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ネフィリム・グラン

『どういう事だ! 聞いてねぇぞ!』

『俺らは死にかけたんだぞ!』

 なんだ? 怒鳴り声が隣の部屋から聞こえてきた。

「受付で何かあったのかもしれない。行ってみよう」

「あ、ああ」

 俺達が受付カウンターへ向かうと三人の男と先程、受付を担当してくれたひ弱そうな青年が見えた。何か揉め事だろうか? あんまり関わりたくないな。

「すみません。何があったんですか?」

「ああ、レーヴェン様。いえ、これは……」

 青年が言い淀んでいた。何か言いづらいのか?

「なんだ、テメェ! 今、俺らが話してんだよ!」

「ギルドの人間だからって、偉そうにしやがって!」

 大変なクレーマーだな。あれは。

「受付の方が困っている。アナタ達のその言い様では相手を怖がらせるか困惑させてしまう。もう少し落ち──ふぐっ!」

「いや、申し訳ありません。なんでも御座いませんので、どうぞ続きを」

 厄介事は勘弁だぞ。

「ねぇ。おじさん達、いくつ?」

「はぁ? なんだ、このガキ」

 えっ? ラルムさん、まさかとは思うけど、喧嘩売ったりはしないですよね?

「話聞いてた? おじさん達、いくつ?」

「何言ってんだ? このガキ」

「ガキ相手に怒んなよ。俺は28だ」

「そんなことより、手が空いてる冒険者はいねぇのかよ!」

 確かこの世界だと15歳で成人だから20代後半ということは、俺の世界では、大体六十近いオッサン。ということになるな。

「いい年して、みっともないよ、おじさん達」

「はぁ! このガキが!?」

「ガキだからって調子に乗ってっと!」

 ああ、だから厄介事は止めてくれ……。

「ギルド法第5項……」

「「あぁ?」」

 ギルド法? なんだ、それ?

「ギルド法第五項。【ギルド内での争い事は禁ずる。これを破りし者には、制裁を与える事とす】ですね」

「あ、アンタは……ネフィリム・グラン」

 また新しい人が来たな。背丈が160後半くらいで銀色の髪を後ろで結っている女性がこちらに向かって歩いて来ている。

「ネフィリムさん。実は……」

 青年がグランという女性に話をしている。上司のようだ。

「ふぅん、なるほど。冒険者様達のお気持ちは分かりました」

「話が早ぇじゃねえか」

「っ! それなら!!」

「ですが、住民や冒険者様たちの通報により、仕事のランクを割り振りさせて頂いております。それにあの洞窟にそのような魔物を居た。という報告はありません。仮に迷い込んだとしても我々の責任とは言えません」

 まあ、この場所の魔物は弱いと聞いて実際行くと強い魔物がいると騙された! となるが、その情報も俺達冒険者や街の人かららしいから、なんともいえないな。

「おうおう。責任追及逃れか? こっちは死にかけたんだぜ。それなりの償いってやつをよ」

「どうやら、俺達を舐めてるようだぜ」

「そんなのどうでも良いんだよ! 今、手空いてる奴はいねぇのかよ!」 

 ああ、クレーマー集団か。この世界にもああいう輩がいるのか。面倒くさいな。

「償いですか? そうですね。では、お仲間の方も連れてきて頂けるなら、賠償は致しましょう」

「──っ!」

 なんだ? ネフィリムという女の一言で男達の顔色が変わった?

「お仲間は、どうなされました? まさかとは思いますが、洞窟に置いてきた。なんてことは御座いませんでしょう?」

「ち、違う! 俺は──」

 沈黙する二人に対し、一人だけ言い訳をしようとしている。仲間を見捨てるなんて最低だな。

「ギルド法第三項……」

「──っ!」

 またギルド法か。しかし、男達がまたビクつくとは。余程恐ろしい内容なのか。

「ギルド法第三項【非道な行為をした者、厳罰を処す】だよ」

「非道な行為って、仲間を見捨てた事か?」

 確かに非道な行為だな。

「それもあるけど。状況自体では仲間とはぐれてしまうことはあるんだ。だけど、彼は助けを請うでも無くギルドを恫喝した。これは立派な非道な行為だ」

「どうせ、その仲間ってのも無理矢理組み込んだって感じじゃない? あんなのと組みたい人間がいるとも思えないし。同じ穴のムジナじゃない限り」

 確かにその通りかもしれない。

「で、厳罰ってなにされるんだ?」

「そうだね。内容によるけど、今回の場合はライセンス剥奪かな?」

 そこまでなのか!? ま、まあ仲間を見捨てたしギルドを恫喝するなら、仕方ないかもしれないが。

「い、言い過ぎたよ。悪かった、だからライセンス剥奪は……」

「……もういい。仲間を助けに行ってくる」

 流石にライセンス剥奪は困るか。一人だけ助けに行くような事を言っているが、どうせ逃げるんだろうな。

「どうせ、逃げる気だよ。ああいう奴らは大体そうだと相場が決まってるからね」

「なんだって!? 仲間を助けず逃げるなんて……。それにギルドから逃げられるのか? 無理だと思うが」

 だって、地の果てまで追いかけるみたいな感じするし。

「そうだね。逃げられはしないよ。各支部に連絡が行くから。それに逃げれば賞金首になって晴れてお尋ね者だからね♪」

「「く、くそったれ!」」

 おいおい! 追い込まれて二人の男がネフィリムへと殴りかかった。最低な奴らだ。とりあえず止めないと。

「バカだね。あの人達」

「ああ、本当だね」

 2人とも何を言って──

「ぐぬぁ!」

「ギルド法第六項」

 二人の巨漢を腕二本でねじ伏せやがった。なんつう馬鹿力だよ。それとまたギルド法だよ。

「ギルド法第六項【ギルド員及びギルド長に危害を加えた。または加えると判断できた場合、ライセンスは剥奪す】だね」

「どのみちライセンス剥奪は免れなかったんだな」

 男達の行動はヤケになっての行動か。まあ、ライセンス剥奪になるならってやつだな。

「おい、ギルドは冷たい組織なのか。聞いてんかよ──っ!」

 殴りかからなかった男も、ついには兵士に捕らえられてるし。

「あーあ、せっかく謹慎処分で終わったのに……」

「「──っ!」」

 えっ? 謹慎処分で終わった? どういうことだ?

「厳罰といっても、今回の場合は三ヶ月の謹慎処分を言い渡すつもりでしたが、受け入れられないのなら、ライセンス剥奪も止む無しですね」

「て、てめぇ! このガキ、騙しやがったな!」

「このクソガキがっ!」

「騙す? 冒険者なら、ギルド法くらい分かってなくちゃ」

 俺もギルド法なんて初耳なんだが。一体どれくらいあるのか……。覚えきれるかな?

「ラルム。キミだって全部覚えていないだろう」

「ヘスト、せっかくの楽しみに水差さないで欲しいんだけど」

 なんて悪戯坊主だ。

「サトル。そもそもギルド法は冒険者が犯罪や人に迷惑をかけるなど好き勝手なことを禁ずる法なんだ。だから大半の冒険者はギルド法に抵触していない」

 ということは、良い事をしていれば、ギルド法に怯える必要はない。ということか。

「一体、どれくらいあるんだ。そのギルド法の条項」

「それは僕もわからないな。僕が覚えているのでも五十位はあるよ」

「ボクの勝ちだね。覚えているのでも百はあるよ」

 これ勝負なのか? それはそうと百は多いな。

「百はありません。大体六十程度です」

 それでも多い気がする。

「私はこの男達を正式に憲兵へ送り届けなくてはいけません。後のことは、ここにいるゲイルにお任せします。では」

 ネフィリムは男達を何処かへと連れて行った。恐らく先程言っていた憲兵に引き渡しに行ったのだろう。男の一人が何か叫んでるようだが、よく聞こえなかった。


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