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題23話 揚羽という名の蝶

       -23-



 笛は延々と続く回廊を見上げて溜め息をついた。


 この道は何処まで続いているのだろうか、ウンザリしながら、先々に待ち受ける苦難を想像していると、何処からとなく蝶が現れた。


 雨声が小さく頷く仕草から笛は曰くを感じ取った。

 どういうことだ? ヒラヒラと優雅に舞う黒い翅には覚えがあった。笛は、みすみす笙子を奪われてしまったあの日と、奪還を決意した夜に黒蝶を見ていた。


「これは……同じ蝶なのか。いや、でも……」


「ほう、もう揚羽には逢うておったか」


「アゲハ?」


「そうじゃ、この者の名は揚羽。先代の名付けにより生命を与えられた者である」


「命?」


「名付けは新たな命を付与する行為。命名と言うじゃろう」

 そのようなことも知らぬのか、と言い捨てて雨声は黒蝶の後を追った。

 笛は目で蝶を追った。――あの日、蒼樹ハルの骸の上を意味深長に飛ぶ姿は印象深く心に残されている。それでもあの時は、この蝶が雨に縁のある者であるとは露も思わなかった。


「どこに向かうのですか?」


 一行を誘うように先を行く黒蝶。雨声の背に従って一歩を踏み出すがどこか釈然としない。

 笛は振り返り、脱ぎ捨てになっている衣服を見つめた。


 得体の知れぬ何かに流されていく不安。せめて太刀だけでもと思うが、如何せん物が掴めぬではどうすることも出来ない。なんとかならないものだろうか。笛は辺りを見回した。


 その場には雨声と黒蝶の他には何者の気配も感じられなかった。無人の回廊ならば盗難の心配もなく置いていっても後で回収は可能だろうか、それとも雨声に頼んで運んでもらおうかと思案していると……。


「おお、そうであった」

 うっかりしていたと話すカエルが、ピョンピョンと軽快な足取りで笛の横を通り過ぎていく。


 雨声はセーラー服の中を物色して――あの手つき、どうにも不快だな。

 カエルは太刀を取り出すと品定めをするように眺めて一つ頷いた。


「これじゃこれじゃ、これを忘れたでは後で揚羽に叱られてしまうでの」


「すみません。雨声様、お荷物ですがよろしくお願い……、うわぁ」


 太刀を気遣ってくれたことに感謝して礼を口にしようとすると、雨声が徐に太刀を飲み込んだ。なんとも不気味な光景であった。


「そのように嫌な顔をするな、別に汚れたりはせぬ。このような長物を手に持って歩くことは出来ぬ。それは、わしの背丈を測って見ても分かろうというもの。それにのう、この様に両手が空く方が何かと便利が良いではないか」


 雨声が戸惑う笛に満悦の顔を向ける。

 ほらこのとおり、と自慢げにドヤ顔をみせ両手を挙げて振ってみせるがしかし、その行為はいただけないものだった。笛はカエルの手の中を見てキツく目を細める。


「おい、カエル、それはここに置いていけ」

 ドスをきかせて責めた。ハッとしたカエルがバツの悪そうな顔をしてそっと手を後ろに隠す。


「出せ、カエル」


「う、雨声さま、じゃ――」


「いいから、今しがた後ろに隠した物を前に出せ」


 睨み付けると、雨声は渋々両手を差し出す。笛は怒りの表情をそのままに、指さし衣服の元へ白の下着を戻すように指示した。


 舌打ちした雨声が、仕方ないとぼやきながら振り返る。その悲しげに丸めた背中に向かって笛は言葉を続けた。「飲み込むなよ」


 忠告すると、カエルの背がピクリと跳ねた。


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