置いて、ルシエルはきゅっと一瞬口をつぐんだかと思えば物凄く言いずらそうな雰囲気で続きを話し出しました。
「マルス様、分かっておいでですか? 我らは武闘貴族のお家を背負っての研究学科なのです。恐らくは周りの貴族はマルス様に対して良くない感情を持つ、言ってしまえば反感を持つ貴族の御子息も多数居られるでしょう……特に――」
にこにこ顔から一転、石膏のように固まるマルスをよそにアリバ茶を一口含み喉を湿らせてから彼女の追撃は続きます。
「――レムレス王国第二王子、ダンガラム・ルメオ・リオ・レムレス殿下はその貴族達の筆頭としてマルス様の前に立ちはだかるでしょう」
にっこにこの石膏像が崩れ落ちる様なマルスを脇に置いて、ここは一つレムレス王国の現王の家族関係を整理しておこう!
まず、国王であるヴァルエス・ルメオ・ダリス・レムレス六世からご紹介致しましょう。
彼はレムレス王国を束ねる人族の男で、世間一般の風潮から一言で表すならば凡王という言葉がしっくりくる王であります。
彼も一応は昔取った杵柄。マルスの父と共に大大戦を生き抜き勝利を勝ち取った英雄なのですが……悲しきかな、時代は特に英雄を必要としていないが故に毎日お気楽に過ごしているうちに平平凡凡な王になってしまいましたとさ。
王妃は正妃であるヴィクトリア王妃がおり、王位継承権を持つ王子を二人産んでおられます。また側室であるマーベル様とも一男二女の子を成していて、計五名の後継者をもつご一家なのです。
そして、問題の殿下であるダンガラム殿下というお方はヴィクトリア王妃の次男にしてレムレス王室が誇る麒麟児!
イケメン! 長身! スポーツ万能で魔法も得意でなんでもござれな偉丈夫!
しかして、その類まれなる才能と実力とは裏腹にお前の物は俺の物、俺の物は俺の物!を実践する不良王子なので御座います!!
「――あ~、ダンガラム殿下ですか……何やらあまり思い出したくない名前ですねぇ」
「ですが、事実ですよマルス様……」
アリバ茶を啜りながら二人して溜息を吐く。どうやらお互いにダンガラム殿下には良い思い出が無い様で、食後のまったりとした雰囲気が暗雲立ち込める嵐の前というやつに取って代わられたみたいですね。
「「はぁ~……」」
◆
~レムレス王国・王都カカリス 王城~
「――父上! いよいよ明日からジャ・ヴァリアス学園に入学いたします! このダンガラム、必ずや学園主席の座を取り王族の威厳を彼の学園へと示して見せましょうぞ!」
玉座の間にて国王レムレス六世を前に大見得を切る偉丈夫。長身、イケメン、誠に美しい身体つきは正に古代の神々を写し取ったかの様……。
それのみならず身体じゅうから溢れる気品とその真っ赤な瞳に映るは情熱を秘めた力で周りの重鎮・家臣を魅了している男こそ、稀代の麒麟児ダンガラム・ルメオ・リオ・レムレス王子殿下なのです!!
「うむ、ダンガラムよ。よくぞ父である王の前で申した。なればその若さ溢れる鬼才を以って、王国中に轟く力を示すが良い」
「ははっ! 必ずや、父上たる王の御前に我が才覚をご覧に入れ王国民へと示して見せましょうぞ……むんっ! は~っははははははは!」
その暑苦しささえ感じる情熱に、思わず王子の背後から紅蓮の炎が立ち上ったかのような感覚を覚える一同。はたから見れば無駄にさえ思えるオーバーな身振り手振りで一礼をした王子は高らかに笑うのでした。
お疲れ様で御座いました。
どうぞ、また次回もお会いできます事を心より願っております。