謎の冒険者
「ふんふん。おっ、アブゥの攻撃をギリギリで躱してる! ふーん、なかなか頑張るね、あの人」
「何をしているかと思えば、君は……。旅人が魔物に襲われているのに見物とは、いい御身分だね。ラルム」
青色の軽装鎧を着ている金髪ショートのクソ野郎はヘスト。ヘスト・レーヴェン。冒険者という職業に就いているボクの相棒だ。という職業に就いているボクの相棒。
いつも口うるさい相棒。別に良いだろ? ボクの趣味をとやかく言われる筋合いはキミには無いと思うけど?
「……はぁ。君の趣味はともかく、今のままではいずれ体力が切れて攻撃を喰らう。それでも助けずに見物しているのかい?」
「あのさ。ボクが助けに入って彼を助けられると、ヘストは思ってるワケ?」
「うむ……まあ、やってみなければ分からないじゃないか。何事も挑戦だよ。……まあ、アブゥ相手に魔術師の君じゃ確かに難しいかもね」
ボクの相棒はホント、いつもながらこっちが言われたくない事をズケズケと言う。正論だけど、人の事なんて全く考えてない。自分が正しいと思った事を信じ、それを行動に移す。
それも悪気が無いから、より質が悪い。
「このまま見てるのは、僕の主義に反する。助けるけど、良いよね?」
「ダメって言っても行くクセに。良いよ、彼ももうそろそろヤバそうだし」
ボクだって、こんな所で人の死に様なんて見たくないし。そこまで冷たくない。
「じゃあ、行ってくる」
ヘストは駆け足で襲われている男の許へ向かっていった。
ホント、ヘストは変わってる。見知らぬ人間であろうと、困っている人がいれば、助けるんだから。自分の事など厭わずに。
◆
「しつこい……」
逃げ回るのも一苦労な上に疲労が限界を迎えそうだ。
『グォォォォォォ!』
うるさい……。静かにしてくれ、耳が痛い。
『グォォォォォォ!』
「うわっ!」
痛っ! 敵の攻撃は回避出来たが、勢い余って尻もち付いてしまった。立たないと……ヤバイ……殺される。
ああ、俺の人生ここまでか。短い人生だったな……。
『グォォォォォォ──グォ!』
──なにが起きた? 俺の目の前で突然、化け物が苦しみだした。
「キミ、大丈夫かい?」
「──えっ?」
俺の前へ颯爽と現れ、声を掛けてきたのは青年……いや、少年と言った方が正しいかもしれない。何故少年と思ったのかと言うと傷だらけの鎧に対して、端整な顔立ちには少し幼さを残していたからだ。誰に言ってるんだって? 読者諸君にだ。
何故なら、声掛けてきた人間がどんなのか分からないと、想像しづらいから。まあ、それは置いておいて。しかし、この少年は一体……。どこから現れた?
「何か聞きたそうな顔をしているね。話は後で聞くよ。まずは、この魔物を倒さないと──っね!」
『グォォォォォォ!』
化け物の怒り任せの引っ掻きを少年は悠々と躱し、右手に持つ長剣で斬り結んでいく。
斬られる度に化け物は苦痛の叫び声を上げていた。
「これは骨が折れそうだ。ラルム! 援護をお願いするよ」
「……はぁ、結局ボク頼りなのね。分かったよ。ヘスト、詠唱に入るから、そいつをこっちに近づけさせないでよ」
金髪の少年が仲間を呼んだ? 仲間も少年のようだ。ヘストと呼んだ少年が杖を構え何か呪文のようなものをつぶやき始めた。魔法使いらしき少年がラルムで、剣士らしき少年がヘストという名というのが二人の会話の中で分かった。
《火球の礫よ、我に仇なす者を撃ち貫け! ファイアストライク!》
これは呪文の詠唱か!? ラルムが杖を天に掲げると、こぶし大の火球が化け物へと落ちていき、当たる。
『グォォォォォォォ!』
化け物は毛に火が燃え移り、悶えていた。うわぁ、熱そう……。
「これでとどめだ!」
ヘストの剣が一閃──化け物に振り下ろされた。
直撃を受けた化け物は地面に倒れて動かなくなった。
死んだのだろうか?
「ふぅ。ああ、キミ。大丈夫だったかい? 怪我とかはしていない?」
「ヘスト。ボクが見てた限りだとアブゥの攻撃を全部回避してたから大丈夫だよ。まあ、次の攻撃で死んでたかもだけど」
ホントに九死に一生を得たとはこのことだろう。
「危ない所を助けていただき、ありがとうございます。恩に着ます」
「オンニキマス? よく分からないが喜んでくれたって事で良いんだね?」
「そうだと思うよ。礼言ってるし」
うーん、話が通じないな。日本語は通じるのに言葉の意味が通じていない。ここが外国なら日本語も通じないはずだし。日本語はある程度使えても意味までは分からない人達なのかもしれない
「ボクはヘスト・レーヴェン。冒険者として相棒のラルムと旅をしているんだ」
「やっほー。ヘストの紹介した通り、ボクがラルム。魔術師やってるよー」
うん、真面目とお気楽のコンビかな。この二人に敬語使っても意味なさそうだな。少し砕けた話し方で話してみよう。
「俺は悟だ。佐神原 悟」
「サガミハラ……サトル? 変わった名前だね。サトルなんて苗字も聞いたことが無い。出身は何処だい?」
俺の名前を聞いて、珍しそうな顔をするヘスト。
「出身? 出身は日本だけど」
「ニホン? どこだい、そこは?」
日本を知らない? やはり外国なのか、ここは。
「ボクも知らない。ボク達が知らないだけかもしれないけど、彼が何者か気になるところだよ」
何者と言われても、ただのサラリーマンですが……。
「とりあえず、アルクスへ移動しよう。ここに留まるのは得策じゃないからね」
「ヘストの意見に賛成。こんな所にアブゥがいるなら、まだ仲間が居てもおかしくないし、もしかしたらサルゥも居るかもしれないし」
あんな化け物がまだいるのか。それとさっき彼女が言ってたサルゥとかいうのもいるかもしれないのか。
「じゃあ、急ごう」
俺は、ヘスト達と共に一路、アルクスという所へ向けて歩を進めた。




