サガミハラ サトル
「──くん! この書類を明日までに提出しなさい!」
俺の前には山積みになった書類の束。こんな量、今日までに1人でなんて無理だろ。
「──くん、私の話を聞いているのか?」
「あっ、はい。えっと、この量を1人ででしょうか?」
いや、無理なんですけど。
「これだから若い者は……いいかね。私が新人の頃は──」
……また始まった。入社から半年、部長の小言は長く最大でも1時間は掛かる。
「──というわけで。君、聞いているのかね?」
「は、はい! 部長は流石です。私も部長のようになれるよう頑張ります!」
嘘だ。こんな小言魔神のようにはなりたくない。
というより正直言って、こんな会社辞めたい。
俺は佐神原 悟。半年前に大学を卒業し、この会社に入社した。最初は一生懸命頑張ろうと意気込んでいたが、この半年間残業続きで分からない所は聞いても見て学べとの一点張り。休暇を取ろうとしたが、そんなもの最初から存在していないような口ぶりで休暇を取りたいと部長に言えば、「これだから最近の若い者は」と小言が始まる。
正直言って、この会社はブラック企業だ。早く辞めないと会社に殺される。
「まあ、頑張り給え」
「はい!」
豚みたいに肥えた形をしているくせに、態度だけは一流だな。ちょっとおだてるとすぐ調子に乗る。
先輩達も仕事を手伝ってくれれば良いのに我先にと帰って行く。
薄情者達め……。さて、早く終わらせないと明日あの豚が来るまでには終わらない。
数時間後……。
「……眠い。今何時だ?」
スマホで時間を見ると、液晶画面の時刻が映し出されていた。
「げっ! もう9時過ぎてるし!」
最悪だよ。もう半日過ぎてんじゃん。
「──ん? なんだ、通知が来てる?」
新着ニュースが画面の上で、こっそり主張していた。開いてみよう。
[新作VRオンラインゲーム 魔王創世記。システムの不具合を故意に隠したか?]
魔王創世記? そういえば、そんなオンラインゲームが出るって聞いたな。確か、プレイヤーは魔王になって、たまに来る他のプレイヤーやNPCである冒険者とか倒しながら、魔界を統一していくゲームだったな。つい最近β版テストまで問題なく終わり、本格稼働したはず。そうニュースでやってたし。
何か見つかりにくいバグでも残っていたのだろうか? 素人には計り知れないけど。
[先日、発売した当ゲームでは、当初ゲームを始めたプレイヤーは問題なくゲームをプレイしていた。だが数時間後に一部で目覚めないという事象が発生した。とログアウト出来たプレイヤーは証言してくれた。現在、数名のプレイヤーが意識不明であり、病院に入院しているとのこと。警察は事故の線で捜査を進めている。]
まあ、これはゲーム会社のミスだろう。マスコミに徹底的に叩かれて、この会社は終わりかな。
「ふぁぁ。ね、眠い……仕方ない。目覚ましにコーヒーでも買ってくるか」
ちなみに俺は今、四階にいる。コーヒーが売っている自動販売機は一階にある。何故、四階には無いのか。それにエレベーターもないから階段での移動だし……最悪だ。
俺は階段に足を──あれ? 階段が前に……。
ううっ……足を踏み外したのか。身体が痛い……誰か助けを……くそっ……忘れてた。今の時間は誰も居ない。このまま俺はこんな所で……し……。