始まりの始まり、最も強き人
始まりです
一昨日の話
勇者パーティは女二人男二人で構成されているため部屋を二つ取って別々にしてある。
そのうちもう一人の勇者シルヴァに話があると言われていたので、部屋にとどまっていた。
そして目の前にはシルヴァがいた。
「お前がいるだけで無駄にコストが掛かるから出て行ってくれないか?」
そう俺は告げたられた。
急にクビを言い渡されて一瞬フリーズしてしまった。
数秒後に何を言われたかやっと理解できた俺はシルヴァに食い下がった。
「何故クビなんだ! 力になれてない訳でも足手纏いになってる訳でもないじゃないか!」
「そうだな、だがお前はこのパーティーで一番貢献度が低いんだ。 それも断トツでな」
シルヴァは淡々と理由を語る。
少し嘲笑したようなニュアンスも混ぜつつ放たれる言葉をすべてかき消したくなる衝動を抑え、いったん受け止めた。
ここで叫ぶなり宿を飛び出すなりすればこれ以上聞かずに済むが、俺のプライドが決してそれを許さなかった。
長々と説明していたシルヴァが喋り終わったのを確認して俺は反論をぶつける。
「だが、俺の援護魔法やアサシンスキルが無いとバフもかからないし、索敵だってできないじゃないか」
「俺らはバフが掛かっていなくても強いし索敵する必要だってない。 そんな不必要なことしか出来ない奴をパーティに残しておくより火力がある賢者なり戦士を連れたほうがずっと役に立つ。 ……そろそろこの宿を出て行ってくれないかな、お前の分の宿代ぐらいは払ってあげるから……くくっ……」
「……わかった。 サヨナラだ。 二人にはよろしく伝えておいてくれ。 それじゃ」
俺はサッサとその場を去った。
それが俺が勇者パーティを追放された日の話。
俺は今、近くにあった小さな村の宿に泊まっていた。
あいつらいると思うとあの町は居心地がかなり悪い。
追放されてやることもなくなってしまったので、何かやることができるまではこの村から動くこともないだろう。
「はぁ、なんで俺が首なんかにされなきゃいけないんだよ。 何の才能もないのがダメなのかよ……」
俺は戦闘の適性が無かった。
この世界では子供が生まれると、能力を水晶を使って計測するのだ。
水晶は戦闘適正や魔法適正など様々な種類があるが、共通してるのが手をかざした時に光が強ければ強いほど強く輝くのだ。
もちろん俺も計測したが、俺が戦闘適正の水晶に手をかざした時、光るどころか闇に飲まれたように黒くなってしまった。
今までこの世界で事例の無い事らしく、常識と照らし合わせた結果あまりにも能力が無いと判断された。
実際に強い攻撃スキルや魔法は何も使えない。
だから俺は戦闘力のいらないアサシンスキルを磨いてきたのだが……
それゆえソロの冒険者になることも叶わないのだ。
「俺にも戦闘適正があれば……」
俺はこれ以上気が落ちないように散歩することにした。
ここは凄くのどかな村だし何があるわけでもないが気分転換にはなるだろう。
鍵をカウンターで預け俺は宿を出た。
宿のドアを開けるとお天道様が燦々と大地を照らしていた。
「相変わらずいい天気だな。 今日は天候も悪くならなさそうだからいつも行かない方に行ってみるか」
俺は村の裏の方に歩いて行った。
どうせこの村に危険などないだろうし奥の方にいても大丈夫だろう。
俺はどんどん森の奥の方に進んでいく。
人の気配はこれっぽっちも無く聴こえるのは動物達の発する音のみだった。
「さすがに村の裏の方だといっても人気が無さすぎないか? 怖いし帰るか……!?」
今まで歩いてきた道を振り返ると道が消えていた。
真っ直ぐ歩いてきた筈なのにどれだけ戻っても村が見えない。
「流石におかしい、でも何の気配もしなかったし……」
俺は少し焦りながら周りを見渡すとぽつんと立っている社を見つけた。
今までそこには何もなかったのに急に現れたのだ。
警戒しつつも近づいていく。
目の前まで来ると古代文字らしきものが記されていた。
「流石に古代文字は読めないな。 でも何の変哲もない社だしそんな大事なことも書いてないだろ」
俺は歩き疲れたのでその社に寄り掛かった。
すると社は光出したのだ。
「うおお!一体何なんだよ!」
俺はくらんだ眼を凝らすと女の子らしい影が見える。
全体的に10前半の少女のようだが胸は凄く立派だった。
「だ、誰だお前!」
「私はミーシャ。 この村の守り神です。 あなたがこの森に迷い込んできたのでここまで誘導しました」
「なんでわざわざ俺なんかを……?」
「それはあなたには才があるから。 私はこの世で一番強き人を探していました。 それがあなたです」
「俺が最強? 残念ながらそれは見当違いだぜ。 俺は水晶が真っ黒になってしまうくらいの筋金入りの戦闘適正0の役立たずだ」
俺は俯いた。
するとミーシャは俺の頬に手を伸ばし頭を上げさせてきた。
「そんなことありません。 この世界の人々は勘違いをしています。」
「勘違いだって?」
「はい、確かに適性が高いほど水晶は輝くのですが許容量を超えてしまうと真っ黒になって使い物にならなくなってしまうのです。」
「ということは……」
「はい、あなたは役立たずなんかじゃありません」
俺は涙腺が緩みそうになったが一つ引っかかった。
「でも俺はどんなに戦闘を学んでも強くなれなかったんだ……一番強いだなんて嘘だろ」
ミーシャは首を横に振った。
「あなたの力はあまりにも強力過ぎる故にあなた身体が抑え込んでいるのです。 私も手伝いますから自分の強さを信じて技を放ってみてください」
そう言ってミーシャは俺の肩に手を当てる。
すると体の中で何かが緩んだ気がした。
体の底から何かが漏れ出してきているのを感じるのだ。
「わ、わかった……炎弾っ!」
俺がそう唱えると炎弾を唱えたはずなのにありえないデカさの魔法陣が目の前に現れた。
炎弾は最下位の魔法で、弱い魔法は魔法陣は小さいもののはずなのだ。
そのはずなのにこのデカさは……
俺がその縁談を放つと視線の先に赤い砲弾がとてつもない速さで飛んでいき、遥か彼方に見える山にぶつかった瞬間山は跡形もなく消滅し、とてつもない音と衝撃波を飛ばしてきた。
「本当に戦闘魔法が使えた……で、でも俺が放とうとしたのは炎弾だったはずなのに……」
「それはあなたの魔力が強大だったからです。 なんせあなたは一番強気人なのですから」
俺は地面にへたり込み今までにないほどに泣いていた。
その涙が枯れるまで。
終わりです